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星に願いを~ものぐさ勇者の異世界冒険譚~  作者: 葉月幸村
第3章 いざ! ダンジョン!
109/153

3-25 第2層攻略

 休憩を取ること30分ほど。

 そろそろ頃合いかと判断して俺は愛姫の体を揺すって起こす。


「うにゅ?」


 もぞもぞとしながら微睡の世界から戻ってきた愛姫は、目をこすりながらむくりと起き上がった。

 目をこすっていた両手を上に掲げてう~んと伸びをし、次第に意識が覚醒してきたのか顔つきがしっかりとした感じになっていく。

 アルも白石に起こされてふあ~っと大欠伸をした後、顔をプルプルと振って頭を働かせようとしている。


 二人が昼寝を取っている間、俺達は楽な体勢を取りつつもしっかりと周囲の警戒は続けていた。

 実際、俺の鷹の目に2度ほど引っ掛かり、エルザが音もなく瞬殺で片付けてくれていた。

 俺や白石だと倒す際に大きな音がしてしまうが、エルザなら一振りで真っ二つにしてしまえるので今回はエルザにお願いしたのだ。


 戦闘と言ってもそれぞれホブゴブ4体とコボルト3体という組み合わせだったので、俺達の休む空間に入ってくる前にエルザ一人で処理することが十分可能だった。


 エルザはもともと戦闘キチガイなところがあるので、暇を持て余すよりは体を動かしていた方が調子がよくなる可能性まである。

 音を立てないという制約を楽しみながら一狩り行こうぜしていた。


 俺達は飲み物を口にして喉を潤したあと、立ち上がって行動再開のために動き出した。

 白石がシートや食事の残骸を拾い集めて転移袋に収納する。

 別に捨てて行ってもいいのでは? とも感じてしまうが、こういうときに自然とゴミを拾えるのが我々日本人の美徳というものだろう。


 サッカーの試合とかで他国のホームで観戦した日本人サポーターがゴミを片付けている姿が試合内容よりも話題になるのと同じだ。普通は負けたチームの応援席ではゴミが散乱して大惨事になっているらしい。


 さておき、片づけも終わって準備は完了。


「よし、行こうか」

「「おぉ~!」」


 昼寝で全快したちびっ子二人の元気のよい掛け声を受けて俺達は行動を再開した。

 すでに2/3ほどは踏破しているらしいし、あと数時間で2層は突破できるだろう。


 歩き出して間もなく、俺の鷹の目に敵影が移ったので足を止める。

 どうやら先の曲がり角の近くに10体ほどのコボルトの集団がたむろしているようだった。

 

「この先にコボルトの群れがいる。数は10体くらいだな」

「あら、これまでどおりに叩くのかしら?」

 

 エルザが剣の柄に手を置きながら俺に尋ねてくる。

 

「ん~、それでもいいけど狭い通路だし、俺が最初に魔法を打つから、生き残りをエルザ達で掃除するってのでいいんじゃないかと思うけど」

「いいんじゃない? それが一番手っ取り早いと思うわ」

「うん、ボクも賛成」

「んじゃそういうことで......いくか」


 俺が魔法を展開する準備に入ると、他の3人もすぐに戦闘態勢に切り替わる。

 俺達の存在にまだ気づいていないコボルトたちの声が微かに曲がり角の方から洩れてきていた。


『炎を纏え 燃え盛り敵を食らえ 炎蛇』


 曲がり角から一匹のコボルトが顔をだす。

 こちらに気づいて声を上げようとするが、その時には俺の操る燃える蛇がコボルトを飲み込まんと大きくその(あぎと)を開いていた。

 なす術なく飲み込まれ、俺はそのまま杖を振るって炎の進行方向を変える。

 

