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星に願いを~ものぐさ勇者の異世界冒険譚~  作者: 葉月幸村
第3章 いざ! ダンジョン!
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3-34 試金石

「......あったぞ。多分第5層へと通じる通路だと思う」


 俺は鷹の目で得た情報を皆に共有していた。

 確認していたのは今俺達のいる地点の先の曲がり角を少し先の空間だ。

 あれからさらに数時間の探索の末、ようやく第4層のゴールと思しき通路を見つけることが出来た。

 俺の言葉に全員が安堵と喜びの表情を浮かべる。


「やったわね。でも、どうして第5層への通路だって分かったの?」


 白石が抱いた疑問を口にした。

 おっしゃる通り。まだ先があるのか、それとも階層の最深部なのかを判別することはそう簡単ではない。実際、これまでの探索でも、通路に入ってみたら下り坂になっていて下層へと通じる道と分かっていたのだ。


 にも関わらず、どうして俺が足を踏み入れていないにも関わらずそんなことが分かったのかというと、


「通路の前でたくさんの魔獣の皆さんがお待ちです」

「......そんなことだろうと思ったわよ」


 先ほどの喜色から途端にげんなりとした表情へと変貌を遂げながら白石はため息を零した。

 そう、通路の手前は2層の入口と同じく開けており、そこにミノタウルスやらケンタウルスやらオークやらが待ち構えていたのだ。

 これでまだ先があるとは考えたくなかった。もちろんその可能性も十分に考えられるんだけどさ。


「で、数はどれくらいなのかしら?」


 エルザが若干テンション高めに尋ねてきた。

 どうやらスイッチが入る一歩手前まで来てしまったらしい。


「ちょっと待ってくれ。『鷹の目』」


 俺は相手の数を確認するために再度”鷹の目”を発動した。


「ミノ5、ケン5、オーク10、ダイアウルフ10ってとこだな」

「これまでとは規模がまた違うわね」

「まさに最下層への試金石って感じなんだろうな。実際、あいつらあの空間から動く気配もないし」


 敵の数の確認はできた、あとはどうやって突破するかだけど。 

 エルザは俺の考えを見透かしたように微笑みを浮かべて会話をついできた。


「まさか真正面からぶつかりあう気は」

「ない」


 当たり前だろ? という表情で返すと、エルザは微笑を浮かべながらうなずきを返す。


「最下層に挑むまえに余計な怪我なんてごめんだぞ? 出来るだけ安全に、低燃費で勝つ。これまでと変わりはないさ」

「何よその地球に優しい戦い方」

「地球じゃないけどな」

「うっさいわよ!」


 俺の言葉にツッコミをいれてきた白石に屁理屈を返して作戦会議を続ける。

 愛姫はなにやら今のやり取りがツボだったのか必死に声を殺してプルプルしていた。

 偉いぞ。ここで爆笑なんかして気づかれたら笑えないからな。


「続けるけど、まず奇襲で数を減らそう」

「アレをやるの?」

「そういうこと。二人も準備しといてくれよ?」

「任せて」

「了解よ」


 白石もエルザも俺の考えは分かっていたらしい。

 力強くうなづく二人を見て俺は頼もしく思いながら続けた。


「で、とりあえずオークとダイアウルフはそれでなんとかなるはずだ。

 そいつらを殲滅したあと、ミノタウルスとケンタウルスを片付ける。

 ここからは普通の戦闘だ。最悪かなり生き残るかもしれないから、心して臨もう」


 俺の言葉に今度はアルも混ざって頷きを返してくる。

 簡単だがこれで事前の打ち合わせは終了だ。

 あとは戦闘中に臨機応変にテレパスを交えて対応すればいい。


「カインと愛姫は通路の入口付近で待機しててくれ。

 なにかの拍子でぶつかったりしないように、少し通路の方にいてくれると助かる」

「分かりました。任せてください」

「みんな頑張ってね!」

「よし、じゃあカインはここで”潜伏”を発動してくれ。それが終わったら、戦闘開始だ」


 こうして会話を切ると、即座にカインが”潜伏”を発動させた。

 二人の安全を確保したところで、俺は杖を細かく奮って魔法を構築していった。

 白石は傍らにティナを呼び寄せ、エルザもいつでもいけると頷いてくる。


 俺達は呼吸を整え、一気に曲がり角を折れて駆け出した。

 そのままの勢いで空間へと飛び込む。直径にして20m程の円形の空間だった。

 当然ながら魔獣が俺達に気づいて口々に雄叫びを上げながら殺意漲る視線を俺達へと放ってきた。


 にわかに喧騒に包まれる空間。

 俺は構築を済ませた魔法を言霊によって一気に解き放った。


『プリズンゲート』


 連結されたゲートが次々と輝きを帯びながら展開されていく。

 今回は包囲するのではなく俺達と奴らを遮断することにした。とにかくスピードを優先した結果だ。

 その代り、1つあたりのゲートの幅を狭め、魔法の発射口の数は増やしてある。

 また、円状の空間に隙間なく魔法を当てられるように、ゲートを扇状に展開して死角も減らした。

 よほど知能が発達していない限り、死角を見つけて躱すなんていう芸当は取れないだろう。


「ブモァ?」

