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星に願いを~ものぐさ勇者の異世界冒険譚~  作者: 葉月幸村
第3章 いざ! ダンジョン!
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3-19 怪我人

こちらの確認漏れにより中途半端なところで文章が途切れておりました。

誠に申し訳ございませんでした。

こちらが正式な本日の更新分となります。

以後このようなことがないよう注意いたします。

 翌日、俺達は宿屋を出てから再びダンジョンのある林へと転移した。

 また冒険者に売り込みを掛けられたり絡まれたらたまらないので、有名人のエルザにはフードを被ってもらうことで身バレを防いでいた。


 盗賊狩りの二つ名で有名なエルザ以外は一見して誰と分かるような面子はいないので、エルザさえ正体が分からないようにしてしまえば問題なくやりすごせるということが判明して、俺達は宿屋でホッと息をついていた。


 さて、今日はいよいよダンジョンを発見するために林のなかに入る。

 もちろん、林の中のどのあたりにあるかは事前に確認済みだ。

 林の地図もビルスたちの取り調べから作られているし、目印となる特徴のある木や岩も記載されているのでそう迷わずに見つけることができるだろう。


 ただ、問題はビルスたちを捉えたことでダンジョンを管理していた人間が一時的にいなくなっていたことだ。

 ひょっとすると、ダンジョンから魔獣が溢れ出している可能性も考えられ、これまでよりも危険性は高いと聞いている。


「林に入ってからはいつ魔獣に襲われるか分からない。

 俺とアルで索敵するから、いつでも迎撃できるようにしててくれ」

「分かったわ」

「了解よ」


 白石とエルザは即座に同意を返す。

 俺が言わなくても油断などは一ミリもしていないみたいだし、問題はなさそうだ。

 アルも気合を入れているみたいで両手にグッと力を込めている。


「迎撃は基本的にエルザとアルに任せる。白石はティナと上手く連携して二人をサポートしてくれ。

 俺は後方からサポートするから。愛姫は、俺の側から離れるな」

「うん、大人しくしてる」


 愛姫もここから先はピクニック気分でいてはいけないとちゃんと分かっているらしく、普段のはしゃいだ表情ではなく真剣な顔でうなずきを返してくる。

 白石も自分の身は守れるようになっているし、アルも前衛として活躍できるようになったので、俺は後衛に専念して愛姫のガードも安心して受け持てるようになっていた。


「ただ、もし危険だと判断したときは魔込めの腕輪ですぐに退避するんだぞ?」

「うん、わかっちょるよ!」


 愛姫はそういって右手にはめた魔込めの腕輪を見せてくる。

 これを使えば俺が咄嗟に助けられないような状況になってもオラクルの宿屋に逃げることができる。

 万が一の保険もしっかりと再確認して、いよいよ林のなかに踏み込もうと視線を向けたのだった。


 すると、


「ん?」


 俺は林に入ってほど近い木陰になにやら異変を感じて足を止める。

 みんな歩き始めたと思ったら立ち止まった俺に困惑顔を向けていた。


「どうしたのよ」


 白石が俺にそう尋ねる。


「いや、あそこの木の根元、誰かいないか?」

「え?......ほんとだ! 誰か倒れてる」


 どうやら俺の見間違いではなかったらしい。

 俺達は予想外の人間の存在に戸惑うが、倒れているのを放置するわけにもいかないのでゆっくりと近づいていく。


 近づいてみると、男の子が倒れていた。

 男の子といっても、俺より2,3歳離れている程度だろう。

 おそらく中学生くらいの年齢ではないだろうか。


 見れば、体中に傷を受けている。

 着ている衣服には至る所に血痕が付着し、乾いたのか赤黒く染まっている。

 口元に手を翳すと微かに呼吸をしているのが感じ取れたので、まだ死んではいないと分かる。

 

