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星に願いを~ものぐさ勇者の異世界冒険譚~  作者: 葉月幸村
第一章 転生、そして旅立ち
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1-11 豹変 ☆

「まさかお前が持ち主だったとな............白石」

「......っ」


 突如背後から聞こえた声に反射的に振り向くと、この部屋の住人である、不二君がドアの傍に立っていた。


(いつの間に......。と、とにかくなんとかごまかさないと......)


 頭の中で必死にこの場をやり過ごす言い訳を考えるものの、無人の室内に勝手に入り込んでいたのを現行犯で見つかってしまった以上、都合のいい言い訳文句が浮かんでくるはずもなく、とにかく会話をするべく口を開く。


「ふ、不二君、ごめんね。何回かノックしたんだけど、返事がなかったから留守かな~と思って、悪いとは思ったんだけど、部屋の中で待ってようかと思って......」

「何か急な用事でもあったのか?」


「う、うん、不二君は魔法の性質変化が上手みたいだから、コツを教えてもらえないかと思って」

「へぇ、こんな時間に?」

「う、うん、私ももっと上手くなりたいな~って考えてたら、いてもたってもいられなくなって......」


 思いつきの言い訳にしてみれば合格点。

 苦しいけど、辻褄はあってるはず。あとはなんとかこの場をやりすごせれば、後で手帳のことを聞かれても知らぬ存ぜぬでやりすごせる。


 少しずつ希望の芽が出てきたと感じて次第に冷静になっていくが、そんな言い訳は全くの無意味だったとあたしは直後に思い知らされる。


「そうか。まぁそれはいいとして、懐にしまってる手帳はお前の物ってことでいいんだな?」

「......っ!! な、なんのことかな?」

「残念ながら、手帳を懐に入れるのはこの目で見ちゃったからなぁ」


(現場を見られた......!?)


「............」

「メイドさんを使ったのは悪くなかったけど、王女であるエリィがこんな時間に呼び出しってのはさすがに不自然だったからな。

 お前がメイドさんに伝えたウソの呼び出しに乗せられるフリをして、ちょうどいい時間にここに戻ってきたら、まさに犯行が行われてたってわけだ」


「......っ、これは......そう、頼まれて。佐倉ちゃんに取ってきてって頼まれて......」

「へぇ、じゃああれは佐倉のって訳か。じゃあちょっと気になるし、明日聞いてみようかな。どうしてあんな罵詈雑言を手帳に書いてたのかって」

「............」


 そう。手帳に書かれていたのは、クラスの女子達への悪口の数々だった。

 軽くページをめくっただけなので、全てを読んだわけではないが、誰が誰を陰で悪く言っていただの、裏ではこんな性格してるだの、そういった女子の普段は見えない裏の顔と、それに対する怒り、侮蔑といった感想が書き連ねられていた。