「ガルルァ」


 俺達の元へ真っ先に駆け出していたダイアウルフとオークが戸惑いながら立ち止まる気配を感じる。

 俺・白石ティナ・エルザの3人は、攻撃魔法を構築して一斉に発射口へと繋がるゲートへと魔法を叩き込んだ。


『炎槍』

「ティナ!!」

「クルアァァ」

「サラマンダー、火球をどんどん生み出しなさい」

「カァァァァ」


 全員殺傷能力の高い火の魔法を選択する。耐性があったりすれば別の属性を使うが、そうでもなければ火属性が一番実戦向きだからだ。


 ドドドドドドドドドっ


「ゴガアァァァァァアァァァ」

「クオォ~ン」


 オークやダイアウルフの断末魔の声が響きわたる。

 プリズンゲートと俺達3人による魔法の連続攻撃であるこの”無限の弾丸(エンドレス・バレット)”は、殲滅戦において絶大な効果を発揮する。


 ただ、今回はゲートで360°を包囲したわけではないので、撃った魔法が壁に当たればそれまでだ。

 だから以前ホトリ村で使ったときよりも数を意識して弾幕を張り続けた。


『鷹の目』

 

 俺は同時に鷹の目を発動して敵の様子を俯瞰で確認する。

 見てみると、やはりオークやダイアウルフはすでにそのほとんどが燃えて灰塵に帰してしまったらしい。ミノタウルスとケンタウルスもその数をそれぞれ3体と2体へと減っていた。

 しかし、残りはどうやら幸運にも死角に入ってたらしく、身動きを取らずに壁際にへばりついている。


 その体のあちこちに火傷のあとのようなものが見え、さすがに無傷とはいかなかったらしい。

 俺は弾幕を張りながらテレパスで全員に指示を送る。


(敵の残りはオーク1、ダイアウルフ2、ケンタウルス2、ミノタウルス3だ)

(かなり減ったわね)

(あぁ、ただもう死角に入ってるからこれ以上は無駄らしい。

 合図ですべての魔法を解除するから、エルザとアルは切り込んでくれ)

(任せなさい)

(分かった)


 アルは元気に返事をし、解除とともに飛び込めるように金狼の力を解き放った。


「獣覚!!」

 

 アルの臨戦態勢も整ったところで、俺達はテレパスでのカウントで一気に魔法を解除した。

 遮蔽物がなくなった瞬間、エルザとアルが弾丸のごとく飛び出す。

 エルザは地面を滑空するかのように低い体勢で駆ける。シルフの力を借りているのだろう。


 瞬く間にオーク2体のいる壁際まで移動して突然のことに反応すらできぬうちに首を跳ね飛ばした。

 アルも残る1体のダイアウルフを蹴り飛ばして壁へと叩きつける。

 残すはミノタウルスとケンタウルスのみだ。


「ブモアアアァァァァ」

「ゴアァァァアァァア」


 生き残った奴らは不意打ちによって大打撃を与えられたことへの怒りを迸らせながら、猛然と斧を手にアルとエルザはと駆けていく。


 見れば、それぞれ1体ずつ無傷に近いやつらがいた。

 おそらく始めから壁際近くにいて運よく死角にすぐに入れたのだろう。

 明らかに他の3体よりも動きが俊敏だった。


『ゲート』


 俺は無傷の2体をやり過ごし、残り3体の手負いを遮るように転移した。


(3人で無傷の2体を片付けてくれ。残りは俺が止める)


 テレパスで手短にやり取りを交わし、俺は杖を3体の魔獣へと突き付ける。


「ここさえ抜ければ最下層。通してもらうぞ」


 俺の言葉が通じたのかどうか定かではないが、手負いの魔獣は怒り狂った眼で俺を睨み付け、雄叫びを上げながら斧を振りかぶった。


 ドォォンっ


 地面に斧がめり込む。火傷で体中が痛むはずだが、怒りでそんな痛みなど消し飛んでいるのかもしれない。渾身の一撃だ。当たれば全身ひき肉だろう。当たればの話だが。


 俺はすでに奴らの背後にあり、振り返るときには俺の両手は地面に叩きつけられていた。


『剣山』


 奴らの立っているあたりの地面が唸りをあげて息の音を止めんと突き立ってゆく。

 2体はなす術なくその身を串刺しにされ、血反吐を吐いた後霧散した。

 

 これで終わりにさせるつもりだったが、残る一体のミノタウルスは、咄嗟に地面にめり込んだ斧を振り回して土の槍を根元でへし折ってなんとか回避していた。


 しかし、その瞳には怒りはあれども先ほどまでのような荒ぶる様子は見えない。

 今の攻撃で俺に勝ち目がないのを悟ってしまったのだろうか。

 当然それで見逃すはずもないんだけど。


「ブ、ブモアァアアァァ」


 ミノタウルスは先ほど自分が砕いて折れた剣山の破片を俺目掛けて一心不乱に投げつけてきた。

 近づきたくないのだろうが、そんなものが俺に当たるはずもない。


『ゲート』

「ブモァっ」


 ミノタウルスは呆けた声を上げながら地面へと崩れ落ちる。

 その後頭部には、俺目掛けて渾身の力で投げつけた土の槍が突き立っていた。


「ふぅっ」


 俺は3体の処理を終えて白石たちの加勢へと向かう。

 問題なく残る2体も消滅し、この階層最大規模の戦闘が終了した。


 俺は奴らが塞いでいた通路へと足を踏み入れる。


「やっぱり。当たりだ」


 その先には、最下層へと通じる下り坂が俺達を待ち受けていたのだった。 

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