4-16 王女との晩餐
1ヶ月ぶりの更新となります。
長らく更新が止まってしまい大変申し訳ございませんでした。
これから更新を再開いたしますので、改めてよろしくお願いいたします。
なお、本日(2018/3/12)の活動報告にてイラストの制作についても触れておりますので、ぜひそちらもご覧くださいませ。第2章の冒頭には新たな表紙イラストも登場しております。
エリィの言葉に広間にいる一同がざわついていた。
ケルベロスが本来俺達の挑んだダンジョンにいるはずのない魔物ということにはもちろん俺達も驚いたが、それとはまた別の驚きが含まれているような感じだ。
エリィもしまったという表情を浮かべている。どうにも釈然としないので、俺は抱いた疑問をストレートに口にすることにした。
「なぁ、ケルベロスってプレートでいうとどこに相当するんだ?」
「......黒ですね」
「......あぁ、なるほど」
エリィの返答で俺はこの場の空気の意味を理解した。
以前、エリィとビルス一味を打倒するための布石を打つために相談をした際(2-27参照)、クラスメイト達が挑んでいるダンジョンのボスがコカトリスという話を聞いていた。
確かあのとき聞いた話だと、コカトリスの強さが黒プレートに相当するという話だった。
しかも、それはパーティ単位の話であり、ソロで挑むのならばさらにそこから一つ上の銅プレートに相当する実力がないと厳しいと聞いていたはずだ。
要は、俺達はクラスメイト達が挑んでいるダンジョンも制覇出来る可能性を十分に持っているということになる。周囲の反応を見る感じ、まだ攻略には至っていないようだし、先ほどの空気はそこから起因するものだったのだろう。
「だけど、コカトリスは石化魔法や毒といった厄介な攻撃手段を持ってるって聞いてたし、もっと厄介なんじゃないのか?」
「確かに、そういった厄介さで言えばコカトリスの方が上でしょう。しかし、ケルベロスはそういった能力がなくとも、3つの頭それぞれから繰り出される攻撃力、機動力といった点で勝ります。
差支えなければどのように討伐されたのか詳しくお聞かせいただけますか?」
俺はエリィの言葉を受け、ケルベロスとの対戦の経緯を伝えるのだった。
エルザとアルがそれぞれ一つの首を仕留め、最後に俺が泥沼を生み出して動きを封じてとどめを刺す。
要はこうなるんだが、詳しくと言われたので思い出せる限り俺が見た戦闘の流れを聞かせたつもりだ。
クラスメイトの連中はアルとエルザに交互に視線を送っている。
特にアルが一つの首を仕留めたという事実が信じられないといったようすだ。
といっても、依然の模擬戦でアルの実力は目の当りにしているわけだし、改めて目の前のかわいらしいちびっ子が自分たちに匹敵、いや、自分たちを凌ぐ戦闘能力を有しているという事実に改めて驚愕しているという感じだ。
エリィも当然それらの事実に対しても驚いていたのだが、他の点により驚いているようだった。
「不二さん......」
「ん? 思い出せる限りのことは話したんだけど、他にも質問あるのか?」
「いえ、大体のことは把握できたんですが、私の知っている不二さんは確か火の属性をお持ちだったはずなのですが......」
「あぁ、”複数持ち《マルチプル》”のおかげかな、他の属性も使えるみたいだ」
「それは5属性全て......ということですか?」
「そうなるな」
俺の返事にエリィは額に指をあてて瞑目してしまった。
どうやら属性も恩寵同様に複数種類を扱えるのは相当にレアなことみたいだな。
ダンジョンに旅立つ前に参加したクラスメイトとの模擬戦で風の魔法は軽く見せたはずだが、全ての属性が使えるとなるとさすがに「へぇ、そうなんだ」 とスルーしかねるらしい。
事情を説明するとなると隠しようがないのでいかんともしがたかったのだが、今後は出来る限り明かさないほうがよさそうだ。
