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星に願いを~ものぐさ勇者の異世界冒険譚~  作者: 葉月幸村
第3章 いざ! ダンジョン!
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3-16 憧れの一品

 俺達はロイとオーウェンの後について店舗スペースへと戻って来た。

 以前買い物をしたときと比べて、一目に客の数が増えているのが分かる。

 販路拡大に伴って商品もより充実し、好循環が生まれているのが窺い知れた。


「えっと、ダンジョンに挑むにあたって必要になるものってどんなのがある?」

「そうですね。色々とありますが、まずは装備に関してに致しましょうか。

 ダンジョン挑む冒険者が必ずといっていいほど装備しているのは、温度調節の装備ですね」

「温度調節?」

「はい。ダンジョンの中は階層によってその環境も様変わりします。

 極寒の寒冷地帯になることもあれば、灼熱の炎熱地帯となることもあります。

 ですので、温度調節の魔法が込められた衣類を着込んでそれらに対応するのです」

「なるほど」


 以前ダンジョンは階層によって環境が変わることがあると聞いてはいたものの、そこまで劇的に変化するものとは知らず、俺は嘆息を漏らす。

 もちろん、俺の恩寵でそういった魔法を習得するのは簡単だが、都度都度メンバー全員に魔法をかけるのは躊躇われた。一度に消費する魔力は微妙でも、ダンジョンという未知の領域でそういった箇所に魔力を使うくらいなら、買って解決した方がいいだろう。


「こちらがその衣類ですね。温度調節といっても、温度を上げ下げするわけではなく、一定に保つ機能が組み込まれています。ですので、暑いところでも寒いところでもこれさえ着ていれば快適に行動できると思いますよ」


 ロイが見せてくれたのは、下着のようなシャツとスパッツだ。見て触って確かめてみる。一言でいえばヒート○ックのようなものだった。

 これなら着ていてかさばることもないし、数枚ずつ買っておいた方がいいだろう。


「分かった。まずはこれを買うよ。それぞれ3枚ずつくらい替えがあったらいいかな」

「かしこまりました。サイズは以前装備をご購入いただいたときに確認しておりますので、合うものを見繕っておきましょう」

「ありがとう」


 こうしてダンジョン内の温度対策は完了。

 引き続き買い物を続行する。


「あとはランタンとか......は不要ですね」

「そうだね。俺は光魔法も使えるから、光源は問題ないと思う」

「では続いてですが、”転移袋”をお持ちになった方がよろしいかと」

「転移袋?」


 初耳の言葉に俺はオウム返しで説明を求める。


「はい。イオリ様がお使いになっている転移魔法を元に、拾得した魔石やアイテムなどを保管できる道具です。というのもダンジョンで魔獣を倒した場合、魔石の外にも素材を残すことがあるのです。

 それを移動しながら持ち歩くのは非常に手間ですので、転移袋に入れて保管するのです。

 かなり高価ではありますが、皆様の実力と経済状況を鑑みれば必要経費と言えると思います」


 ロイはそういって小さなウエストポーチのようなものを手に持ってきた。

 白い革製らしき作りで、大きさは片手で余裕で持てるくらいだ。重さも非常に軽く、持ち運びに不便はないように思える。

 留め具を外して中を覗いてみると、小さく仕切られた空間がいくつも存在していた。


「とても大きなものが入るようには見えないな」

「えぇ、一見すればほんの小物入れなのです。しかし......ほら」


 ロイが手近に置かれていた剣を手に持ち、袋の中へと入れる。

 当然、普通ならば剣が底を突き破るはずなのだが、そんなことはなく、気づけば丸ごと袋のなかへと収まっていた。


「嘘だろ」

「すごい」


 俺と白石が驚愕のあまり声を漏らす。愛姫やアルに至っては声を出すのも忘れて転移袋を食い入るように見つめていた。


「ご覧ください」


 ロイがそういって中を見せてくるので覗いてみると、裁縫針のように小さくなった剣が袋の中にチョコンと立てかけられていた。


「このように、空間魔法と転移魔法を複合して制作されています。また、取り出す際は手を突っ込んで掴んでもよいですし、もし重たくて片手で取り出せないような場合はこちらを使ってください」