 通路にそって曲がった蛇は、そのまま通り過ぎざまにコボルトたちを飲み込んでいった。

 さらに、その後ろにエルザたちが生き残りを討たんと続く。

 エルザたちがそのまま通路を曲がっていったが、ほんの数秒でこちらの方へと戻ってきた。


「全部燃えて消えたみたいね。一匹も姿が見えなかったわ」

「そうか。上手くいったみたいでよかったよ」

「王都の模擬戦でやられた手を早速自分のものにしたのね」


 エルザが妖しい笑みをたたえながら俺に語りかけてくる。

 そう。王都のクラスメイトとの模擬戦で2戦目の相手が見せた追尾式の魔法を俺なりにやってみたのだ。

 鷹の目で察知して、相手が気づく前に使うことができればかなり使えそうだなという実感を得ることができた。


 正々堂々と正面から!キリっ

 なんて御大層な考えを俺は持ち合わせちゃいない。

 より確実に勝つため、少しでも生き残る可能性を増やすため、いかに相手の先手をとるか、もしくは相手の裏をかくかということが俺の思考の基本だった。


 ここは異世界だけどゲームの世界ってわけじゃない。 

 一度死んだら終わりなのだ。俺だって死にたくないし、愛姫はもちろんのこと一緒に旅をする奴らが死ぬのも見たくない。

 どんな風に思われようが、きれいごとにとらわれて自分たちを窮地に追い込むような選択を絶対に取るわけにはいかないのだ。


 俺はふぅっと一息ついて考えるのを打ち切り、エルザたちに合流する。

 すでに魔石は拾ってくれていたようなので、合流したらそのまま歩き出した。


 それからも小規模な戦闘が度々起こるが、問題なく対処し、ついに第3層へとつながっているらしき通路に出くわした。


「結構かかったわね」


 白石が腰に手を当てながら語りかけてくる。

 俺も相槌を打とうとしたのだが、それより先にカインが口を開いた。


「いやいや、こんなに早く攻略先に進めるだなんて思ってもみませんでしたよ。

 盗賊団の連中はみなさんの数倍の規模でここを管理していたというのに......」

「まぁ、その盗賊団をお縄にしてここに来たわけだし、ここで手こずってちゃ攻略なんてとても現実味もないだろうしなぁ」

「それもそうね。出てきた魔獣もすでに相手にしてきたから慣れていたし、これなら3層もそんなに手こずらないんじゃないかと思うのだけれど」

「......すごいですね」


 カインは小並感な言葉を絞り出すのがやっとという様子だ。

 とはいえ、ここまでの行動で結構な時間が経過していた。

 日光がないのでどうしても体感しにくいが、懐から時計を取り出してみてみると、外はすでに陽が落ち始める時間だった。

 

 この世界の時計は砂時計が一般的だ。

 一時間刻みで砂がすべて下に落ちると自動でひっくりかえるようになっている。

 これは俺がこの時計を買ったときにスマホのストップウォッチ機能を使って確認したので間違いない。

 いくら電源を切っているとはいえ、さすがにもうバッテリーは残ってないだろうな......。


 また、ひっくりかえる度に砂の色が変わるので、大体の時間が把握することが可能だ。

 砂の色は12色で1周期なので、この世界の時間もだいたい24時間と考えられるようだった。

 転移袋の中では時間の進行が止まってしまうので、俺は懐に入れて持ち歩いているというわけだ。

 

「今日はそろそろ終わりにしよう。丁度3層に降りる通路を見つけたし、途中で止まって休息をとれば普通に休むよりは魔獣に出くわす心配もそんなにないだろうし」

「そうね。疲れを溜めるのもよくないし、私もそれがいいと思うわ」

「あたしも賛成」


 俺達にアルや愛姫も乗っかって方針が決まった。

 こうして俺達は第2層も突破し、第3層につながる通路で夜を明かすことにするのだった。

 

 ここまではこれまでの冒険とさほど変わらない敵だった。

 しかし次の第3層、俺達はこれまでまだ出くわしたことのない敵と戦うことになる。

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