「......中、見たんだ」

「あぁ~、ほんとは中を覗くつもりなんてなかったんだけどな。どこかに名前とか書いてないかと思って少しだけ」


 佐倉に聞かれてしまえば当然否定されてしまう。嘘をついた理由は明白だ。

 なんとか言いつくろっていたが、これ以上の言い逃れはできそうにない。

 万策尽きたことを理解した瞬間、白石の雰囲気がガラリと変わった感じがした。


「......そっかぁ。......あ~あぁ、じゃあもう言い逃れはできないね。わかってるとは思うけど、これはあたしのだよ」

「......」

「で? あたしのってバレちゃった訳だけど、どうするの? クラスの女の子たちにバラしちゃう? それとも黙ってる代わりにって私を脅す?」

「......」


 突然の白石の豹変に面食らってしまう。普段の柔和な笑顔は消えうせ、鋭く細められた目からこちらの様子を伺っている。


「折角これまでうまくやれてたのになぁ。あたしの平穏な日々もこれまでかぁ~。不二君のせいで台無しだよぉ」

「随分と普段と様子が違うな。それがお前の本性ってわけか?」

「どうかなぁ? 不二君に脅されるのを恐れて、精一杯の虚勢を張っているだけかもしれないよ?」


「語るに落ちるとはこのことだな」

「あっははは。手厳しいなぁ。不二君だって、寡黙なふりしていい性格してるじゃない。すっかり踊らされちゃったぁ」

「別に、素を出すほど親しいやつがいないだけだよ。

 それに、持ち主を確かめないことには、俺としても次の行動を選択しにくかったし」


「そんな性格じゃ友達少なくて当然だよぉ」

「ほっとけ。自覚はある」

「ブレないねぇ......。

 ところで、泳がされて見事に追い詰められちゃったわけだけど、あたしはこれをバラされるわけにはいかないし、交渉といきたいんだぁ」

「交渉?」

「そう。 このことを君に秘密にしてもらうための交渉。

 でも、この世界に送られちゃったからお金はないし、エッチなことお願いされても困っちゃうし」


 そういって体をかばうように両手を組んで腰をくねらせる。


「俺をなんだと思ってるんだよ......」

「そう? クラスで一番の美人の弱みを握ったんだから、一番考えられる対価じゃない?」

「お前のほうがよっぽどいい性格してるじゃないか」

「あはははは。とにかく、そんなお願いされて、はいそうですかって訳にもいかないから、こういう交渉にしようと思うんだぁ」


 そこで言葉を切った白石が、不意に目を閉じる。

 すると、魔力の動きが白石から感じられ、かざされた両手の平から薄い円盤状の魔力が放出された。


 何をする気だ? とっさに白石と距離を取るが、白石はうっすらと笑みを浮かべ、口を開く。


「おいで、ティナ」


 すると、円盤状の魔力が仄かに輝きを放ち、回転を始めたかと思うと、バチィっと炸裂音が響く。

 魔力がはじけ飛んだ跡には......小さな竜が羽ばたいて浮かんでいた。


「おいおいマジか」

「びっくりした? 私の恩寵は”竜使い”。召喚魔法で竜を使役することが出来るんだよ。

 どう? とってもかわいいでしょ? 昨日ようやく召喚魔法が発動できて、この子が来てくれたんだぁ」

「こんな魔法もあんのかよ。で?まさか自分の相棒の自慢をするために呼び出したって訳じゃないんだろ?」


「そうだねぇ。この子は見た目はとってもかわいいけど、そこは竜の子ってだけあってとっても強いんだよ? だからね? 不二くんに手帳のことを秘密にしてもらうお手伝いをしてもらおうと思うんだぁ」

「......それってつまり?」

「ちょっと痛い目にあってもらおうかなぁって♪」


「......ほんっといい性格してるよ。なんで俺が脅される側になってんだ」

「だって。君があたしのヒミツを知っちゃったんだもん。黙ってもらうには恐怖を刻みこんじゃうしかないかなぁって」

「踏んだり蹴ったりもいいところじゃねぇか!! 別に誰かにバラすなんて一言も言ってないだろ。ただ持ち主が気になっただけだよ」


 このままじゃ部屋のなかでバトルが勃発してしまう。あぁもう、こいつこんな好戦的な性格なのかよ!


「そんな言葉をどう信用しろって?」

「いいか? 俺は面倒ごとは嫌いなんだ。それをわざわざお前のってバラして、余計ないさかいに巻き込まれるなんてごめんなんだよ! 

