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星に願いを~ものぐさ勇者の異世界冒険譚~  作者: 葉月幸村
第3章 いざ! ダンジョン!
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3-24 連続する戦闘

 戦闘が終了し、俺達は再び奥へと歩き出した。


 盗賊の一味と魔獣が戦闘になったということで、ひょっとすると死体が転がっているのではないかと思っていたのだが、どうやら死体は骨まで食われたのかどこにもなかった。

 あるのは冒険者が身に纏っていたであろう防具や武具だった。当然血も流れていたのだろうが、地面に吸い取られたのと、いくら光源を俺が確保していようと外に比べればどうしても薄暗いので一見してそれらしき痕跡を認めることはできなかった。


 まぁ死体なんて誰も好き好んで見たくはない。

 それはそれで精神衛生上願ってもないことなのでありがたかった。


 カインはひとしきり装備の残骸を見ていたが、どうやらイエナの装備は落ちていなかったようで安堵の息をこぼしていた。


 広いスペースを抜けるとまた細い通路が延々と続いている。

 魔獣が大量発生したと聞いていたので、俺は1層よりも間隔を狭めて”鷹の目”を発動し、魔獣とバッタリ遭遇することがないように索敵を継続した。


 歩き続けること1時間。道中10回弱の交戦が起こり、俺達は魔獣を都度掃討していた。

 大量発生しているのはどうやら間違いないらしい。

 一層よりも明らかに魔獣との遭遇頻度が上がっていた。


「ほんと数が多いわね。あの広い空間みたいにすごい数がいるわけじゃないから追い詰められたりはしないけ、ど!!」


 白石がコボルトの振るう剣を受け止めながら語りかける。

 通路での戦闘では俺達の距離も近いので、テレパスを使うまでもなくそのまま喋りながら戦闘している。


 白石が受け止めて動きを止めたところにすかさずティナが横から急襲してコボルトを尻尾の一撃で弾き飛ばす。壁に叩きつけられたコボルトは苦悶の声を上げたあとに絶命して姿を爆散させた。


「数が多いといってもそれが脅威になるレベルでもないわね。各個撃破で十分対応できてしまうし。

 私としては早く次の層にたどり着きたいところだわ」


 エルザも目の前のホブゴブリンを面倒くさそうに両断しながら返事を返す。

 会話の片手間に殺されるホブゴブに一抹の憐憫を覚えるが、確かにこの強さの魔獣と数匹出くわしたところで動揺するような練度でもないので仕方がないか。


 今回の会敵では白石とエルザだけで片がついていた。

 視界から魔獣が消え、周囲にも隠れていないのを確認したところで魔石を広い集める。

 エルザは精霊の力を借りる際に代償として魔石を提供しているため、2層最初の戦闘以外では己の剣技だけで戦っていた。あとあと強敵と出くわしたときにストックがなくて火力が足りなくなるなど目も当てられないので、当然といえば当然の対応だった。


「カイン、まだこの階層は続くのか?」

「そうですね。一応最短経路で進んでますけど、現時点で半分ほど進んだところでしょうか」

「1層よりかなり広いんだな」

「そうですね。ダンジョンは下層に降りるにつれてその広さを増していくみたいですし」

「迷宮都市の深層とかどんな広さなんだろうな」


 あまり考えたくないが、もし面積が倍々ゲームで進んでいくとなるとかなり厄介だ。

 仮に正方形状の空間と仮定して、1層降りるごとに縦横がそれぞれ2倍になれば面積は4倍。

 さらに1層降りればそのまた4倍。4の累乗で広くなるのはさすがにご勘弁願いたかった。


「ある一定の広さになったら極端に広大になることはないらしいわよ?

