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星に願いを~ものぐさ勇者の異世界冒険譚~  作者: 葉月幸村
第一章 転生、そして旅立ち
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1-9 魔法

 翌日から、七聖天による訓練が始まった。午前中は全体での基礎体力強化。昼食をはさんで、午後からはそれぞれの戦闘組と魔法組に分かれてのメニューだ。


 戦闘系の恩寵の者はガイアス、レアル、ロイスによる戦闘訓練。魔法系の恩寵の者はルリア、ティト、シャロによる魔法習得のための座学と実技となった。


 俺は表向きは転移魔法の恩寵持ちなので、後者の訓練に組み込まれた。

 訓練の間は愛姫は暇なのだが、俺の部屋のお付きのメイドさんに相手を頼んだ。


 訓練の中で、まず魔法組が最初に取り組んだのが魔力の操作だ。

 教室となった室内でルリアが説明する。


「皆さんの体内には、魔力が常に血液と同じように巡っています。

 しかしながら、脈拍のように、物理的にその流れを感じることはできません。感覚的なものですので、最初のうちは思うようにいかないかもしれませんが、コツをつかめばそれ以降はほぼ無意識でも感じることができるようになります。

 それでは目を閉じてください」


 促されるまま、一同は目を閉じる。


「そのまま、自分の体内に意識を向けてください。心臓の鼓動に耳を傾けながら、

体内を巡るエネルギーを感じるのです」


 幸い、転移魔法を使った際に魔力の流れを感じることはできていたので、この訓練はクリア済みだ。念のために魔力の流れを感じ、目を開く。

 どうやら、半分ほどは感じることができたのか、次第に目を開けていく。


「いったん目を開けてください。流れを感じることができた方もいるようですね。まだの方の参考に、どんな感覚だったか教えてもらえますか」


 そういって端から順に答えを促す。


「俺は、心臓の鼓動に合わせてなんか暖かいものが流れてる感じがした」

「え、うちは冷たい流れだと思った」

「私は温度は感じなかったけど、赤いイメージの流れを感じた」

「俺は最初になんか違和感を感じて、それに意識を向けたら感じられたかな」


 それぞれの感想を聞きながら、ルリアはにこやかに微笑みながら頷く。


「はい。皆さんの感想を聞いて分かったかと思いますが、魔力というのはその人の特性そのものを表すため、感じ方が人それぞれなのです。

 例えば、暖かいと感じた人は火、冷たいと感じた人は水といった具合に、得意な魔法の属性を表していることが多いですね。

 ヒントになっていないかもしれませんが、まだ流れを感じていない人は、先ほど挙がっていた違和感を探してみてください。ではもう一度」


 そうして何度か繰り返すと、全員が体内の魔力の流れを感じることができた。

 そして、それぞれの属性なども確認し、自分の魔力についての理解を深める。


 俺は色や温度は感じることはなかった。プレートの属性に”無”とあったし、現状の属性は特にないということだろう。それに転移魔法は無属性らしいし、プレートの記載を追加でごまかす必要はなさそうだ。


 次に行われたのが、魔力の放出の訓練。

 今度はティトが前に立って説明をする。


「さて、次は魔力の放出の練習だね。さっきまでの訓練で、みんなの中に流れる魔力については軽く理解できたと思う。今度はそれを体外に放出する訓練だ。

 言うまでもなく、魔法を使用するための大前提となる技能だから、しっかり習得してね」


 室内をぐるりと見渡しながら説明をしていく。


「じゃあさっそくやってみよう。みんな、目を閉じて」


 先ほどと同じように目を閉じる。


「さっきまでと同じように魔力の流れを感じる。そして次に、その流れを自分の利き手に集めるようにイメージして、それが出来たら、今度はその集めた魔力を維持するようにイメージするんだ。できた人から目を開けてね。じゃあ始め」


 目を閉じて、自分の魔力の流れに意識を向ける。ここまでは問題なし。

 次だな、流れを自分の利き手に集める......か。右手に流れる魔力でやってみるか。

 そう判断して、右腕の流れに意識を集中させる。そして、それらの魔力を右手に寄せるようにイメージすると、掌に流れが集中するのが分かった。


(......よし! ってあれ?)