エリィは色んな思いをぐっと飲み込むような素振りを見せたあと、ふぅっと小さく息を吐いてから口を開く。
「不二さんたちには驚かされてばかりですね。このことが明るみになれば、明日にでも不二さんの元に王立魔導学術院の研究者が殺到してきそうです」
「王立魔導学術院てのが何なのかってのは聞かないでおくよ。ついでに出来ればこのことも伏せといてくれないか? いや、伏せてくださいお願いします。そんな面倒そうなイベントは全力で回避したいので」
俺の悲壮な顔色が可笑しかったのか、エリィはくっくと笑みをこぼす。
「研究者に伝えるというのは冗談です。いつも驚かされてばかりなので少し仕返しでもしようかと」
「冗談にしてもタチが悪いよ。俺をモルモットにしようだなんて」
「すみません。とはいえ、誰にも言わないというのは難しいと思います。七聖天の方々や、ごく一部の重鎮の方々のお耳には入ることになるかと思います。皆さんの能力の向上を把握するのは、この国の未来の上でも極めて重要なことですから」
「それはまぁ......仕方ないか」
俺もさすがにその申し出を止めることもできずに不承不承納得する。
まぁ明日俺の眼前に、目を輝かせた研究者がやってこないだけでよしとしよう。
どうせいずれ広まることになるんだろうしな。人の口に戸は立てられない。
俺がため息をこぼしていると、エリィが真顔に戻って問いかけてくる。
「お話は変わりますが、ダンジョンの核はお持ち帰りになられましたか?」
「あぁ。もって帰ってきたけど? ひょっとして国に納めないといけないとか?」
俺の問いかけにエリィはいえいえと頭を振って否定した。
「いえ、もちろんそうしてくださるのは有難いことではあります。ですが、それは強制ではありません。
不二さん達のほうで自由にお使いになっていただいて構いませんよ。
売却するもよし、素材として使うもよしです。いかに歴史の浅いダンジョンとはいえ、核となればその価値は破格です。
今後のためにぜひ有効活用なさってください」
「そっか。じゃあお言葉に甘えることにするよ」
自由に使ってもいいということであれば、後でみんなと用途について相談することにしよう。
資金については現状特に困っているというわけでもないし、俺としては素材としての用途として使いたいところかな。
エリィへの報告が終わりそんな思案にふけっているうちに、久々の王都での夕食はお開きになった。
自室に戻っていくクラスメイトに倣って席を立つ。
そんな俺の背後にエリィが思い出したように声をかけてきた。
「そうだ、忘れていました」
「? どうしたんだ?」
「皆さんがお戻りになったら、ガロンさんがぜひ不二さんとお話しになりたいとおっしゃっていました」
「ガロンさんが? 用件とかは知ってるか?」
「いえ、ですが込み入った話ではないと思いますよ。おそらく私のように皆さんの旅のことをお聞きになりたいんだと思います」
「そうか。じゃあいつでも大丈夫って伝えておいてくれないか?」
「わかりました」
「じゃあ今日はこれで」
「はい、おやすみなさい」
やり取りを終えて今度こそ広間を出る。
先を歩いていた陽和たちに追いつくと、先ほどのエリィとのやり取りについて質問がきた。
「ねぇ、さっきのは何の話だったの?」
「あぁ、なんかガロンさんが俺と話があるんだってさ。エリィみたいに今回の旅のことを個別に聞きたいらしい」
「ふ~ん、伊織ってあの人に気に入られてるわよね」
「そんな気はするな。まぁ俺も聞きたいことがあるし、丁度いいんじゃないか。数日は疲れを癒すために休むつもりだったし」
そんな会話をしながら場内を歩き、それぞれの部屋へと別れた。
部屋で愛姫とくつろいでいるとお付きのメイドさんから、明日の昼食でガロンさんとの会食がセッティングされたと聞かされた。俺は了承を伝えると、ふかふかのベッドの上で久々の優雅な睡眠を心から楽しむのだった。