 内容を知っちまった時点で巻き込まれてて、しかも持ち主がこんな性格ってだけでも超めんどくさいのに、これ以上事を荒立ててたまるか!!」


「......ほんとに黙っててくれるの!?」

「だからそう言ってるだろ? だからその竜に変な命令しないでくれよ?」

「エッチなお願いもしない? こんなにかわいい美少女を前にして?」

「どんだけ可愛くてもごめんだね。これ以上余計な問題は抱え込みたくないっての」


「ふ~ん。まぁあたしとしてはそうしてくれるのは有難いから文句ないけど......」

「じゃあ、平和的に交渉成立ってことでいいか?」

「うん、ありがとう♪ このことは、あたしたちだけのヒ・ミ・ツね?」


 そういって普段の笑顔を浮かべながらパチっとウィンクを飛ばしてきた。

 たしかに様になってはいるし、かわいいんだが......。欠片もトキメキを感じないっていうか、むしろ背筋に冷たい感覚を覚えてしまう。


「あ、バラしたら問答無用でぶっ殺すから♪」

「素が漏れ出てるぞ」

「あ、いけないいけない」


 そういって片目をつむって舌をペロッと突き出す。 

 だから今更猫被っても遅いから。その下に獰猛な獣が隠れてるの知ってるから。


「にしても、ホントに上手く猫被ってるもんだ。逆に尊敬するわ」

「ん? ケンカ売ってるのかな?」


 ティナと一緒に一歩近づいてくる。いやその普段の笑顔で近づかれると余計に恐ろしいから。


「別にそんなつもりじゃないよ。よく疲れないなと思っただけだよ」

「えっ?」

「いや、本当はこういう性格ってことは、普段の白石って演技で過ごしてる訳だろ?

 自分を偽って、周りに合わせてたら気疲れしそうだなって思っただけだよ」


 俺はやれやれといった表情で、感じたことを口にする。

 

 すると、白石の表情がみるみる険しくなり、射殺さんばかりの目つきで俺を睨んできた。

 その雰囲気は、先ほどまでの開き直った感じともまた違い、静かな怒りに打ち震えているかのようだ。

 静かに怒気を迸らせながら、白石はボソりと何事かを呟く。


「............のよ」

「えっ?」


「あんたにあたしの、何がわかんのよ!!」



 再度の豹変。先ほどまで被っていた仮面をひっ掴んで投げ捨てたかのように、獰猛な叫びが室内に木霊した。


挿絵(By みてみん)


「あたしのこと知りもしないくせに、調子のいいこといってんじゃないわよ!!

 疲れないか? ええ、疲れるわよ!! クタクタよ!! もううんざりよ!! 

 毎日毎日毎日毎日、周りの顔色を窺って、周囲に合わせて、興味のない会話や聞きたくもない陰口に混ざって、楽しそうに作りたくもない笑顔を張り付けて!! 

 そんな毎日で、疲れないわけないじゃない!!」


「............」


 堰を切ったかのように白石から言葉が吐き出される。

 一度決壊した言葉は止まることなく、濁流のごとくあふれ続ける。


「でも......仕方ないじゃない。そうしないと浮いちゃうんだから。そうしないと嫌われちゃうんだから!!

 だからあたしは......いつも笑顔でいなきゃいけないの! 楽しそうにしてないといけないの! 誰にも優しくしないといけないの! そんないつもの白石陽和じゃないといけないのよ!!」



 なんとなく、本当になんとなくだが、白石のこうなるまでの経緯が、この時の俺には察せられてしまった。

 恐らく、この想像は遠からず的を射ているはずだと直感的に分かる。

 でも、分かってしまったからこそ、ここで俺が、これ以上不用意に言葉をかけるわけにはいかないと思った。


「あんたはいいわね......。 誰からも注目されなくて。

 目立たなければ好き勝手に過ごしたって、誰の気にも留められないんだもの。

 でも、あたしはそうはいかないのよ!見た目に恵まれてしまった分、目立ちやすい分、いつも気を張っていないと、あたしの足元をすくおうとする連中に囲まれてるんだから! 

 あんたに......あんたなんかに......そんなあたしの苦労が! 努力が! 気持ちが......分かってたまるもんか!!」


 ポタっ。

 いつの間にか、白石の両目からは涙が零れ落ちていた。

 これまで仮面の下で堰き止めていたストレスが、感情が、とめどなく言葉となって、最後にこうして涙となって溢れ出したかのように。


「............っ!!」


 自分が涙を流していることにようやく気づき、驚いた表情を浮かべた後、白石は俺の方をキッと睨み、俺を突き飛ばすようにして扉を開け、廊下へと駆け出して行った。


 一人部屋に残された俺は、先ほどまでの白石の言葉を思い出し、はぁっとため息をついて、愛姫を迎えに広間へと向かっていく。

活動報告を更新いたしました。


ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。

今後も読んでもいいかと思っていただけた方は、ブックマークしていただけますと幸いです。

読んでくれている人がいると思うと、大変励みになります。


明日も更新を予定しておりますので、引き続き拙作をよろしくお願いいたします。


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