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星に願いを~ものぐさ勇者の異世界冒険譚~  作者: 葉月幸村
第3章 いざ! ダンジョン!
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3-21 潜入

 頭を下げて懇願するカインを見て、俺達は無言で視線を交わす。

 見方によっては、俺達の行動も遠因の一つと言えなくもないのかもしれない。

 俺達の行動に合わせてビルス達も移動していたわけだし、カインたちはそのあおりを受けたわけだ。


 白石やエルザも似たようなことを考えているのだろう。

 その表情は暗かった。


 どのみち、俺達がカインの願いを断ったとして、カインはダンジョンに潜るだろうし、俺達だって断ろうが受けようがダンジョンを突破するという目的は変わらない。

 別行動をとって後々死体になったカインと再開する未来というのもなんとも寝覚めが悪いな。


 俺は頭を下げたままのカインに声をかける。


「分かった。一緒にいこう。途中魔獣を倒しながらになるとは思うけど、できる限り急いで先に進むようにするから。それでもよければってことにはなるけど、どうだ?」


 俺の言葉に、カインはガバっと顔を上げる。

 泣きそうになっているのを必死でこらえた様子で俺の手をガッとつかみ、


「ありがとうございます。どうかよろしくお願いします」


 こうして、俺達のダンジョン探索にカインという同行者が加わることになったのだった。


 俺達はカインに軽い自己紹介を済ませ、ダンジョンに入った際の動きを再確認する。


「まず、索敵を俺とアルで担当する。カインは知っている範囲でいいから道案内をしてくれ」

「うん!」

「分かりました」

「前衛はアルとエルザ。白石はその後ろから二人のサポート、俺は後衛で全員をサポートする」

「分かったわ」

「任せて」


 ここまでは前と変わらぬやり取りだ。カインは2階層までならある程度道を知っているので、最短経路を進んで攻略にかかる時間を短縮することができそうだった。

 そして、カインにはもう一つの役目を担ってもらう。


「戦闘が始まったら、カインは愛姫と二人で敵から気配を消してくれ」

「分かりました」

「ただ、俺達にも認識できなくなったら何か不足の事態があったときに困る。

 だから、俺達と会話しながら能力を発動してくれ」

「なるほど。そうすればイオリさん達からは僕とアキちゃんのことを認識できるけど、魔獣は気配を感じられない状況を作れるっていう訳ですね」

「そういうこと」

「分かりました。任せてください」


 そう、俺とアルで事前に敵を察知し、戦闘が始まる前にカインの能力で愛姫と隠れてもらおうと考えたのだった。こうしておけば、敵から認識されないのだからそもそも攻撃対象にされることもなく、安全度は格段に高まるし、俺達は二人をしっかりと認識できるので、何かあったときもすぐに対応できるというわけだ。


 これでカインが加わる前よりも、むしろ愛姫の安全度は増したといえるだろう。

 戦闘力がなくても恩寵はやっぱり使い方次第だなと俺は黙考していた。


「イオリ、そろそろいきましょうか?」


 エルザが声を掛けてくる。

 カインの看病やもろもろの話し合いで当初の予定よりもかなり時間が経過してしまっていた。

 

「そうだな。時間も押してるし、林に入ろう」


 俺達は先ほどの作戦どおりの並びで林の中へと踏み入るのだった。



 林の中は静かで、俺達の地を踏む足音しか聞こえない。

 もっと魔獣の気配で満ち満ちていると思っていたので、その静けさが俺にはむしろ不気味に感じられていた。

 

