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星に願いを~ものぐさ勇者の異世界冒険譚~  作者: 葉月幸村
第3章 いざ! ダンジョン!
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3-18 川遊び

 俺達は面倒な二人組から逃れ、ゴアの城門付近に転移していた。

 もともと、ダンジョンの位置がゴアとスルムの中間に位置しているということだったので、若干だが距離の近いスルムへと転移したわけだ。


 俺達は先ほどのことを思いだし、それぞれにため息をつく。


「なんだったんだあいつら」

「よほどダンジョンに潜りたかったんでしょうね」

「出来て間もないダンジョンなら比較的危険性も少ないでしょうし、狩場としておいしいのは間違いないでしょうからね」


 とはいえ、初対面の相手にいきなりあんな感じで来られてはいそうですか、なんて言う奴いるのか?

 俺は出会った瞬間友達だぜ兄弟! みたいなノリは無理だから勘弁してほしい。


「ともかく、上手くやり過ごせたし、早速移動を開始しようか」

「そうね。転移魔法で最短で移動するのでしょう?」

「あぁ。道中で敵になる魔獣もいないのは既に分かってるし、転移魔法でショートカットして進むなら馬車があろうとなかろうとそんなに関係ないからな。よし、じゃあ早速はじめようか。『ゲート』」


 こうして俺達は再び転移魔法での移動を再開し、一路ダンジョンのある林を目指して行動を再開するのだった。

 ビルスへの取り調べにより、どのあたりに林があるのかは分かっている。

 ゴアとスルムを繋ぐ街道からしばらく北上したあたりにあるらしい。

 俺達はまず林の真南に位置する街道まで転移し、それからひたすらの北上を続けるのだった。


 厳しい日光が俺達を照らすが、温度調節の肌着のおかげでむしろ風を心地いいと感じられ、旅を始めたころのような穏やかな気分になる。途中に川が流れていたのでそこで小休止を取ったりしながらハイキング気分で移動していた。


「ねぇにいちゃん、魚がおるっちゃ!」

「ほんとだな。向こうじゃ見たことないけど、こっちも奇抜な感じじゃなくてちゃんと魚なんだな」

「そうね。あたしも足とか生えてたりしないかって割と思ってたし」

「魚に足が生えるなんて気持ちの悪いこと言わないでもらえるかしら?」


 愛姫の側に行って川を覗き込んでみると、全長30cmほどの魚が群れをなして泳いでいた。

 会話の通り、見た目は元いた世界の魚とそんなに違いは感じられない。

 色あいが白っぽく、陽の光をキラキラと反射させながら泳ぐ様は、むしろ日本の川魚よりも美しさを感じさせられた。


「あっ、この魚おいしいやつだ!」


 アルがその魚を見て嬉しそうな声を上げる。


「アル、知ってるのか?」

「うん、お父さんがよく村の近くの川から獲って来てたんだ。塩焼きにして食べるとすっごくおいしいんだよ?」


 嬉しそうに俺達に説明するアルに視線を向けて見れば、耳が普段より2割増しでピョコっている。

 大好物だったんだろうな。時刻もちょうどお昼過ぎといったところで、昼食を食べるのに丁度いい頃合いだ。

 そう思ったときにちょうど、


 グゥ~ッ


 と腹の虫が鳴いた音が聞こえ、傍らの愛姫が気恥ずかしげにたはは~っと言いながら俺に


「にいちゃん、お腹すいた! あの魚食べたい!」


 と要請してきた。アルが食べたことがあるって言ってたし、加熱すれば問題ないだろう。


「分かったよ。じゃあアルとエルザはあそこの木から適当な量の枝を切って来てくれ。枯れ枝があればいいけどそう都合よく枯れ木なんかないし」

「分かったわ」

「は~い」

「愛姫と白石はあっちから魚をこっちに追い立ててきてくれ」

「りょうか~い」

「わ~い」


 こうしてアルとエルザは木立へ枝刈りに、白石と愛姫は川へ漁業に向かいましたとさ。

 