 一瞬出来たと思って気を抜いてしまったからか、せっかく集めた魔力が元の流れに沿って逃げてしまった。うっかり維持することを忘れてた。


(集めて......それを、キープする......よし!)


 今度は途中で気を抜くことなく魔力を集めることができた。気を抜いて魔力が掌から抜けないように意識を残しながら、閉じた目を開く。

 今度は先ほどとは違って、ほかの生徒も出来たようで、数分で全員が目を開けていた。


「おいおい、みんな一発でクリアかい? 驚いたな、普通は維持に手こずるんだけど......。さすがは異世界の住人ってところかな?」


 そう言いながらも、嬉しい誤算だったようで、ティトはにっこりとしながら次の説明に入る。


「じゃあいよいよ放出にいってみよう。みんな、掌に集めてる魔力を押し出すようにイメージしてごらん?これは一回僕がみせよう。ほら、こんな感じ」


 そう言って、ティトは右手を前に差し出すと、掌から白い靄のようなものがシャワーのように放出される。


「とまぁ、うまくいけばこんな風になるかな。じゃあみんな、準備はいいかい?さぁ、始めて」


 ティトに促され、それぞれが自分の掌に意識を向ける。俺も、先ほどから維持している魔力を掌に感じながら、溜めている魔力を一気に押し出すようにイメージする。

 すると、一瞬抵抗を感じたが、その直後に掌から、ティトほどではないが、緩やかに靄がかった魔力のシャワーが放たれた。


 上手くいってホッと胸を撫で下ろすと、周りでも魔力のシャワーが立ち昇っていく。


「おぉ~、これもみんな一発クリアか。優秀な生徒たちだと教え甲斐があっていいね。これならどんどん次のステップに進めるよ。

 あ、ちなみに、放出を止めたいときは、魔力の維持を止めればいいからね」


 そう言われて掌から意識を外すと、自然と魔力の放出は収まった。


「よし、魔力の放出については以上だよ。次のステップはシャロに任せるね」

「オッケー。みんな、ここまでは順調にいったようで何よりね。でも、ここまではほんとに基礎の基礎。魔法を操る者ならこんなのは息をするのと同じように当たり前よ。これからが本当の訓練だと思ってね」


 そういって、ニヤリと笑みを浮かべるシャロ。どうやらここまでは準備運動みたいなもんか。


「魔力の知覚、移動、維持、放出。次のステップは、放出した魔力の性質の変化よ。

 そしてハッキリ言えば、私たちの授業はこれでおしまい」

「え?」


 思わず何人かの生徒が声を出してしまう。まだ訓練が始まった初日でいきなりレクチャー終了宣言が飛び出してしまえば無理もない。


「ん~♪ みんな、期待どおりのリアクションごちそう様! 

 どういうことかっていうとね、魔法っていうのは、基本的に放出する魔力の性質を変容させることで、その効果や威力を変化させていくものなのよ」


 そこまで説明して周囲を見渡すが、シャロの言葉にまだピンときている者はいないらしい。


「見せた方が早いかな。性質の変化っていうのは、こういうことよ」


 そういってシャロは先ほどのティトと同じように手を前に差し出し、魔力の靄を放出させる。

 しかし、その直後に、放出される魔力が揺らめきながら形を変え、激しく回転を始めたかと思ったら、あっという間に球状に変化した。


「これが性質変化よ。さっきまでのあなた達は、ただ魔力をダダ流しにしてただけ。それにこうした性質変化を加えてこそ、魔法は無限の可能性を持つの」


 楽しそうに話しているが、その間に、シャロの掌の上の魔力の球は、小さな竜巻や、細長い鞭、鋭い矢、薄い円盤といった形にどんどん形を変えていく。

 