 先ほどから”鷹の目”を定期的に発動させて周囲に魔獣がいないか探るが、全く姿を捉えることができていない。

 それはアルも同じで、耳をそばだてているものの、特に何もなさそうだった。


「何もいないわね。てっきりこの林も魔獣で溢れかえってると思ってたのに」

「そうだな。さっきから鳥とかなら何羽か見つけたけど、魔獣は一匹も見つからない」

「うん、ボクもそんな感じ」


 俺達が抱いていた違和感について言葉を交わしていると、カインが会話に参加してくる。


「それなら、この林には魔獣はほとんどいないと思いますよ。

 盗賊団が頻繁に出入りしてたわけですし、奴らもここは大事な収入源でしたからしっかりと魔獣は駆除していました。気配を感じないのはそのせいだと思います」

「なるほどな。そりゃ自分たちの大事な拠点に魔獣をはびこらせてるわけもないか」

「言われてみればそれもそうね」


 俺達は納得し、ならば先を急ごうと先ほどまでよりも少し歩を早めて先を進んだ。


 歩き続けて30分ほど、地図とカインの道案内もあって、俺達はダンジョンの入口へとたどり着いた。

 そこには、これまで林に生えていた木々よりのひときわ大きな木が立っていた。

 幹の直径はおそらく3mほどだろうか。高さは他の木々よりもやや高い程度なのだが、とにかく根元付近の幹が異様に太いのだ。

 そして、その根元を抉るようにしてダンジョンの入口が口を広げていた。


「なんだかイメージしてたダンジョンとは違うな」


 俺がそんな感想を漏らすと、


「そうね、あたしも切り立った崖に洞窟があるみたいなのをイメージしてたわ」

「愛姫も!」


 俺達がファンタジー小説で馴染みのあるいわゆるダンジョンのテンプレなイメージとは違い、横穴などではなく最初から地下へと続く穴が開いているだけの造りに日本からやってきた3人組は似たような感想を抱いたらしかった。


「イオリ達が言うようなダンジョンももちろんあるわよ? 

 迷宮都市にあるダンジョンなんかはまさにそれね。

 洞窟の内部がそのままダンジョンの1階層になっていて、奥に進むと下へと続く通路があるらしいわ。

 だけど、こういう風に木の根元だったり、池の畔だったり、案外無造作にダンジョンの入口は姿を現すことも多いのよ」


 エルザがそういって持っている知識を披露してくれた。

 エルザもダンジョンに挑むのは今回が初めてだが、冒険者として経験を積むなかでそうした情報を蓄積させていたのだろう。


 ダンジョンの入口に近づいてみると、奥から入口へ向けて外気よりも若干冷たい風がゆるやかに流れているのが感じられた。

 陽の光が届かない地下に広がっているため、外よりも気温は低いのだろう。

 カインの話だと、2階層までは外よりもほんの僅かに涼しい程度らしい。


 俺達は吹き抜ける冷たい風を感じながら気を引き締める。

 ダンジョンに潜ったら、攻略するまでは外には出られない。

 これには大きく分けて2つの理由があった。


 まず一つ目、ダンジョンでは転移魔法について制限がかかることが多いらしいということだ。

 王都での座学で得た知識だが、ダンジョンではその階層内の転移はできても、ダンジョンの内部から外部に、もしくは今いる階層から別の階層への転移はできないことが多いらしい。

 つまり、階層間の移動にはそれらを通じる通路をほぼ必ず利用する必要があるということだ。

 

 詳しい理由は解明されていないが、これにはダンジョンの持つ内部構造の変動が関わっているのではないかという説が有力らしい。


 どういうことかというと、ダンジョンはその内部の構造を変化させていくのだ。

 俺の使う転移魔法は、一度通ったことがある場所でないとゲートを開通させることができない。

 それ故に、内部の構造が一部でも変わってしまうと、それはすなわち未知の領域が存在することになってしまい、転移魔法での長距離移動が困難になるということだ。

 

 当然、同じ階層内にいても構造変化が起きてしまえば未知の領域を挟んだ先には転移できない。

 

 例外として、人間の魔力を探知して転移魔法を発動することができれば階層間の移動も可能になるが、これもダンジョンの内部と外部に何かしらの隔絶があるせいか、入口付近までの転移しかできないらしかった。


 そういう訳で、これまでのように転移魔法の乱れ撃ちで強引なショートカットはできないということだ。

 当初、魔込めの腕輪で愛姫たちの保険にと考えていたが、俺はこれを思い出して、階層の入口付近で転移魔法を込めることにしている。

 オラクルの宿屋に出口を設定しても、不発になる可能性が高いためだ。

 これを考えると、カインの存在はつくづく大きい。


 二つ目は、魔獣の自然発生速度だ。

 ダンジョンでは魔獣を倒しても、通常のエリアで魔獣を倒すよりも早くその数を回復させるのだ。

 つまり、一度出て戻ってきたときにはまた魔獣の数が回復していて、階層を1から突破し直さないといけなくなる。

 転移魔法に対する制限と相まって、とても宿屋に戻ってまた潜ってという行為をとることはできないのだ。


 目の前には大きく口を広げたダンジョン。

 これからここに入り、出るのは攻略の成功、もしくは攻略不可能と判断しての撤退の二つに一つ。


 俺達は真剣な表情で視線を交わす。

 誰からも油断は感じられない。カインも恋人を助け出すという決意に満ち満ちていた。


 準備は整った。覚悟も決まった。


「よし、行こう」


 俺達はダンジョンへの第一歩を踏み出した。 

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