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4-18 会談の目的

「聞かせてもらえるかな」


 ガロンの問いかけに、俺は言葉を選びながら自分の考えを訥々と語りだした。


「今回の戦いの中で俺に足りない、ないしはもっと伸ばすべきと感じたのはスピードです」

「ほう」

「ケルベロス相手になら、仲間たち込みの戦力で戦えば十二分にやれるだけの力が現時点の俺達にはある。その実感はたしかに嬉しいことです。

 ただ、これからの敵がさらに強くなったとして、俺が一番対応に困るのはなんだろうと考えたときに浮かんでくるのは相手の素早さが上がることなんですよね」

「相手の攻撃力や防御力とか、他にもたくさんの要素がある中でかい?」


 ガロンは静かに俺の言葉を咀嚼しながら会話を続ける。


「はい。それらももちろん厄介ですけど、もし俺の目......動体視力を超えてくる相手が出てきたときは、なす術がないんじゃないかって」


 俺は知らず渋面を浮かべていた。

 まだ見ぬ敵のことを考えている風に装って話してはいるものの、脳裏にはカインにいいように遊ばれ、痛めつけられた苦い記憶がありありと浮かんでいたからだ。

 カインは難しい顔をして返事を返さない。


「目で負えないということは知覚すらできないということです。

 そうなってしまうと攻撃とか防御とか、そんな次元の話じゃなくなってくる。

 だから、俺のなかで喫緊の課題は自分自身の敏捷性もそうなんですけど、それら全てをひっくるめてのスピードを高めることが必須だと感じてるんです」


 ガロンは俺が口を閉ざしてからしばらく考え込む様子を浮かべたあと、静かに口を開いた。


「ここまで早いか......」

「えっ?」


 先ほどまで自分としては”遅い”ということに焦点を当てて話していたつもりだったのに、それと真逆のフレーズがガロンの口から出たことで呆けた声が口から洩れた。

 ガロンの顔を見れば、苦笑のような表情を浮かべている。

 俺の怪訝な表情に気づいたのか、ガロンは小さく笑いながら語りかける。


「いやすまない。君は本当に面白いなと思ってね。

 その思考、感覚に至るのは僕の...いや、七聖天の中では少なくとも半年後くらいになるだろうと思っていたからね。まさかその半分以下の速度でその境地に至ってしまうとは......。

 僕はこれまでも君を高く買っていたつもりだったけど、それでもまだ見込み違いをしていたらしい。もちろん君にとってはいい意味でだ」

「......はぁ」


 予期せぬ手放しの称賛に俺はたどたどしい返事しか返せなかった。


「君の言うとおりだ。ある一定の壁を越えた強者の領域に踏み入れるとき、最も苦労するのがあらゆる”速さ”の壁なんだよ。

 相手の攻撃、動作、思考それらについていけない。仮に頭がついて行ったとしても、自分の体が追い付いてくれるかは別問題だ。だからといって、それらを向上させるための能力や方法っていうのはなかなか簡単には自分の掌に転がり込んではくれないしね」

「.......」

「ただ、こと君たちに関してはその心配は杞憂なんじゃないかな」

「えっ?」

「確かに”速さ”というのは凄まじい脅威だ。加えてなかなか飛躍的に伸ばすというのは難しい。だけど、こと”速さ”ということに関しては、君たちの得ている恩寵はそれこそ最上位のものだからね」

「”速さ”についても?」


 俺の問いかけにガロンは確信を込めた表情で深く首肯して答えた。


「あぁ。”剣聖”、”イージス”、”アークロード”、”スペルマスター”。君たちのほとんどに発現したこれらの恩寵はそれほどまでに途轍もなく強力で、なおかつ稀有なものなんだよ。

 なんていのかな......一言でいえば上限がない。その力の上昇は青天井なんだ」

「それって、言ってしまえば死ぬまで強くなり続けることができるってことですか?」

「う~ん、そうとも言えるし、言えないともいえるね。

 恩寵に関して言えば、成長し続けることは可能だと考えられている。ただ、人間には老いという避けようのない衰えがあるからね。肉体的なピークを過ぎてしまえば、恩寵の成長分と衰えの差引の勝負になってくるかな」

