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星に願いを~ものぐさ勇者の異世界冒険譚~  作者: 葉月幸村
第3章 いざ! ダンジョン!
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3-30 折り返し

 今日は第3層の探索で一日を使った。

 懐から砂時計を確認するが、やはりもう日が落ちているころだ。

 俺達は先日同様に通路の中ほどで夜を明かすことにして、第4層へと繋がる通路へと足を踏み入れた。


 道中、イエナを発見することはできず、カインは少し気落ちしているようだ。

 ただ、死体が見つかったわけではないので、続く4層や恐らく最下層と思われる第5層で見つかる可能性を信じて気を繋いでいるようだった。


 3層に近いと腐臭の対策を講じなければならない。

 俺の能力で悪臭を感じることはないものの、だからといってそんな臭いの近くで食事であったり夜を明かすというのは憚られた。

 そのため、今日は4層の近くまで進んで休むことになったのだった。


 通路には魔獣の気配はなく、辺りは静寂が支配していた。

 俺達の足音以外が聞こえない通路を歩き続けること30分ほど。


「あっ、見えた」


 愛姫がこの行進の終わりを示す通路の出口を見つけて小さく声を上げた。

 俺は念のために”鷹の目”を発動して付近に魔獣がいないかを確認する。

 しかし、どうやらこの辺りに魔獣はまだいないようだった。


「近くにはいないみたいだ。第4層の入口も見つけたし、今日はここで休もうか」

「は~い」


 アルが元気よく答える。今日は戦闘には参加していなかったので、アルとエルザは特に消耗もしていない様子だ。

 一方、白石はペタリと地べたに座り込んでしまった。


「怖かったよぉ~」


 半べそをかきながら転移袋を漁ってシーツを取り出していた。

 まぁ、ある意味今日一番疲れたのは白石なのかもしれないな。主に精神的に。

 一日中リアルアンデッドに追い回されるという体験はどこの戦慄迷○でも味わえないだろう。


 そんな精神疲労でクタクタになった白石を愛姫がよしよしと労わっていた。

 いや妹よ、今日一番頑張ったのは俺だと思うのだが......。

 最近白石にばっかり優しいみたいで兄は少し寂しいぞ。


 思いはしても口にはださず。

 俺も座ろうかとは思ったのだが、一つ確認しておこうとアルに声をかける。


「アル、ちょっときてもらってもいいか?」

「ん? どうしたの、イオリ兄ぃ?」


 アルがとてとてとこちらへと歩いてくる。

 

「今まで掛けてた嗅覚遮断の魔法を解除するから、異臭がしないか確認してくれないか?」

「え゛っ」


 アルよりも先に白石が顔を青ざめさせながら凄い声を出した。

 まぁ無理もないが。

 もしここでアルがもう一度悪臭に苦しんだりすれば、それは即ち次の階層もアンデッドの領域ということになる。


 一日恐怖の体験をした白石にしたら、翌日も同じかそれ以上の環境に足を踏み入れなければいけないかもと思うとあんな世界の終りみたいな顔になるのだろう。


 アルも少し身構えた様子ながらも、


「うん、分かったよ。いつでもいいよイオリ兄ぃ」


 と決然と答えてくれた。

 

