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4-15 帰還と報告


 かくして俺達は引き続きパーティを組んで行動を共にすることになった。

 長い一日を終え、俺達は横になっている。

 すでに俺以外の全員は眠りについたようだ。

 明かりのない室内に、台所の小窓から差し込む月明かりが微かに差し込んでいた。


 俺は目を閉じながら、今日一日のこと、そしてこれからのことを考える。

 幸いにもみんなついて来てくれることになった。

 だけど、状況自体は何も好転してはいないのだ。

 またいつアルカナの連中と出くわすとも限らず、手ごわい魔獣が立ちはだかるかも分からないなか、俺の戦力アップは喫緊の課題となっていた。


 俺が特に感じているのが、地力の向上だ。

 一朝一夕にどうにもならず、それでいてカインとの戦闘で絶望的なまでに差を痛感した部分。

 膂力、耐久力など挙げればキリがないが、俺が最も差を感じたのは”スピード”だ。


 魔法を発動するまでにかかるスピード、魔法自体のスピード、相手のスピードについていける動体視力、それらすべてを迅速に処理して最適に行動を選択する判断スピード。

 俺に最も必要であり、現状欠けているように感じられる部分だった。


 動体視力に関しては恩寵でどうにかできる目算はあった。

 ただそれ以外、とりわけ判断速度というのは実戦の中でしかどうにも鍛えにくいし、一足飛びに向上させるような手段があるようにも思えなかった。


 地道に努力を続けるのは当然だ。

 ただ、それとは別に、何か方法はないだろうか...。

 別に常時でなくてもいい。ここ一番って時に引き上げられるような手段があれば......。


「うぅ~ん、お母さん」


 考えに没頭していると、不意にアルの寝言が聞こえてきた。

 うなされているというよりは甘えた感じの声だ。

 きっと夢の中でメリルに甘えたりでもしているんだろう。

 フッと小さく笑いが零れそうになったとき、俺のなかに小さな閃きが舞い降りた。


 あっ......アレならひょっとして......。

 だけど、アレって誰でも使えるわけじゃないっていうよなぁ。

 いやでもイメージをするための情報は揃ってるし、俺の恩寵があれば......。


 内なる存在に聞いてみようかと考えたが、今日のところはやめておくことにした。

 今頃ぐっすり寝てるんだろうし、今日はなんだかんだ助けてもらった。

 明日起きてからでも遅くはないだろう。


 とにかく、まだまだ課題は山積しているとはいえ、1つの可能性は見つけた。

 俺はその可能性の可否を明日の楽しみに残しておくことにして、長かった一日に別れを告げるのだった。




 翌朝。

 目覚めた俺は、外に出る。

 メリルは朝食の準備に台所に立ち、エルザと陽和は朝の訓練、アルと愛姫はその観戦だ。

 俺は昨日陽和と過ごした丘に転移魔法で降り立つと、内なる存在に声を掛けた。


 俺の呼びかけに応えた内なる存在に昨晩抱いたイメージを伝えると、既に取得したスペルマスターによっては難しいだろうが、個別の恩寵としてなら実現可能だろうという回答を得ることができた。


 俺は即座に願いを消費してその能力を得る。

 すぐにでも試してみたいところだが、相手がいないことには試しようがない。

 エルザに相手をお願いしようかとも思ったのだが、どんな結果になるか分からない力を味方に初めて使うのもためらわれた。

 俺は実戦で適した相手が見つかった時に試すことにして、手短にいくつかの願いを消費してメリルの家に戻ったのだった。


 朝食を摂りながら、


「今日王都に戻ろうと思います」


 メリルやみんなにそう告げた。

 せっかくの親子の再会だし、もう少し時間をとってやりたいとも思ったのだが、そう安穏ともしていられない。メリルもそれを察してくれたのか、


「そうですか。ではお弁当をお渡ししますから、それまではこちらにいてくださいな」


 と優しく微笑んでくれた。

 アルはそれからメリルと一緒にいるといったので、俺は陽和たちを連れてベンたちに暇を告げて回る。


「もう戻るのか! なんだよ折角今晩誘おうと思ってたってのに」


 ベンや自警団のみんなには驚かれたし、残念がられてしまった。

 俺も昨日のことは申し訳なく感じていたので、次に村を訪ねたときに必ず囲んで語らうことを約束し、再会を誓い合ったのだった。


 そうこうしているうちにあっという間に時は過ぎてゆく。

 俺達は村の入口でメリルから弁当を受け取り、見送りに来てくれた村人に別れを告げる。

 