「なるほど......。たしかに俺達の恩寵がとんでもないっているのは分かりました。

 じゃあ、俺の心配も時間の問題で解消されるっていることですかね?」

「僕らの認識ではそうだね」


 ガロンの解説は俺の不安に対してかなり明るい希望だ。

 俺はアークロードの恩寵を持っているし、肉体的なピークも俺達高校生には遥か先の話だろう。

 ただ、それは着実な成長に関しての話である。俺達には2年間というタイムリミットがあり、しかもそれは”最長”という条件付きだ。

 俺の中で、今抱いている課題に関しては飛躍的な上昇という突破条件がついていた。

 俺の中ではある程度打開のめどがついていた訳ではあるのだが、俺はガロンの意図している能力の向上の方法が気になったのでそこに切り込むことにする。


「ちなみに、どうやればあらゆる速度っていうのは伸ばすことができるんですか?」

「簡単にいってしまえば、より熟達した使い手から手ほどきを受けることだね。結局泥臭いけどこれが最善最速の手段になる。こればっかりは僕には説得力のある説明はできないけれど、恩寵が次第に自分を高めていってくれるのさ。

 そして、その恩寵の能力が、素質が強ければ強いほど、そうして至れる高さはより上だ」


 ガロンは心配しないで大丈夫と伝えるようにニッコリと穏やかな笑みを俺へと向けた。

 もちろん、ガロンの答えは俺達にとって喜ばしい報せだ。

 ただ、そこには一つの条件がつく。

 俺の懸念に感づいたのか、ガロンは俺の考えを聞き出そうと問いかけてきた。


「浮かない顔だね。まだ不安が払しょくされないのかな?」

「そう......ですね。ガロンさんの話は確かに嬉しい情報です。だけど、それは自分たちのその時の実力に釣り合う敵しか出てこない状況に限られますよね?

 一足飛びに自分よりも上位の存在が出てきたときにはなす術がない」

「確かに。君の言うとおりだ。でもだからこそ、僕達がいるんだよ。君たちの現状の能力を常に把握し、それに釣り合うだけの敵にぶつけて地力を上げてもらう。一人も欠けてほしくはないからね。

 生憎君とヒナ君......だったかな。君たちは僕達の下から離れて行動しているから、そうした懸念が出てきたんだろうね。もし君たちがこれから先再び僕達の下で研鑽をつむことになれば、その心配を抱く必要はなくなるよ?」


 その言葉を聞いて、俺はこの会談の大きな狙いを悟った。

 ガロンは俺達に再び王都で訓練を積むことを提案したかったのだ。

 この世界に転移した者達の中で、実力的に頭ひとつ抜け出た俺を再度監督下におくことで、死亡というリスクを減らそうと考えているのだろう。


 彼らなら、相談すればアルとエルザもひっくるめて俺達の面倒を見てくれるだろう。

 この国の最高戦力達から受けられる指導というのはもちろん魅力的だし、安全面でもガロンの言うとおりこれまで俺達だけで旅をするよりもはるかに安心できる。

 ただ......ただ、アルカナという敵の最高戦力と一戦交えた感覚として、俺は王都での教育・指導というのがひどく過保護に感じられてならなかった。


「難しい顔をしているね。僕達では不足かな?」

「いえ、そういう訳じゃないんです」

「そうかい? じゃあ僕からの提案にいい返事が返ってこない理由を教えてもらってもいいかな? 

 あ、もちろん問い詰めている訳じゃないよ? 僕は君のことをかなり買ってる。言ってしまえば君に一番期待していると言っていい。他の子たちには内緒だよ?」

「え、えぇ」

「君は頭もいいと思ってる。普段の考え方も、戦闘中の状況判断から見てもそこに疑う余地はない。

 だからこそ、僕からの提案に乗ってこない君の考えに興味があるんだ。教えてくれるかい?」


 雰囲気を和ませながらそう嘯くガロンにたじたじとしながら返事を返す。

 

「あぁ~そうそう、僕たちと出会ったことは誰にも口外しないこと」


 カインがダンジョンでせせら笑いながら残した言葉が脳裏に響くなか、俺は慎重に言葉を選びながら口を開いた。


「ガロンさんは、俺達の最終目標である魔王について何か知ってますか?」


 俺がそう問いかけると、ガロンは俺に再度真剣な表情を向けて相対するのだった。

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