 俺はアルの頭を一撫でしてからかけ続けていた魔法を解除する。

 嗅覚を取り戻したアルが目を閉じてすんすんと鼻を小さく動かしながら確かめるように外気を吸い込んだ。

 しばしの沈黙ののち、アルは心なしか安堵の色を浮かべながら俺の方へと振り返った。


「とくに嫌な臭いはしないよ。多分この先には今日みたいな魔獣はいないんだと思う」

「そうか、よかった。ありがとなアル」

「えへへ~」


 お礼を言いながらもう一度アルの頭を優しく撫でると、アルはくすぐったそうにしながらも屈託のない笑顔を浮かべて俺の手を握ってきた。

 俺は開いている方の手を地面に翳し、昨日どうように通路を塞いで安全を確保してからみんなの元へと戻っていく。


「聞こえてたと思うけど、4層にはアンデッドは出ないみたいだ。明日はしっかり働いてもらうからな」


 俺がそういうと、白石は喜びと怒りがないまぜになった様子でまくしたててきた。


「任せなさい。こんな思いをさせてくれたお返しをきっちりダンジョンに倍返ししてやるんだから!」

「私も今日はいささか消化不良だったし。明日はイオリに楽させてあげられるように頑張るわね」

「ボクも頑張る!」

「おぉ、頼もしいな。みんなで俺をサボらせてくれ」

「「「サボっていいとは言ってない!」」」

「ちっ」


 と軽いやり取りを交わしつつ、俺達は思い思いに今日の疲れを癒すべく休息を取るのだった。

 アルのお墨付きをもらったので他のみんなにも掛けていた防臭と嗅覚遮断を解除する。

 エルザと白石はすぐに自分の体から嫌な臭いがしないかと確認して、問題なかったようでほうっと小さく息を吐いていた。


 俺の魔法を疑うとかどうこうでなく、これは女性のエチケットとして致し方のないことだろう。

 そのあと二人は律儀にありがとうと俺に一言お礼を言ってくれたし、こういう地味な能力も役に立つものだと再認識するのだった。


 食事を取りだして腹を満たし、昨日同様に体を清めた。

 時刻は夜の9時頃。カインに”潜伏”を発動してもらって気配を消し、3層側の通路も土魔法で塞いだ。


 あとは眠るだけだが、明日は第4層。次かその次がダンジョンの生まれた時期から逆算すると最下層だ。

 第3層は光魔法のおかげで第2層よりも手こずることなく進むことができた。

 ただ、本来はどれだけ倒しても襲い掛かってくる奴らに苦戦を強いられていたはずだ。

 当然4層はそれよりも難易度が増していると考えるべきで、油断をすることはできない。


「今日は戦闘としてはかなり楽だったよな。魔法の相性のおかげでほぼノンストップで進めたし」

「そうね。その分明日は感覚として相手をかなり強く感じると思うわ」


 エルザが冷静に返事を返す。

 俺と考えていることはそう変わらなかったらしい。エルザの言うとおり、今日が手ごたえがなかった分、1段飛ばしで魔獣が強くなったと感じることになるだろう。


「明日は2層までと同じ形で進んでいこう。魔獣の強度をあらかた把握するまでは特に慎重に。

 無理はしないで退くことも念頭に置きながら進もう」

「分かったわ」

「えぇ」

「うん」


 全員力強い返事を返してくれ、俺もそれを聞いて少し胸を撫で下ろすような感覚を覚える。

 これまでの進行でダンジョンも残すところは後わずかというところまで来たはずだ。

 このまま上手く攻略できればいいんだけどな。


 そうはいっても次の階層ももちろんだが、最下層にどんな魔獣がボスとして待ち構えているのか。

 エリィが言っていたダンジョンではコカトリスがいたらしい。

 ただこのダンジョンは階層が浅いので、そこまで強力な魔獣は出ないと信じたかった。


 とにかく、強敵が現れたときにきちんと対応しなければ。

 俺の転移魔法を使っての戦闘は結構練度が上がってきていると思う。

 個人でも、パーティメンバーを交えての連携でもだ。

 ただ、まだ向上の余地はあるとも感じていた。


 俺の戦い方は相手の裏をかいて隙をつくスタイルだ。

 真正面からの打ち合いなんて非効率な手段はできれば取りたくはない。

 そうなると、もう少し陽動に使える能力がほしいか......。


「暗い顔してどうしたのよ?」


 白石が心配げな様子で俺の顔を覗き込んでいた。


「やっぱり今日は疲れた? ごめんね、ずっと迷惑かけちゃって......」

「別に気にしなくていいよ。実際俺の光属性で倒すのが効率から考えても最善だったと思うし。

 苦手なもんの一つや二つくらいあるだろ」


 やはり今日のことは気にしていたらしい。しおらしい様子で俺に詫びてくる白石に俺はそう返した。

 

「ありがと。明日はまた頑張るから」

「頼りにしてるよ」

「うん!」

「そろそろ寝るか」

「そうね」


 こうして俺達は毛布にくるまって眠りへと落ちていく。

 明日は第4層だ。攻略もいよいよ終盤戦に差し掛かる。

 生きて帰るという思いを新たに、静かにダンジョンの中の時が過ぎていくのだった。

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