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星に願いを~ものぐさ勇者の異世界冒険譚~  作者: 葉月幸村
第3章 いざ! ダンジョン!
127/153

3-43 最奥

 ケルベロスが消えた空間で、俺達はようやく緊張から解放された。

 手前の部屋で待っていた愛姫やカイン、白石とも合流し、口々に労をねぎらう。

 そのあと俺は、戦闘に参加した者を回って、怪我がないかを確認していった。


 戦闘中は何かとハイになっているので、本人が怪我を負ったことに気づいていないことも十分にあり得るからだ。幸い、誰も目立った怪我はなく、軽い擦り傷や打ち身程度で済んでいた。

 俺はそれらの傷に回復魔法をかけて全快させていく。

 アルは獣覚を解いて普段の姿に戻り、傷が癒えると愛姫から質問攻めにあっていた。

 どんな魔獣だったのかとか、どうやって倒したのかを答えているうちに、愛姫に褒めちぎられて耳が嬉しそうにピョコピョコと跳ねていた。


 エルザの傷を癒し、最後に白石のもとへと向かう。

 腕に軽い切り傷があった。恐らくケルベロスの前足の一撃を躱したときに飛び散った小石でできた傷だろう。俺が回復魔法を掛け終わると、白石は笑顔で話しかけてきた。


「ありがと。それと、お疲れ様」

「あぁ、お疲れ様」

「私も少しは役に立てたみたいでよかった......」

「少しじゃないだろ。でも......」


 ビシっ


 俺は白石の額に軽くデコピンを食らわせた。


「あいたっ」


 突然のことにモロに食らってしまった白石は小さく悲鳴を上げて額に手をやる。

 

「みんなをびっくりさせたんだ。これくらいは許してもらわないとな」


 俺はそういって小さく笑みを浮かべた。

 確かに攻略のカギとなった白石の行動だったが、素直に絶賛するのもなんだか癪に障るような気がしたからだ。白石もそこについては弁明の余地もないため、恨めしげな視線を向けるに留めていた。


「イオリの一発で私のぶんはなしにしておいてあげるわ」


 そう言いながら、エルザや他のみんなも俺たちの元に近づいてきた。

 エルザは悪戯っぽい笑みを浮かべ、白石にウィンクを送る。


「エ、エルザまで! だからそれについては謝ったじゃない!」

「驚かされたことにかわりはないもの。まぁ、慌てふためくイオリっている珍しいものを見れたからそれでチャラかしらね」

「はぁ?」


 俺はエルザにジト目を向ける。

 しかし、エルザはそんな俺の視線をさらりとスルーしながらなおも続けた。


「よっぽど誰かさんのことが心配だったのかしら?」

「......」


 俺はより一層眉間の皺を深くしてエルザを見つめる。

 しかし、その一言を聞いて何やら調子に乗ったものが隣にいた。


「ふ~ん、そんなに心配だったんだ~」

「お前なぁ」


 何やら白石がニヤニヤしながら俺を覗き込んできた。

 俺は上半身を軽くのけぞらせながら辟易とした表情を返す。

 昨日の一件もあるので、なんとも分が悪いなと感じてしまっていた。


「もう少しで落城って感じかしら?」

 

 なんだろう。無性にイラつく。

 俺は無言で白石へと近づき、そのままアイアンクローをお見舞いしてやった。


「痛い痛い痛い! ちょっ、あんたいきなり何すんのよ!」

「悪い。なんだかイラッときた」

「謝るんならその手をさっさと離しなさいよ! って痛い痛い! ごめんなさい、少し調子に乗りすぎましたから!」

「分かればよろしい」


 白石が謝ったところでようやく俺は手を離して解放する。

 そんなに強くしたつもりはないが、白石はこめかみをさすりながらキッとこちらを睨んでいた。

 

「あんた! いたいけな乙女に暴力振るうなんてよくできるわね! やっぱり外道だわ!」

「自分はいっつもすぐに手を出すくせによく言うな」

「それはあんたの言動が原因でしょ! 胸に手を当てて振り返って見なさいよ」

「俺は未来志向なんだ」

「このっ......」


 そん他愛のないやりとりが繰り広げられていたのだが、不意にその空気が再度張りつめる。


 ガゴンっ


 何やら重々しい音が空間に響き渡ったのだ。

 一瞬にして和気藹々とした空気が緊張をはらみ、俺達は音のした方向へと視線を送る。

 どうやら、音はこの空間の奥から聞こえてきたようだった。


 視線をさまよわせていると、先ほどまでは何もなかった壁面にくっきりと線が浮かび上がり、いつの間にか扉が出来ていた。

 

「なぁ、あんなのさっきまであったか?」

「いえ、なかったと思うわ」

「ボクもそう思う」


 俺の問いかけにアルとエルザが返事を返す。二人も扉の存在にはどうやら気づいていなかったようだ。

 ということは、先ほどの音で扉が出来たということだろうか?