 魔獣も下に降りれば降りるほど強くなっていくのだし。序盤の敵が弱いうちは広さで、下に降りれば魔獣の強さで冒険者を苦しめるのがダンジョンみたいね」

「どっちも適度にお願いしたいな」

「あら、強い敵が出た方が退屈しないでいいじゃないの」

「一緒にするなバトルジャンキー! それに、強すぎる敵が出たらどうするんだよ。逃げてもその先で挟まれたらなんて考えたくもないぞ」

「そうよねぇ。転移魔法に制限が掛かっているわけだし、自分たちの戦力と敵の戦力の見極めは大事よね」


 そんなやり取りをしながら俺達は踏破目指して歩き続けていた。

 だが、戦闘を含めるとかれこれ3時間弱動きっぱなしだ。

 俺達年長組はまだしも、愛姫とアルに疲れが浮かんでいるように見えた。


 本来、ちびっ子とは無限の体力の持ち主ではあるが、こと移動という行為を長時間こなすことには向いていない。また、ここは敵がいつ湧き出してくるかも分からない空間だ。

 そろそろ一息ついたほうがいいかなと俺は判断する。


 やがて、2層の入口ほどではないが、ぽっかりと開けた空間に出た。

 魔獣の気配もなく、手頃な場所に感じられたので、


「なぁ、ここらで一旦休憩を取ろう。

 初めての環境だし、先を急ぐのも大事だけど、集中を切らすのも考え物だし」

「え? でもまだあたしは......」


 白石が振り向きざまに口走るが、チラリとアルと愛姫の表情が視線に入ったのか話しながら意見をひっくり返す。


「......動けるけど、あんたも疲れてるみたいだし、少し休憩しましょうか」


 こいつ、とっさに俺に罪を着せやがったな!

 まぁいいさ。実際俺も少し休みたいし。もっと先に進もうと最後まで言わなかっただけ有難いというものだ。

 あの瞬間、愛姫とアルが白石を鬼かなにかを見るような視線で見てたし。


「そうだな。鷹の目でこまめに索敵は続けるから、食事でもとろう」

「ごはん!!」


 愛姫が目を輝かせる。

 お腹がずっと空いていたけど我慢していたのだろう。

 俺の腕をユサユサと揺すって早く早くとねだっている。

 アルも地面にペタリと座り込んでいつでもいけますと言わんばかりに食事の体制を整えていた。


 白石が転移袋からシートを取り出してその上に車座に腰を降ろす。

 遠足で使うシーツのようなものだが、地面にあたる面には汚れを弾く機能がついており、座る面はフカフカのカーペットのようになっている優れものだ。


 ずっと立ち続けていたために柔らかな感触がとても心地いい。

 白石はもう一度転移袋を探って人数分の軽食をとりだした。

 転移袋に入っている間は時間の経過も止まっているので、食材が腐ることがない。

 改めてこの道具一つに込められて技術の高さを俺は感じていた。


「いっただっきま~す!」


 愛姫は受け取ったサンドイッチを両手で掴んでパクリと一口。

 疲れているときの食事だ。幸せな様子で頬を緩ませていた。

 アルもかじる度に耳がピョコピョコしている。


 俺達も食べ始めて腹を満たしていく。

 これがダンジョン飯というやつだろうか。俺としてはいつ敵がきても対応できるように気を張っているので味を満足に楽しむことができないな。


 幸い食事を取っている間は魔獣が現れることはなかった。

 食べてすぐに動く気にもなれず、もう少し休もうかと話をしていると、傍らでアルと愛姫がこっくりこっくりと船をこぎ始めた。


「あらあら、可愛い顔で寝てしまって」

「初めての環境だし、歩きっぱなしで疲れたんだろうな。アルは俺達と戦ってるし、愛姫も俺達の邪魔をしないように怖いのを我慢して気を張ってたんだろ。もう少し休ませてやろう」

「そうね。普通の冒険者もこまめに休憩を取るって座学で言ってたし、むしろ今日の戦闘の頻度を考えたら当然かもね」

「カイン悪いな。急ぎたいだろうけど」

「いえ、気にしないでください。実際に戦っているのはみなさんですし、消耗して当然だと思いますから」


 そういってカインは気にしないでくれと手を左右に振る。

 さすがに不眠不休で進むわけにはいかないし、どこかでこうして休む必要もある。

 攻略か撤退するまでここから出られないわけだし、そこらへんのさじ加減を間違えると手ひどいしっぺ返しが来るかもしれないからだ。


 いつの間にか愛姫は俺の太ももを枕に、アルは白石の腕に寄りかかって眠っている。

 そんな二人の寝顔を眺めながら、俺達も少しでも疲れをとろうと束の間の休息を送るのだった。

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