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星に願いを~ものぐさ勇者の異世界冒険譚~  作者: 葉月幸村
第3章 いざ! ダンジョン!
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3-38 開戦

 翌朝、目が覚めて起き上がると、ちょうど白石も起きたところだったらしい。


「おはよ」

「おはよう」


 お互いに欠伸をしたり伸びをしたりしながら挨拶を交わす。

 次第に意識が覚醒してきたが、白石に昨日の決定を気にしたり引きずったりしているような様子は感じられなかった。

 しっかりと切り替えられているようだ。


 やがて他のみんなも起きだして、朝食をとる。

 このダンジョンの主との対決を控えているからか、なんとなく普段より会話少なに感じたが、まぁそんなものだろう。変に気負ったり怖がったりしてるわけじゃないしと俺は気にせず食事を続けた。


 食事が終わるとすぐに支度を整えた。

 今は全員でケルベロスの待つ部屋へと繋がる扉の前に立っている。

 念のため、カインと愛姫はここで待機だ。

 勝つにしろ逃げるにしろ、決着がつくまでは中に入ってくるなと伝えていた。


「皆さん、がんばってください」

「気を付けてね」


 二人が努めて元気に振舞いながら俺達を激励する。

 愛姫は俺の腰のあたりにむぎゅっと抱きつきながらだ。

 俺は愛姫の頭を優しく撫で、


「大丈夫。無理はしないから」


 安心させようとそう語りかけた。

 愛姫もそれを聞いてニカっと笑みを浮かべて離れる。


「さて」


 俺はそう呟いて戦いに臨むメンバーに視線を送った。

 全員俺に力強い視線を返してくる。士気は上々。あとは最高の結果を持って帰ることを願って戦うだけだ。


「当然勝ちに行くわけだけど、だからと言って無理はしないこと。これは大前提な」

「えぇ」

「もちろん」

「うん!」

「よし、なら行こうか。アル」

「うん......獣覚!!」


 アルが金色の狼の力を解き放ち、臨戦態勢を整える。

 美しい毛並が周囲を吹き抜ける風によって揺らめき、キラキラと美しい光を放っていた。

 白石もティナを召喚し、いよいよ準備は整った。


 全員が扉へと手をかける。

 

「行こう」


 俺の言葉を合図に、全員が力を込めて扉を押し開けていく。

 ゴゴゴっという音を立てながらゆっくりと扉が開いていき、とうとう俺達はケルベロスのいる空間へと完全に足を踏み入れた。


 周囲は暗闇に包まれている。

 今は元いた広間の明かりが差し込んでいるので若干俺達の周りは見えるが、扉が閉まれば完全に真っ暗闇になりそうだった。


 俺がライトを発動しようかと思案していたとき、不意に周囲が明るく照らされた。

 元いた部屋と同じように壁面に灯りが灯ったようだった。

 俺達のいるあたりの壁面から順に奥の方へと灯りが灯ってゆく。


 そして、ついにこの部屋の主が灯りに照らされてその姿を現した。

 漆黒の毛並をゆらめかせ、怠そうに腹這いで地面に寝そべっている。

 突然明るくなったことにイラついているような様子を見せながら、3つの頭のうちの1つが目を開け、俺達の姿を捉えた。


「ガオァァァァァァァ!!」


 耳をつんざくような吠え声をあげ、残る2つの頭を叩き起こすと、のそりとその体を起こして俺達を睥睨する。


「カイン! 扉を閉めろ!」

「分かりました! みなさん、頑張ってください!」


 カインがそう叫んで、力いっぱい扉を引いて閉める。

 ケルベロスは、鋭い牙を覗かせながら俺達の様子をうかがっていた。

 しばしの睨み合い。お互いに相手が先に動き出すのを待っているかのようだった。


 緊迫した睨み合い。だが、終わりは突然訪れた。

 ケルベロスがその身をグッと屈め、勢いよくこちらへ飛び出してきたのだ。

 約10mの巨大な体躯から繰り出されるスピードは圧倒的で、ぶつかっただけで木の葉のように吹きとばされるであろうことが容易に想像できた。


 みるみる縮まる両者の距離、しかし俺達は冷静にその接近を受け止める。

 すでに俺の魔法の構築は終了しており、テレパスでのカウントが始まっていたのだ。


(2、1、閉じろ!)