「イオリさん、アルをよろしくお願いしますね」

「はい」


 メリルの言葉に俺は全身全霊の想いを込めて答えた。

 俺の決意を感じてくれたのか、メリルは穏やかに微笑を浮かべると、娘の頭を優しく撫でて別れを告げる。


「いってらっしゃい。あなたの夢のために、たゆまずに頑張るのよ」

「うん! ボク頑張るよ!」


 アルの弾けるような答えを合図に、俺は転移魔法を発動する。

 最後にみんなにもう一度挨拶して、俺達は王都へと繋がるゲートへと身を投じるのだった。


 ゲートをくぐると、その景色は一変し、王都の荘厳な城壁が眼前にそびえ立っている。

 次の行動を選択するためにも、まずはダンジョンの攻略を報告せねばならないからだ。


 俺達は城門と王城での検問を通過して久々の城内へと足を踏み入れた。

 俺達の照会をした兵士が伝達してくれたのか、それぞれの部屋のお付きのメイドさんがほどなく迎えにきてくれた。


 聞くと、クラスメイトや七聖典は引き続きダンジョンに潜って訓練に明け暮れているようだったが、ちょうど今日エリィの転移魔法でこちらに帰ってくるらしかった。


 報告は夕食の時にでもすることになるだろう。

 俺達はそれまでそれぞれの部屋で思い思いにくつろいで時を過ごすことになった。


 愛姫は早々にアルとエルザの部屋に遊びにいってしまう。

 取り残された俺は、これ幸いとメイドさんに夕食の始まる30分くらい前に起こしてくださいとお願いして、ベッドに潜り込んでの昼寝を楽しむのだった。


 やがてメイドさんと愛姫に起こされ、俺達は夕食の広間へと向かう。

 扉を開けると、クラスメイト達ががやがやとダンジョンでの訓練を振り返って談笑していた。

 各々の顔を見る感じ、訓練はつつがなく進んでいるのだろう。


 入口に近い奴等から俺たちに気づいて自然と会話が止む。

 急に静かになった広間の奥から、俺達の存在に気づいたエリィが嬉しそうに語りかけてきた。


「お帰りなさい、不二さん。それに皆さんも。

 こうして王城にお戻りになり、ここに至るまでに特段の報告を受けていないということは、めでたい知らせを聞くことができそうだと考えているのですが」

「ただいまエリィ。さすが察しがいいな。

 想像どおり、ダンジョンの攻略は成功したよ」


 負けはしたけど......という言葉を俺達全員が飲み込んではいるものの、ではあるが。

 そんなこととは知らないエリィは嬉しそうに顔を輝かせる。


「まぁ、それは何よりです。

 早速お話しを伺いたいところですが、立ったままというのもなんですし、夕食を摂りながらにいたしましょうか」

「そうだな」


 エリィの言葉に首肯して、俺達は広間の奥へと進んでエリィの側の席へと腰を降ろした。

 次第に席も埋まり、全員が席に着くと夕食が始まる。


「それでは早速お伺いしてもよろしいでしょうか。

 皆様が挑んだダンジョンの内容について」


 エリィに促されて俺はダンジョンの様子を説明していった。

 他のクラスメイトの面々も、夕食を口に運びながら俺の言葉に黙って耳を傾けている。


 各階層の特色や出てきたモンスターを思い返しながら、それでいてカインやイエナのことは絶対に口を滑らさないように神経を尖らせて報告を続けていった。


「では、階層は事前の予想通り5階層だったということですね」

「あぁ。階層ごとに魔獣が強くなっていくってのも聞いてた通りだった」

「階層の多いダンジョンだと5階層ごとに特色が変わるものですが、できて間もないダンジョンだと階層ごとにその特色が変わることが多いからですね。

 では、残すは最後の階層についてですね。ボスはどんな魔獣だったのですか?」

「ケルベロスだったな」


 聞かれるがままに答えたのだが、俺の返答に対してエリィは反応を返さなかった。

 いや、無言で絶句という反応を返してきた、というのが正確なところか。

 しばらく俺を穴の開くほど見つめたあと、我に返ったのかエリィはきょどりながら口を開く。


「あの、ケルベロスで間違いないのですか?」

「多分......頭が3つある巨大な犬の魔獣だったから他に思い当たらないんだけど」

「倒したのですか?」

「あ、あぁ。手こずりはしたけどなんとか」

「大怪我をおったとか?」

「いや、特には......何かまずかったか?」

「いえ、まずいわけではないのですが......」


 エリィはどう言ったものかと苦心する素振りを見せながら、選ぶようにゆっくりと口を開いた。


「ケルベロスは本来、20階層のボスに相当する強さの魔獣なのです。出来て間もない5階層のダンジョンに本来いるはずがないのですが......」


 どうやら俺達の倒した犬の魔獣は、まだ俺達の手に負えるはずがないと想定される強さの魔獣らしかった。

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