 ロイはそういって、転移袋に手を突っ込んでなにやらカードのようなものを取り出した。

 見てみると、袋の仕切りが描かれていて、それぞれに番号が振ってある。


「この番号を押すと......このように」


 ロイが先ほど剣を収納した区画に対応する番号を押すと、ロイの傍らに剣が突如として現れ、カランと地面に転がった。


「カードの番号を押すと、対応する区画に収納されたアイテムが転移袋の外側に自動で出てくるようになっています。手に入れた素材を納入する際などに便利ですよ」

「これは......すごいな」

「にいちゃん、○次元ポケットってあるんやね」

「まさにそれよね」


 ロイの実演に、俺たち異世界召喚組はあまりの利便性に驚愕していた。

 エルザは転移袋自体は知っていたのか、俺達の反応を見ておかしそうにしている。


「でも、転移魔法が使われてるならにいちゃんにも作れるんやない?」

「いや......これは転移魔法だけじゃなくて色んな魔法が複合的に組み合わせられてる。今の俺には無理だな」


 そう。願いをいくつか消費すればこの道具も自作できるかもしれない。しかし、道具一つを作るために願いを複数使用するのはどうにも決心がつかなかった。

 恐らく、この道具一つを作るのに複数の貴重な恩寵持ちが携わっているのだろう。

 いかに転移魔法を使えると言えど、現時点の俺の技量ではそれらを一人で結集させるのは到底無理に思えた。


「ちなみに、これっていくら?」

「聖金貨5枚です」


 これまでの商品とは一線を画す価格だった。

 日本円に換算すると1億円。しかし、この道具が持つ利便性を考えると、頷けてしまうから恐ろしい。


「冒険者ってみんなこれ持ってるのか?」


 俺の中の冒険者像とかけ離れた金額に恐る恐る聞くと、ロイは苦笑を浮かべながら答える。


「まさか。当然普通の冒険者の方々には手の届かない一品ですよ。

 この道具は数多の修羅場を潜り抜け、死線を乗り越えて生き残った冒険者の方々が手にできる代物です。ですから、これを持っていることはそれ即ち指折りの冒険者ということになりますね。

 冒険者は、みないずれはこれを手にすることを目標の一つに日々命をかけて依頼や討伐に取り組んでいるのです」


 なるほど。これを買えるだけの財を成すには、当然難易度の高い依頼をこなして金を貯めないといけないし、買えるころには名実ともに一流の冒険者になっているってわけだ。

 これはある種持っていることがステータスになる道具ということになるらしい。


「ちなみに、ダンジョンに潜る冒険者の中には当然これを持っていない連中の方が多いだろうけど、そういう人たちはどうやって活動してるんだ?」

「それはもちろんこまめに往復するんです。迷宮都市などでは、各階層に転移魔法が発動する魔法陣などが敷かれていますので、持てるギリギリの素材を回収したらそれで帰って換金という訳です。

 中には荷物持ちとして人員を雇う場合もありますね。それに向いた恩寵持ちもいますので、ダンジョンの入口にはそういった方々が自分を売り込むために立っていたりしますよ」


 ロイの説明に俺達はへぇ~っと世間知らず丸出しの反応を返してしまう。

 迷宮都市に行ったことがないので仕方ないが、やっぱりまだまだこの世界のことをほとんど知らないのだと痛感した。


「ちなみに、これより安い転移袋ってないの? ほら、内容量を少なくするとかで価格を抑えたり」


 白石が次いで質問をすると、


「技術的には当然可能なのでしょうが、そうすると制作者側の手が足りなくなってしまうのですよ。

 価格を落とせば購入者は増えるでしょうが、現状その増えた需要に応えるだけの供給の目途が立たないのです。ですから、市場に出回るのはこの規格の転移袋のみで、価格も固定です。もちろん、王族の方々は特別ですが、それ以外はいかに高位の貴族の方々といえども、入手できるものは同じなのです」

「へぇ~」


 なにやら政経の授業を受けているような気分になりながら俺達は説明を聞いていた。

 たしかに、レアな恩寵をありったけつぎ込んでいるわけだし、需要と供給の均衡を考えると現状がベストということだろう。それ故に冒険者にとっても持つことが憧れの一品という地位を得ているわけだし。


「というわけなのですが、いかがなさいますか?」


 ロイが説明を終え、俺達に購入の意思を確認する。

 俺達は視線を交わすが答えは当然決まっていた。


「一人一つで」

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