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星に願いを~ものぐさ勇者の異世界冒険譚~  作者: 葉月幸村
第一章 転生、そして旅立ち
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1-14 初成功と装備

 連携を磨く訓練が始まってから数日。

 後方支援組になった俺は、パーティ組、遊撃組と別れて、個人で魔法の修練に取り組んでいる。


 エリィからのヒントを得てから、同時に異なる性質変化を始めたが、この数日でかなりうまくいっている。

 はじめは両方の性質変化がおろそかになり、円盤が歪んだり、糸が細くならなかったりしたが、回を重ねるごとにそういった失敗は改善されていった。


 魔力の合体も問題なく出来るようになり、残るは発動のみ。

 無我夢中で愛姫を呼び出したときは出来たけど、実際に転移魔法を使うとなると、言霊を使う必要がありそうだ。


 エリィに再びコツを聞いたが、通常の魔法と違い、恩寵による個人差が大きい魔法においては、自分にしっくりくる言霊を用いた方が効果は高まるとのことだったので、自分で考えることにした。


(......とはいったものの、どんな風にやるもんかなぁ)


 参考までにエリィの発動時の言霊を聞いてみると、


『伸びよ、繋げよ。其は我を導く標なり。開け。其は我を誘う扉なり。我が魔力を以て現界し、我を遥かなる地へと誘いたまえ』


 らしい。


 えっと.....あれだ。うん。超恥ずかしい。

 こんなこっ恥ずかしいセリフを長々と垂乳根ないと発動しないの?

 俺はどっかの爆裂娘じゃないんだが......。


 それに、こんなに長いと安全な場所ならいざ知らず、突発的な事態に対処できないよな......。

 まだ発動準備にも短縮の余地がいくらでもある中で、こんなに長い言霊を使っていては使い勝手が悪すぎる。


(こういう魔法ってファンタジー世界じゃなんていうかな......。

 テレポーテーション? テレポート?  瞬間移動......は違うな。

 待てよ? 扉......扉......ゲートか!)