 どういうことかと考えていると、カインが口を開いた。


「あの、多分ですけど、あの扉の先にダンジョンの核があるんじゃないかと」

「そういうことか。たしかにこの空間にそれっぽいものがないよな」


 そう。ダンジョンには”核”と呼ばれる大きな魔石が存在する。

 これを破壊する、もしくは回収することによって、ダンジョンはダンジョンとしての機能を止めるのだ。ボスを倒すだけで終了ではなく、核をどうにかすることで初めてダンジョンは正式に攻略扱いとなる。

 激しい戦闘が繰り広げられる空間とは別の場所に核があるというのは、なるほど妥当な推測だろう。


 俺達は扉に近づいて様子を確認する。 

 造りは入口の扉と変わらないようだった。その扉に(かんぬき)のようなものがついていて、それがスライドして外されている。恐らく、先ほどの音はこの閂が外れて開錠された音だったのだろう。


 開け放たれた扉を前に、俺達は会話を交わす。


「これ、入った方がいいわよね?」

「まぁな。ここで帰っても攻略にはならないわけだし」

「そうね。どのみち進んでみるしかないんじゃないかしら?」

「この先にも強い魔獣がいたりしないかなぁ?」

「ないとは言い切れないな」


 アルの予想をはっきりと否定したいところだが、そうもできない。

 せっかくケルベロスを退けたのに、その先で「こっちがホントのボスでした~」なんて展開、笑えないけどありそうだなと感じ、げんなりとしてしまった。

 とはいえ、それも確認してみないことには始まらない。

  

 俺達は意を決して、扉に手を掛けた。

 この先が本当のゴールでありますようにと願いながら、手に力を込めて押し開けていく。


 ズズズっとゆっくりと扉が開いていき、中の様子を窺うが、どうやら魔獣の類はいないようだった。

 静寂に包まれた空間が広がっており、その最奥の壁面に、先ほどのケルベロスの魔石のさらに数倍はありそうな魔石が埋め込まれ、怪しい輝きを放っていた。


「よかった。ゴールで間違いないみたいだな」


 俺は安堵の息を漏らし、最奥の空間へと足を踏み入れる。

 部屋の広さはボス部屋手前の空間とほぼ同じだろうか。

 そんなことを感じながら視線を泳がせていると、


「ん?」


 地面に何かが横たわっているように感じられた。 

 他の面々も部屋に入り、俺の様子を見て同じようにその存在に気が付く。

 まだ空間の明かりが灯っていないのでなんなのか分からない。

 警戒しながら正体を探ろうとしていると、隣から大きな叫び声が上がる。


「イエナ!!」

「えっ?」


 カインはそう言うや否や駆け出した。

 ズザァっと地面に膝をつき、抱え上げると、ボス部屋からの明かりで俺達にもそれが少女なのだとようやく視認できた。


「イエナ、待たせてごめんよ! 僕だよ! カインだ!」

「......んっ」


 どうやら少女は気がついたらしい。

 カインも心から安堵したような顔をしている。

 あまりに突然のことに、俺達はただただ驚いてその場に立ち尽くしてしまっていた。

 まさかダンジョンの最奥にイエナがいるとは思ってもみなかったからだ。


 とはいえ、まずは回復が先だろう。

 俺はそう思ってカインのもとへと歩みよろうとした。


 ずんっ


「えっ?」


 不意にカインから呆けた声が漏れた。

 まるで時間が止まったような感覚。

 カインがゆっくりと視線を下に向ける。

 そこには、イエナの細い腕があった。カインの胸を刺し貫いた状態で。


 カインは何が起きたのか分からない様子でイエナへと視線を送る。

 イエナは口元に薄らと笑みをたたえ、カインの胸に突き立った腕を勢いよく引き抜いた。


「なん......で......」


 ドサリと地面に倒れ込むカイン。

 俺達が呆気にとられて動けないでいるなか、イエナはゆっくりと立ち上がりながら倒れたカインを見つめ、一言小さくつぶやいた。


「遅いのよ」

 

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