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星に願いを~ものぐさ勇者の異世界冒険譚~  作者: 葉月幸村
第3章 いざ! ダンジョン!
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3-31 別次元

 翌日、俺達は目を覚ましてから朝食を摂り、てきぱきと準備を整えていく。

 しっかりと睡眠を取れているので、肉体的にも精神的にもしっかりと回復することができていた。


 すでに第4層の入口の前まで移動していたので、行動開始と同時に警戒を厳にして進まなければならない。俺が特に何を言うまでもなく全員しっかりと気を張っているようで安心しながら道を塞いでいた土魔法を解除した。


『鷹の目』


 即座に索敵を行って近くの魔獣の気配を探るがヒットはない。

 いきなりの会敵もなく、俺達のダンジョン探索3日目がスタートするのだった。


 今日は第3層のような異臭は感じられなかったので、特に防臭などの魔法は発動していない。

 常時展開し続けている間は魔力を消費し続けるので、精神衛生上だけでなく魔力の節約という意味でも有難かった。


 歩くこと20分ほど。俺が再度”鷹の目”で先を探っていると、最初の魔獣を発見した。


「ストップ。魔獣を見つけた」


 俺の言葉に全員が警戒しながら立ち止まる。

 俺は捉えた魔獣の姿を確認すると、これまでに見たことのない魔獣だった。


「2足歩行の......牛? ミノタウルスか!」


 幸い座学で知識を得たことのある魔獣だった。

 ミノタウルス。筋骨隆々の牛の顔をした魔獣だ。持前の圧倒的な膂力と、それから振るわれる戦斧、頭に生えた角を相手に突き刺す突進攻撃を繰り出すと学んだ覚えがある。


「やっぱり格段に強くなってるわね。2層の比じゃないわよ」


 エルザが真剣ながらもどこか高揚したような表情で語りかけてきた。

 骨のある相手がいると分かって興奮が抑えきれないのだろう。


「数は?」


 次いで白石が相手の数を確認してくる。

 俺は見つけたミノタウルスの周囲を探るが、どうやら他にはいないようだった。


「1体だな。近くに他の魔獣の気配はしない」

「そう。で、どうする? これまで通り?」

「そうだな。基本はこれまで通りだ。ただアル、お前は一撃当てたら離脱するようにしてくれ。別に急いで倒す必要はない。無理して連撃してる最中に反撃を食らう方が怖いからな」

「うん、分かった。全部避ける!」


 アルも真剣に頷きを返してきて、打ち合わせは終了。

 俺達は会話をテレパスに切り替え、ミノタウルスが姿を現すのを待ち構えた。


 待つこと1分ほど。

 曲がり角からミノタウルスが姿を現した。

 改めて目の当りにして、これまでとはレベルが違うというのを俺達は改めて痛感する。

 

 身長は以前相手にしたオークに匹敵するか少し高いくらい。

 それでいて引き締まって盛り上がった肉体が圧倒的なパワーをありありと物語っていた。


「ブモオォォォオォォォォォ!!」


 ミノタウルスが俺達を見つけて激しい雄叫びを上げた。


「アル、行くわよ!」

「うん! 獣覚!!」


 即座にアルとエルザが前へと駆けだす。アルは駆けながら獣覚を発動し、ミノタウルス目掛けて勇ましく疾走していった。

 ミノタウルスは背に担いだ戦斧に手をとり、抜きざまに横薙ぎを一閃する。


「ブモァ!!」


 凄まじい風切音を立てながらエルザを真っ二つにせんと襲い掛かる斧を、エルザは腰の剣を抜いて受け流した。


 ギャギャギャリィ


 激しく火花を散らしながら交錯する斧と剣。

 エルザは上手く刃の上を滑らせて力を斜め上方へといなし、ミノタウルスは勢いを殺し切れずに体勢が流れた。エルザも後方へと押し下げられるが、


「アル、今よ!!」

「うん! いっくよ~!!」


 追いついたアルがそのまま疾駆して脇腹をさらしたミノタウルスへと突貫した。

 思い切り振るわれる前足での一撃。これまでなら肉体を割かれてここで戦闘終了だ。

 しかし、その一撃はミノタウルスの横腹を抉りはしたものの、致命傷を与えるには至らなかった。


(アル、十分だ下がれ!!)

(! うん!)


