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星に願いを~ものぐさ勇者の異世界冒険譚~  作者: 葉月幸村
第3章 いざ! ダンジョン!
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3-23 第2層

 第1層の終点に到着した俺達は、第2層へと通じる通路の中腹で立ち止まって会話を交わしていた。


「えっと、第2層は入ってすぐに大きな空間が広がってて、カインたちはそこで魔獣たちと戦闘になったんだよな?」

「はい。恐らくまだ魔獣たちが多数いるんじゃないかと思います。1層には2層の魔獣の姿がなかったので、おそらく僕を追って1層に上がってきた奴らも戻っていったんじゃないかと」

「2層の魔獣の構成を教えてもらっていいか?」

「はい。基本はホブゴブリンとコボルト、その上位種、たまにオークといった構成です」

「てことは、俺達がホトリ村で相手をした魔獣と合致するな。あいつらの魔獣部隊の主力はこの2層だったってわけだ」


 カインの答えと俺達が実際にホトリ村で相対した魔獣が符号したことに納得しながら話を進める。


「カインが襲われてからまだそう時間が経ってないし、到着早々に戦闘開始になる可能性が高いと思う。

 おまけに入口には大きな音が鳴る扉つきだ。

 カインは入る前に”潜伏”を発動して気配を消しておいてくれ」

「分かりました」

「他のみんなは警戒しながら隊形を整えて進んでくれ。

 大規模な戦闘になるかもしれないけど、空間は広いらしいからこれまでの戦闘と変わらないと思う」

「うん!」

「分かったわ」

「任せて」


 こうして俺達は再び歩き出す。

 しばらくすると下り坂の勾配がなくなり、平坦な道になった。

 あとはこの1本道を通り抜ければ第2層だ。


『鷹の目』


 俺は鷹の目を発動して先の索敵を行う。

 先ほど取得した暗視機能の追加で暗い空間でもクリアな視界を確保できている。

 熱源感知は周囲に擬態していないかを確認するために追加したが、今のところそういったことをする魔獣は見受けられなかった。

 広い空間に出たなと感じて視点の高度を上げると、


「いるな......めちゃくちゃ」

「やっぱり?」


 俺の嫌そうな声に白石も嫌そうな雰囲気で相槌を打つ。


「あぁ、数は......50匹くらいいるな」

「ちょっ、多いわね」

「大量発生が重なって広い空間にたむろっているのでしょうね」

「アル、入ると同時に獣覚しといた方が良さそうだ」

「うん、分かったよイオリ兄ぃ!」

「みんな頑張ってね!」


 意外と反響してしまうので普段よりも小さめの声でやり取りし、俺達は一本道を通っていく。

 視線の先に開けた空間が見えてきた。

 俺は光量を極限まで抑え、テレパスを発動する。


(ここから先、テレパスを発動しておくから何かあったら使ってくれ)


 全員が返事を返すのを確認し、この時点でカインは”潜伏”を発動した。

 俺達の目の前で発動したのでこの場の全員にカインと愛姫の存在はバッチリ知覚できている。

 だが、魔獣はその存在を認識できないので、入口の扉付近で待機する手筈になった。


(カイン、もし恋人のイエナの姿があっても自分で向かわずに俺でテレパスで教えてくれ。

 そうしたら俺が転移魔法ですぐに確保するから)

(分かりました。お願いします)


 これにて準備は完了だ。

 すでに扉もしっかりと見えているし、その先にはうろうろと動き回るコボルトやホブゴブリンの姿が見える。


(行くぞ、アルの獣覚と同時に戦闘開始だ。アル、タイミングは任せる)

(分かった。すぅ~、はぁ~......行くよ!!)


「獣覚!!」


 アルが内なる金色の狼の本能を解き放つ。

 周囲を激しく風が吹き荒れ、体躯が一回り大きくなるとともに魔力も爆発的に増大していった。

 エルザがアルの獣覚と同時に扉を音も構わず開け放ち、近くにいたコボルトを出会い頭に真っ二つに切り裂いた。


『ライト』


 俺は光源となる魔力球を天井近くに打ち上げて光量を増して空間を明るく照らす。

 魔獣たちは俺達の姿を見て慌てふためいた様子を見せながらも口々に喚き散らしながら武器を手に取った。

 

「ガアァアアァア」

「グギャギャギャギャ」


 大声を出してこちらを威嚇するが、それで怯む俺達ではない。

 