 ゲートという言葉が思い浮かんだ時、自分の中ですごい納得感があった。

 自分にしっくりくる言霊のほうが効果が高まるなら、中二病全開の言霊よりは、こっちの方が余程うまくいきそうだ。


 目を閉じて魔力を操作し、二つの円盤の間に糸状の魔力を繋ぐ。

 そして、魔力の糸を伸長させ、10メートルほど離れた木の傍で止める。

 呼吸を落ち着けて集中を高めてから、自分の心に浮かんだ言葉を紡ぐ。


『開け。ゲート』


 シンプルな言葉だが、その言葉の意味と効果をしっかりと思い浮かべながら発声した。

 すると、魔力が淡い光を放ち始める。


 俺は覚悟を決めて、自分の傍にある輝く円盤状の魔力へと飛び込んだ。


 一瞬浮遊感を感じ、気づくと景色が少し変わっている。

 背後に目をやると、自分がさっきまでいた木立が目に入り、自分が無事に転移できたことを確認できた。


「ふぅ。ようやくきちんと発動できた......」


 小さな達成感が湧き上がってくるのを感じ、グッと握りこぶしをつくる。

 ひとまず、転移魔法を使用することができた。言霊もあれで問題ないだろう。

 思ったよりも少ない文字数で発動できたのは、異世界人としての補正も入ってるんだろう。


 そんなことを考えながら、しばらく先ほどの流れを頭のなかでおさらいし、反復練習を繰り返す。

 次第に距離を伸ばしたり、ゲートの大きさを変えたりと試行錯誤を繰り返しながら、自分の魔法への理解を深めていった。



「にいちゃんすっごおぉ~い!!」


 その夜、いつものように部屋で愛姫と戯れていた俺は、日中に習得した転移魔法をお披露目した。

 俺が扉のそばから愛姫の真横に転移すると、愛姫は目をパチクリとさせて驚いたあと、今度はキラキラと輝かせて興奮気味に飛びついてきた。


「なに? なに今の? 瞬間移動? 兄ちゃんが消えたと思ったら真横におった!!」

「転移魔法な。このゲートをくぐると、別の場所に移動できるんだよ」

「愛姫も! 愛姫もやってみたい!!」

「魔法の発動は無理だろうけど、ゲートをくぐるのは出来ると思うぞ?」

「やる! くぐる!!」

「じゃあちょっと待ってな......『開け、ゲート』」


 愛姫の正面にゲートを開く。


「ほら、入ってみ」

「アイアイサ~♪」


 ぴょーん


 満面の笑みを浮かべてゲートに飛び込む愛姫。

 飛び込んだかと思うと、数m離れたベッドの上にぽふっと着地。

 自分がベッドの上に降り立ったのを確認すると、愛姫はベッドの上を跳ね回る。


「うわあぁ~!! 気づいたらベッドの上におった~!! なんこれすっごおぉ~い!! にいちゃん! もう一回!!」

「はいはい。『開け、ゲート』」

「それ~」


 再びベッドの上からゲートに飛び込むと、元いた俺の隣に着地する。

 隣の俺に笑顔を爆発させながら飛びついてきた。


「にいちゃん! これ、すっごい面白いよ!! もっとやって!!」

「はいはい」


 あまりに楽しそうな笑顔にほだされて、愛姫が疲れ果てるまで転移魔法アトラクションをやることになり、愛姫が風呂に入って眠るころには、立て続けに集中して魔法を使ったことでクタクタになってしまっていたのだった。



 連携の訓練が始まってから1週間。ひたすら転移魔法の操作をしていた俺は、当初に比べてかなり魔力の操作がスムーズになっていた。

 魔力の放出や維持はほとんど無意識でこなせることになり、発動時間も格段に短縮できた。


 使っているうちに、転移魔法が思いの外使い勝手の良い魔法であることが分かってきて、今はひたすらに試行錯誤を繰り返している。


 今日はどんな練習しようかな......。

 そんなことを考えながら朝食をとっていると、


「皆さん、少しよろしいでしょうか」


 エリィが立ち上がって声を上げる。

 注目が自分に集まったのを確認すると、ニッコリと笑顔を浮かべて語り始める。


「パーティを組んでの連携を高める訓練を初めてちょうど1週間になりました。ガイアスさん達からお話を伺ったところ、基本的な連携は問題なくこなせるということで、いよいよ明日の訓練でオドルの森に向かうことになります」


 談笑していた先ほどとは打って変わって、周囲の顔が引き締まっていく。


「皆さんのおかげで予定はどんどん前倒しで進行することができています。それに、皆さんの戦力であればオドルの森に住む魔獣に問題なく対処できます。自信を持ってください。

 それと、今日は訓練はお休みして、皆様の装備を整えます。万全の準備を整えて明日を迎えましょう」


 そういって言葉を切ると、にわかに広間がざわつきだす。訓練が休みということへの喜びと、装備を整えるということへの期待感からだろう。


 どんな装備になるだろう......

 魔法使いだから鎧ってよりは法衣とかローブってとこかな。

 そんなことを考えながら残った食事を食べ、一時間後に練習棟の大きめの室内で集合ということで解散となった。

 

 

 朝食後、しばらくしてから指定の場所に集合すると、エリィとベリエッタさん以下のメイドたちがずらりと待機していた。


「皆さん、お集まりになったようですね。それでは参りましょう」


 エリィが声をかけ歩き出すと、その後ろに俺たち、メイドさんといった順に行動が始まる。

 愛姫は俺がここに向かう前に、


「ルミアナちゃんと遊んでくる~」


 といって走り去っていった。


 しばらく歩き、一階奥のこれまでに使ったことのない部屋の前に到着した。

 エリィに続いて室内に入ると、そこには様々な装備がズラリ。

 重装兵が着用するようなフルプレートメイルや、身軽に動けそうなレザーアーマー、手甲、足甲、各種武器などなど。


 種類の豊富さに全員が視線をキョロキョロと動かし、興味津々といった表情を浮かべている。

 