 俺はテレパスでアルに後退を告げる。

 アルは素直に従って、深追いせずにエルザの傍らへと駆け戻った。


「すっごく固い! あの筋肉まるで岩みたいだよ」

「防御力も段違いってわけね」


 エルザは嬉しそうに笑いながらアルの感想に返している。

 さっきの横薙ぎだって真正面から受ければ吹き飛ばされてお陀仏だろう。

 それをいなせる技量はさすがの一言に尽きた。


 ミノタウルスは抉られた傷口とそこから溢れ出す自らの血を眺めた後、こめかみにピキピキと筋を浮かべ、


「ブモアァアァアァアアアァ!!」


 口角泡を飛ばしながら先ほどよりもさらに大きな怒声を上げた。

 完全に今の一撃でキレたようだ。


「来るわよアル。絶対に気を抜かないこと!」

「分かってるよ、エルザ姉ぇ!」


 再び駆け出す両者。ミノタウルスは斧を担ぎ上げ、今度は斜め上段から力任せに斧を振り抜いた。

 

「甘い!!」


 エルザが再び剣を擦らせて軌道をずらす。


 どごぉっ


 斧が轟音を立てながら地面へとめり込み周囲に勢いよくつぶてをまき散らした。

 しかし、ここで再び隙が生まれる。アルはそれを見てタンっと地を蹴り、ミノタウルスの顔面目掛けて再び腕をふるう。だが、


 すかっ


 ミノタウルスが強引に上半身を捩ってアルの一撃を回避した。


「あっ」


 アルの体は宙にあり、その体はがら空きだ。

 一瞬、ミノタウルスの両目が獰猛に歪む。斧から手を離して勢いよく振りかぶり、アルを撲殺せんと渾身のストレートが放たれようとしたまさにその時、


「クルアァ!!」


 ティナがミノタウルスの顔面に強烈な尻尾での一撃を浴びせた。

 

「ブモォ!?」


 予期せぬ攻撃をモロに食らったミノタウルスがよろめきながら後退する。

 アルはすたっと着地すると、即座にエルザの傍らまで下がった。


「アル、不用意に跳んではダメよ。さっきみたいに躱されたら一瞬で窮地に陥ってしまうのだから」

「ごめんなさい。今度から気をつけるね」


 アルはまだドキドキしているのか両手を胸の前で握りながらエルザに返事をしていた。

 いくら能力が図抜けていてもまだ子供。攻撃が単調になってしまうのは無理からぬことだ。

 幸い今回は怪我もすることなく退避できた。アルにもエルザの稽古をつけてもらった方がいいかもしれないな。


「ヒナ姉ぇもありがとう」

「気にしないで。それよりまだ終わってないわ。敵から目を離しちゃダメよ」

「! うん!」


 白石もすっかり頼もしくなった。俺が言わずとも完璧なタイミングでアルを救いつつ敵にダメージを与えている。ティナとの意思疎通や状況判断が向上している何よりの証拠だった。

 自分を自分で守れるようになったことで、視野が大分広くなったんだろう。


 ミノタウルスは少し脳が揺れたのか動きが鈍くなっている。

 俺はここが好機と一気に局面を動かすことにした。

 テレパスで指示を飛ばして全員が配置につく。


 まずは俺が陽動のために魔法を発動。


『炎を纏え 相手を射殺せ 炎槍』


 燃え盛る鋭い魔力がミノタウルス目掛けて殺到していく。

 ミノタウルスは戦斧を振るって炎を打ち消すが、消し切れなかった数発が太ももや腕に突きたち苦悶の声を上げた。

 そこへアルとティナが追撃をかける。


 ティナがブレスを吐くと、腕を交差して防御の姿勢をとるミノタウルス。

 そうして手薄になった足元を


「てりゃあぁ~」


 アルが回し蹴りを放って鋭い爪で足の腱を断ち切った。


「ブモォォ」


 バランスを崩してふらついたミノタウルスの背後に、突如として円盤上の魔力が構築され、そこからエルザが飛び出してくる。


「終わりよ」


 がら空きの背後からの攻撃にミノタウルスは気づくことすらできなかった。

 

 ズンっ


 剣が後頭部から脳髄を刺し貫く。

 一瞬目を見開き、後ろを振り向こうとしたミノタウルスだったが、エルザが刃を捻って内部を削ると、小さく断末魔の声を上げながら塵と化すのだった。

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