「シルフ、力を貸してちょうだい」


 エルザもシルフを呼び出して風を纏い、移動速度と剣の威力を向上させた。

 相手にするには不足だが、そこは数で妥協しようといったことを考えてるんだろうなぁ。

 アルとエルザは自分たちを越えて進もうとする魔獣に向けて襲い掛かる。


 エルザが剣を振るう度に魔獣はその体を分かたれ、アルも前肢で敵を切り裂き、後ろ脚で蹴りつけて骨格を破壊していく。たちまち10匹弱の魔獣が塵となって姿を消し、残りの魔獣たちは恐れをなしたのか動きを止める。

 次に予想されるのは連携しての攻撃だ。見れば後ろの方に上位種の姿が見え、喚きながら指示を飛ばしているようだ。


 このまま相手の準備を待ってやる義理もないので、俺は後方から攻撃に加わる。


『炎を纏え 大きく広がれ 豪炎弾』


 普段の大きさよりも数倍大きい、直径2m程の大きな火の球が生み出された。

 狙うは後方の上位種付近。俺は煌々と輝きながら敵を屠らんと燃え盛る炎の塊をそれいけと撃ち放つ。


 猛スピードで敵集団目掛けて巨大な炎塊が飛んでいき、魔獣たちは慌てふためいた様子で散り散りになっていく。だが、俺もそれを易々と逃すつもりはない。


 弾着地点からは既に魔獣は退避しているが、俺は杖を振るって更なる性質変化を加えた。


『弾けろ!』


 俺の言霊を受け、炎塊が地面に着弾した瞬間。

 ゴォウっという轟音とともに塊が一気に弾けて炎が地を這うように広がっていく。

 直撃を避けたといっても爆心地からそう遠くへは逃げられるわけもなく、多数の魔獣がなす術なくのたうつ炎に飲み込まれた。


「グギャアァアアァァ」


 足元を焼かれ、激痛に襲われた魔獣たちが悲鳴を上げながら転げまわる。

 逃げ遅れた魔獣のなかにはすでに霧散した魔獣も多数存在していた。

 俺はこの機を逃すまいとテレパスで語りかける。


(敵が混乱してるうちに一気にカタをつけよう! 全員散開して手負いのやつから処理していってくれ。

 他は俺が受け持つ!)

(分かった!)

(了解!!)

「行くわよ!ティナ!」

「クルアァ!」

(手負いを片付けたら他も片付けていいわよね?)

(もちろん! 残党も素早く狩ってここを抜けよう)

(ふふふ、行ってくるわ)


 俺の指示で3人が一気に駆け出した。

 俺はブーストを発動して全員の基礎能力を底上げして、難を逃れた魔獣たちへと魔法を放つ。

 

 足を焼かれて立っていられない魔獣たちはあっという間に斬られ、裂かれ、砕かれてその体を消していく。

 手負いを狩りつくしたらすぐにエルザたちも残りの掃討に加わった。

 最後の一匹をエルザが両断したところで空間が静寂に包まれるのだった。

 

「お疲れ」


 俺の声で全員の肩からフッと力が抜ける。

 軽く労いを交わしながら、周囲に散らばった魔石を拾い集めては転移袋にしまっていった。

 

「カイン、一旦潜伏を解いていいぞ」

「分かりました。それにしても皆さん本当に強いんですね。あの数の魔獣相手に楽勝だなんて......」

「まぁ盗賊が襲ってきたときにこれの倍以上の魔獣を相手にしてるしな。あれに比べたらまだ楽だよ」

「すっげぇ......」

「そういえば、イエナの姿は見えなかったのか?」


 俺が尋ねると、カインは俯きながら答える。


「はい、ずっと周囲を探してましたが見つかりませんでした。ひょっとしたらもう......」


 それ以上は言えないといった感じで口を噤んだ。

 先の言葉は俺達も当然予想できたので、気休めにしかならないが俺達はカインを励ました。


「まだそうと決まったわけじゃない。この先で見つかるかもしれないし、希望は捨てるなよ」

「そうよ、まだ諦めるには早いわ」

「彼女のことを信じて進みましょう」

「頑張ろう、カイン兄ぃ!」

「元気だし!」

「皆さん......ありがとうございます。そうですね、僕が弱気になっても仕方がない。彼女はまだ生きてる。そう信じて先へ進みます」


 再び目に火が灯り、拳を握りしめるカインを見て、俺達は再び前へと進むのだった。

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