「こちらに、これからしばらく皆様に使っていただく武具・防具をご用意させていただきました。

 これらは我が国の騎士たちに支給される装備でございます。それぞれ、この国の職人の技術の粋をかけて制作されています。

 どれにも支援魔法が付与されており、戦闘を助けてくれるようになっていますよ。


 もちろん、いずれは皆様一人一人に、オーダーメイドの装備を作ってお渡ししますが、それには相応の時間がかかりますし、自分の戦闘スタイルや嗜好といったものは実際に装備を使い、戦闘を経験していく中で発見されるものです。


 ですから、これからしばらくはこちらの装備の中から選んで使っていただいて、自分の、自分だけの装備の構想を練ってください。

 では、お付きの者がお手伝いしますので、それぞれどの装備にするか決めてくださいませ」


 そういうと、エリィの後ろに控えていたメイドさんたちが、それぞれの仕える生徒の側に歩み寄り、装備選びがスタートして、にわかに室内が騒がしくなった。


「では不二様も装備を選びに参りましょう」

「あ、はい。よろしくお願いします......。といっても、細かいところは分からないので、教えてもらえるとありがたいんですけど......」

「もちろんでございます。こちらにある装備の用途、効果などはすべて把握しておりますのでご安心くださいませ。それでは武具と防具のどちらからお選びになりますか?」

「あぁえぇっと......じゃあ武具で」

「かしこまりました。ではこちらに......」


 それからメイドさんに色々質問しながら装備を選択し、武具としては小ぶりな杖を。装備は軽装のレザーアーマーの上から黒いローブを羽織ることにした。


 杖は、全長約40㎝、太さは直径1.5㎝くらいの、片手で簡単に操れるものだ。

 付与された魔法の効果として、魔力操作へのアシスト機能がついているらしい。戦闘に参加する魔法職の多くは、いわゆるファンタジー世界の魔法使いが持っているような大ぶりな杖を選んだ者が多いようだ。

 あっちには、魔法発動に使用する魔力の節約や、使用する魔法の威力が向上する効果があるらしい。


 そちらも十分魅力的だったけど、俺は機動性を重視した。

 表向きは転移魔法の使い手だが、本来の恩寵の力があれば、機動性を選択した方が幅が広がると考えたからだ。

 自分の選んだ武器を眺めながらふと、もといた世界で空前のベストセラーになった魔法使いの小説が思い浮かぶ。


「エクスペリ・○ームズ ○器よ去れ」

「? どうなさいましたか?」

「あっいや、なんでもないです」


 うっかり小声で呪文を口ずさんでメイドさんに聞こえてしまった。危ない危ない。

 でも一度言ってみたかったんだよな~あれ。


 防具の方は、レザーアーマーが物理ダメージの軽減、黒衣が魔法ダメージの軽減の効果を持つ。装備しても軽装なので、動く際に邪魔にもならない。


 こうして無事に装備が決まった。

 他のやつらも大体決まったようで、着用していた装備を外して元の服装に戻る。


「無事に決まったようで何よりです。お選びになった装備はこれより皆様のものですよ。

 なお、武器の刃こぼれなども、城内の鍛冶師たちが修理してくれますので、お気軽にお申し付けください。

 明日はいよいよオドルの森にて実戦です。

 朝食後、連携の訓練を行っていた外の訓練場に集合してください。

 それでは本日はこれにて解散といたします。明日に備えてお休みになり、鋭気を養ってくださいませ」


 こうして、もらった装備を抱えて自分の部屋に戻る。

 部屋に戻って杖を持って魔法を使ってみると、これまで何もなしで魔法を使っていたよりも、はるかに性質変化がやりやすくなったことに驚きを覚えた。

 性質変化のスピードも格段に速くなり、ゲートの展開にかかる時間も短縮されている。


(これはすごいな......これなら)


 せっかくの休日。

 本来はものぐさな俺だが、今の俺にはこの世界から愛姫と一緒に元いた世界に帰るという目的がある。そのためにはここでサボるわけにはいかない。

 

 やれやれと首を振り、俺はこれまで試してうまくいかなかったことを、杖を使って再度試すしてみる。

 杖の効果はてきめんで、転移魔法の有用性をより実感した俺は、確かな手応えとともに一日を終えるのだった。

ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。

活動報告を更新しましたので、よろしければご覧くださいませ。


投稿3日目の更新は以上です。

明日も午前、夕方、夜に1話ずつ更新予定です。



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