「そして、これに自分の持つ属性を込めることで、魔法は完成するの。こんな風にね」


 そう言って言葉を切ると、シャロの掌の魔力は再び球状に戻り、次の瞬間、球が赤々と熱を帯びる。


「これが、火属性の初等魔法の火球よ。属性が変われば水球、風玉って具合に、各属性の基本魔法ね。  で、これからあなた達には、さっき見せた球状への性質変化をやってもらうんだけど、何か質問はあるかしら?」


 練習の前に質疑応答の時間が設けられたので、疑問に感じたことを質問する。


「あの、いいですか?」

「はい。えぇっと、イオリでいいのかしら?」

「はい。えっと、性質を変化させて、それに属性を付与することで魔法が発動するっていう仕組みは分かったんですけど、だとしたら俺の転移魔法とか、後衛魔法系の支援魔法ってどういう仕組みなんですか?」


 俺が疑問に感じたのは、いくら魔力に性質変化や属性を加えようと、転移魔法が発動する仕組みに納得がいかなかったからだ。

 それに、支援魔法ならば性質変化どうこうでその効果が変わるとは思えない。

 シャロは質問を聞き終わると、へぇっと小さく呟きながら、嬉しそうに口を開く。


「初日のレクチャーでそこに疑問を抱けるなんてなかなかやるじゃない。まぁ、みんなにはまだ早いかもしれないけど、質問もあったんだし説明するわ。

 さっきの繰り返しだけど、魔法ってのは、基本的に魔力の性質変化と属性変化で完成する。基本的にはね」


 そこまでいって、シャロは再び手をかざし、魔力の球を生み出す。


「私は支援魔法職で、戦闘においては回復や能力上昇の様々な効果を付与するんだけど、これを可能にするのが恩寵なの。

 支援魔法職の恩恵っていうのは、自分の発する言葉に魔力を込めることで、様々な効果を生み出すの。この、魔力の込められた言語は言霊ことだまって言われてるわ」


[汝の肉体に、堅牢なる鎧をまとわせん。ディフェンシブ]


 シャロが言霊を唱えると、浮かんでいる球がぼんやりと光を帯びたように感じた。


「こんな風に、言霊を込めることによって、様々な効果を魔力に込められるってわけ。

 これが支援魔法の仕組みよ。言霊は、始めのうちはきちんと詠唱したほうがいいけど、慣れたり、自分の力量があがれば簡略化することも可能ね」


 ここまでは楽しそうに話していたシャロだが、ここで少し困ったような表情を浮かべる。


「で、君の言ってた転移魔法なんだけどね。これも、基本的には支援魔法と同じ原理だと考えられてるけど、使用できる者が極端に少ないっていうことから研究が他の魔法より進んでなくてさ。

 同じ仕組みだと思われる......としか言えないんだよね。うまく説明できなくてごめんね」


 俺が愛姫をこっちの世界につれてきたときのことを思い出してみるけど、シャロの言ってる言霊なんて俺は使ってない。そもそも知らなかったのだから当たり前だが......。

 ただ、魔力を糸のように伸ばしたりしてたから、性質変化は加えていたのは間違いない。無我夢中で魔法を使ってたけど、こうして理論を聞くとうなずける部分も多かった。


「説明してくれてありがとうございました。いろいろ納得できました」

「そっか。参考になったのならよかったよ。転移魔法以外にもレアな魔法ってのは色々あるけど、性質変化に恩寵が加わることで発動するってことは同様だと思うよ。

 さて、ほかに質問はあるかしら?」


 シャロが周囲を見渡すが、どうやら他に手が上がることはなさそうだ。


「よし、じゃあ始めましょうか。性質変化ができるようになって、初めてひよっこ魔法使いの誕生よ。

 つまり、魔力ダダ流ししかできない今のあなたたちは、ひよこですらないわ。せいぜい受精卵ってところね。はやく殻を破って生まれてきてちょうだい」


 挑発的な言葉を発して、ペロっと舌を突き出すシャロ。

 悪戯っぽい笑みを浮かべながらこちらを煽ってきた。


 こうして、それからの訓練では、性質変化に大半の時間を割き、それぞれがひよこから立派な魔法使いになるべく熱心に取り組んだ。

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