「うわ~、気持ちいぃ~!」

「ほんと、冷たくて気持ちいいわね」


 愛姫と白石は靴を脱いで川に入って水をパシャパシャと蹴ったりして楽しそうだ。

 白石は装備が濡れないように一旦外して薄手のシャツにショートパンツの出で立ちで川に入っている。

 元からなのかもしれないが、こういう足を露出した格好だと生まれ持ったスタイルが一目でわかるものだ。

 ホント見た目はいいよな。見た目は。

 俺がそんなことを考えていると、


 パシャ


「うわっ」


 顔に水を掛けられその冷たさにびっくり仰天してしまった。

 見れば、白石が悪戯っぽい笑みを浮かべてこちらを見ている。


「何すんだよ」

「失礼なこと考えてそうだなと思って」

「べ、別に?」


 急に水を掛けられて驚いたのに加えて図星をつかれて思わず動揺してしまった。

 白石は俺の反応を見て、


「あっ、ホントに考えてたのね! 愛姫ちゃん、追撃よ!」

「了解であります! 食らえにいちゃん!」


 愛姫をけしかけて二人がかりで俺に水をかけてきた。


「うわ、やめろってコラ!」

「あぁ~ズルい! ボクもやりたい!」


 戻ってきたアルが抱えていた枝をその場に打ち捨てて参戦する。


「アル、お前はこっちだ! あいつらを迎え討て!」

「うん! え~い!」

「きゃっ、アルやったわね~」

「それそれ~」


 気づけば4人で白熱した戦いになっていた。

 エルザは川沿いに腰掛けてそんな俺達を微笑ましげに眺めている。

 柄にもないのは分かっているが、なんだか昔父さんや母さんとキャンプで川遊びをしたのを思い出して、ついはしゃいでしまった。愛姫がいるとどうにもお兄ちゃんになって相手をしてしまう。


 気づけば4人ともびしょ濡れで、へとへとになって川を出る。

 そんな俺達にエルザが話しかけてくる。


「みんな夢中で遊んでたわね」

「お恥ずかしながら」

「で、魚は獲れたのかしら?」

「「「......あっ」」」


 アル以外の魚を獲る筈だったずぶ濡れの3人組は、さらなる冷や水を浴びせられるのだった。


 慌てて川面を覗き込むがあれだけはしゃいでしまったので魚はとっくに逃げてしまったようだ。

 仕方がないので、火を焚いて濡れた服を乾かしながらしばし待機。

 10分くらいすると再び魚が泳いできたので、再び川に入る。


 愛姫と白石がバシャバシャと飛沫を上げながら川を歩いて魚を追い立て、待ち構える俺が展開したゲートに魚が突入すると陸上に打ち上げられるという寸法だ。


 異世界式追い込み漁の結果、20匹ほどの魚がぴちぴちと地面を跳ね回っていた。


「うまくいったな」

「大漁ね」

「いえ~い」


 さすがに20匹は入らないので、半分は川にリリースした。

 残りの魚の鱗をナイフで剥ぎ、内臓を取り出して川で洗って綺麗にしてから木の枝にさす。

 基本的な調味料は転移袋の中にいれていたので、塩を振りかけて焚火の側に突き刺して待つこと10分。


 パチパチという音とともに、香ばしい香りが鼻腔を刺激する。

 十分に火が通り、表面もこんがりと焼きあがったので、各自1本ずつ手に取っていざ実食。


「......こりゃあ、うまいな」

「すっごいホクホクしてる!」

「塩加減もちょうどいいわね」

「脂も乗ってる!」

「おいしぃ~!」


 真っ先に思い浮かんだのは鮎の塩焼きだ。パリパリの皮についた塩がちょうど良く、魚の仄かに甘い脂と混ざることで口の中に旨味が広がる。

 この世界で初めてのアウトドア料理だったが、俺達は大満足であっという間に2匹ずつを平らげるのだった。


 昼食も終わると、再び転移魔法での移動が始まる。

 魔獣を見かけることもあったが相手にせずにひたすら北上を続け、目的とするダンジョンのある林に到着したところで、その日の旅は終了となった。

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