 俺のカウントで他の全員がギュッと目を閉じ下を向く。

 敵の接近を前に普通なら絶対に取るべきではない行動だった。

 しかし、俺のこれから使う魔法の巻き添えにならないために、どうしてもこうする必要があったのだ。


『光よ爆ぜろ フラッシュ』


 小さな魔力球が言霊によって急激に眩く輝きを帯び、次の瞬間凄まじい閃光を放ちながら爆散した。

 俺も固く目を閉じ直視を防ぐ。

 ケルベロスから視線を切ることに抵抗は覚えたが、自爆するようなヘマは絶対にするわけにはいかない。


「ギャウン!」


 先ほどの威圧的な声とはちがい、明らかに動揺をはらんだケルベロスの声が耳朶に届いてきた。

 俺達は閉じていた目を開けると、そこには閃光をモロに浴びて苦しそうにのたうつケルベロスの姿があった。


「畳み掛けるぞ!!」


 俺の声に、エルザ・アル・ティナがケルベロス目指して脱兎のごとく飛び出していく。

 ケルベロスも接近を感じたのか身構えるが、視覚がつぶれている状態なので正確な位置までは測れていないようだった。


 まずエルザとアルがケルベロスの前足に襲い掛かる。

 二人とも声で位置を悟られないようにしながら、剣と爪で初撃を見舞った。


「ガルルアァ!」


 ケルベロスが攻撃に苛立たしげな声を上げ、1つの頭が首を振ってエルザたちを払いのけようとする。

 しかし、難なく交わした二人はこれ幸いと近づいてきた顔面にもそれぞれ攻撃を放っていた。


 鼻を切られたケルベロスはたまらず顔を逸らして二人から距離を取っていた。

 反対側では、ティナが空中を自由自在に飛び回り、俺達から向かって右側の頭に攻撃を叩き込んでいた。

 

 テレパスで繋がる白石の指示を受け、なんとすでに片目を潰すことに成功していた。

 自らを噛み千切らんとしてくる攻撃をひらりとかわし、尻尾や前足の鋭い一撃で確実にダメージを蓄積させていた。


 俺も後方から少しでもケルベロスの機動力を削ろうと魔法を展開する。


(アル、エルザ、一旦離れろ!)


 俺のテレパスを聞いた二人は即座にバックステップで距離を取る。

 それを確認すると、俺は地面に手を叩きつけて言霊を唱えた。


『剣山』


 大雑把に奴の胴体の下と指定して、足元の土がその肉体を刺し貫かんと勢いよく伸びていく。

 足を下から貫くことができればその敏捷性をかなり抑えることができるだろうと考えてのことだった。


 しかし、ここでケルベロスはさすがの反応を見せる。

 中央の頭が俺の言霊とほぼ同時に真下を向き、勢いよく後方へと飛びのいたのだ。

 魔法が発動する地点を察知したとしか思えなかった。


 だが、いまだ戻らぬ視界と短い言霊が幸いして、右前足に2本の土の槍が突き立ち、ケルベロスは苦悶の声を上げる。穴のあいた足からは、黒々とした血がじわりと零れ落ちていた。


(ねぇイオリ、今あの真ん中の頭が)

(あぁ。多分あいつは魔力の流れを察知できるらしいな)

(なら、他の頭にもそれぞれ特徴があるのかもしれないわね)


 エルザとテレパスで言葉を交わし、ケルベロスへと視線を向ける。

 中央の頭は察知能力に優れているらしいことが分かったので、左右を重点的にだ。

 そうして見てみると、向かって左の頭に、他の二つと違う特徴があることに気付いた。

 それは、口から生える牙の長さと鋭さだ。

 

 見れば、口まわりも他の頭より発達しているように見える。

 ひょっとすると、物理攻撃の殺傷能力が他に比べて高いのかもしれないと思い至った。


 とすると残る右側は?

 こちらは一見して目立った特徴は感じられない。

 今もティナを鬱陶しそうにしながら吠え声をあげていた。

 

「ガァァ」


 ティナの動きに苛立ちを爆発させた様子の右の頭が、その口を大きく開いた。

 一瞬どうしたのかと思っていると、魔力の気配がにわかに感じられる。

 次第に口のあたりに球状の魔力が形成され、最後に渦巻く風の魔力を帯びたのだ。


 直線的な軌道で放たれたブレスは視界が定まらないせいか、ティナの脇をすり抜けて天井へと激突した。事なきを得たものの、俺は初めて見る魔獣の魔法に目を見張る。


(それぞれの武器が分かったわね)

(......あぁ)


 物理特化、危機回避、魔法攻撃。

 それぞれが一定の攻撃力を持ちつつ、その上で役割を分担して特化している。

 これがこの魔獣の本質だ。


 この厄介な魔獣をどう料理するか。

 それぞれに必死に頭を回転させていた。


 初手のやり取りは俺達の勝ちだ。

 こちらは無傷で相手にダメージを与え、能力の分析もできた。

 

 もうじき視界も戻るころだろう。

 

(さぁ、ここからが本番だ)

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