 とはいえ、かなり重傷なのは一目でわかるし、モタモタしてたら手遅れになるかもしれない。

 しばし視線を交わしたのち、俺は少年の体に手を翳した。


『傷を癒せ ヒール』


 言霊とともに手が仄かに緑色の光に包まれ、少年にその光が移っていく。

 治癒魔法が発動し、少年の体に刻まれた傷が次第に消えていくのが確認できた。

 しかし、少年はまだ目を覚ます気配はない。


 怪我だけでなく精神的な疲労もあるのかもしれないと思い、俺はキュアも発動して肉体・精神を回復させていった。

 キュアが体に行き渡ったのか、先ほどよりも心なしか呼吸も力強くなったような気がする。

 おそらく危険な状況は脱したのではないだろうか。


「たぶんこれで大丈夫だと思う」

「そう、間に合ってよかったわ」


 エルザが少年の顔を覗き込みながら静かに答える。


「だけど、どうする?」

「そうよね......」


 俺の問いに白石は困惑した表情を浮かべる。

 見たところ俺達より年下だし、冒険者のようにも見えない。

 防具などを装着してもおらず、この環境にいる人物としてはあまりに場違いだった。


「置いていくのは危ないよな」

「えぇ。魔獣が来たら餌になって終わりでしょうね」

「だよなぁ。にしても連れて行くわけにもいかないぞ?」


 エルザの返答はもっともだが、寝ているやつを抱えたまま魔獣の領域に足を踏み入れたくはない。

 そんなことをしたら誰かしら戦力に穴が出る。

 愛姫を俺が守る必要が現時点である以上、さらに身動きすらとれない人間を抱えての移動なんて論外だ。


「目覚めるまで待つしかないか」

「そうするしかないわよね」

「えぇ。回復魔法もかけたし、そう目覚めるのに時間はかからないでしょう」


 俺の考えに二人も同意したので、ひとまずこの少年が目覚めるまで林に入るのは一旦保留となった。

 林からやや離れた木陰へと移動して腰掛け、少年もそっと横たえる。

 俺は定期的に”鷹の目”を使用して周囲の魔獣の気配を探りながら、少年が目覚めるのを待つのだった。


 木陰で佇むこと1時間ほど。


「うぅっ」


 少年が小さく呻き声をあげ、微かに身じろぎをした後薄らと目を開けた。

 

 髪の色と同じ、吸い込まれるような真っ黒の瞳だった。

 日に焼けていない白い肌との比較で余計にその瞳の色が際だっている。

 華奢な体で身長はおそらく160cm半ばってところか。

 顔つきは中性的でかっこいいよりもかわいらしいといった表現の方が適している感じだ。


 そんな少年はゆっくりと覗き込む俺達の顔を見て、


「ここは......」


 と言いながらしんどそうに体を起こした。

 辛そうな様子にエルザが手を貸しながら


「無理をしてはだめよ。ほら、木に寄りかかって。あなたはそこの林の入り口近くで倒れていたのよ。

 一体何があったのかしら?」

「......ずっと逃げてました。気づいたら、皆さんが目の前に......。あの、助けてくれたみたいで、ありがとうございます」

「それは気にしないでいいわ。それで、逃げていたって何から?」

「魔獣です。ダンジョンから無我夢中で逃げて......」

「ちょっと待って、あなたダンジョンに行ってたの?」


 衝撃の発言に思わずエルザの声も大きくなってしまっていた。

 しかし、驚いたのは俺達も同じこと。まさかダンジョンにいたとは。


「あなた、名前は?」

「......カインといいます」

「そう。カイン、あなたは一人でダンジョンに行っていたの?」


 エルザの問いかけに、それまでどこかぼんやりとした様子だったカインの様子が様変わりする。

 何かを思い出したのか、焦燥感を露わに早口で語りだした。


「そうだ。イエナ、イエナが魔獣に連れ去られたんだ! 早く戻って助けないと」


 今にも立ち上がって駆け出しそうな勢いのカインを慌ててなだめて落ち着かせる。


「一人で突っ込んでどうするんだ。丸腰で行っても死ぬだけだぞ。

 お前、何か攻撃魔法系の恩寵でも持ってるのか?」

「いえ.....攻撃魔法は......でも、早く行かないと!!」

「だから落ち着けって。俺達もダンジョンに用があってきたんだ。

 とにかく事情を聞かせてくれ。ひょっとしたらダンジョンを攻略する途中でそのイエナって子を見つけられるかもしれない」

「本当ですか!」

「あぁ、だから何があって倒れることになったのかを教えてくれ」


 俺がそういうと、カインは再び木に寄りかかるように座り込み、ここまでのいきさつを訥々と語りだした。

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