表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/153

~プロローグ~ ☆

はじめまして。

葉月幸村と申します。

こうして拙作をご覧いただき、誠にありがとうございます。

オリジナル小説初投稿ですが、楽しんでいただければ幸いです。

挿絵(By みてみん)


福岡県北九州市。


 九州最大の経済規模を誇る福岡県で、福岡市に次いで2番手を張る地域である。

 またの名を、「修羅の国」。

 治安の悪さは全国でも有数であり、東京の戦闘民族「足立区民」の精鋭たちですら、北九州市では足軽程度の強さでしかないと言えば、お分かりいただけるだろうか。


 特に銃関係の犯罪が多く、朝のローカルニュース番組の、

「本日、○○区の住宅に銃弾が撃ち込まれてました」というニュースをBGM代わりに、味噌汁をすすれる程度の精神力を一般市民ですら持っている。


 俺、不二伊織フジノイオリはそんな地域で高校生活を送っていた。

 先に述べたようなデンジャーゾーンに住んではいるものの、俺自身はいたって普通の学生として、市内でも有数の進学校である私立大正学園高校に通っている。

 小学校から高校までの一貫校であり、中学進学時に受験で外部から生徒を受け入れ、一学年250人ほどの規模で構成されている。


 俺はいわゆる内進組とよばれ、小学校から数えると在籍11年目となる高校2年生だ。

 大学受験を翌年に控え、文系クラスに在籍している。文理選択の比率は1:2といったところで、文系は2クラス合計70名という構成だ。


 季節は梅雨があけ、夏が今か今かとクラウチングスタートの体勢で待ち構える6月下旬。 

 クラス替えからある程度の時間が経過し、クラス内である程度のグループ分けが済んだころである。


 俺自身は別に陰キャラというわけでもなく、人見知りもしないほうだが、特にクラス内のグループには所属しておらず、静かな日々を過ごしていた。


 長く通っているだけあって、どの生徒とも話をしたことはあるし、仲が悪いという訳でもないのだが、俺は周りの同年代の少年少女たちとの間にどうにも相容れなさを感じていた。


 クラスメイトといわゆる友人として仲良くする必要を感じていなかったし、独りで過ごすということに大して苦を感じる性格でもなかったので、今の状況を変えなければとも、変えたいとも思っていない。


 午前最後の授業が終わって昼休み、お待ちかねのランチタイムだ。

 仲の良い友達と席をくっつけたり、連れだって学食へと向かう。極めて平凡で日常的な光景である。


 俺はというと、誰かと机をくっつけたり、クラスメイトと連れだって学食へと向かうでもなく、手提げ鞄を肩にかけてそそくさと教室を後にする。

 向かうのは、同じ敷地内にある小学校校舎の下駄箱前。


 俺の到着とほぼ同じくして、下駄箱のほうからタッタッと駆けてくる足音が聞こえ、


「おまたせ、お兄ちゃん」


 とかわいらしい声がする。


 彼女は不二愛姫フジノアキ。俺の妹だ。

 今年小学4年生になった10歳。もともと身内びいき抜きにかわいらしい顔立ちで、肩より少し長い髪を、花をあしらったゴムでツインテールにしている。

 そんな天使のようなザ・ロリっ子が、兄を見つけて満面の笑顔で駆け寄ってきた。


「おう、んじゃ昼飯食おうか」

「うん」

「今日は天気もいいし、あそこで食べようか」

「だと思ったから外靴に履き替えたであります」

「でかしたぞ、愛姫3等兵! では疾くゆかん!」


 突発的に始まった兵隊さんごっこに興じながら、二人は並んで歩いて、小学校校舎の下駄箱ほど近くの日時計に腰を下ろす。理科の授業で使われるか使われないかギリギリのオブジェだが、平らでなおかつがっしりした石造りのため、椅子として非常に便利がいいのだ。


「よっこらしょ。ほら、愛姫のぶんな」

「ありがと」


 教室から持参した手提げ袋の中から大小2つの弁当箱を取り出し、小さいほうを手渡す。ちなみに弁当は俺のお手製だ。


 俺たちの両親は7年前に他界しており、今は俺と愛姫の二人暮らしだ。

 当初は母親の親戚の家に引き取られたのだが居心地が悪く、俺が高校生になった2年前から両親と住んでいた家で再び2人で暮らしている。


 当然2人は未成年であり、俺もバイトなどをしているわけではなく収入はないが、幸い父親が医師だったこともあり、子供二人で生きていくうえでは不自由しないだけの遺産を相続できた。


 父親は自分の万が一に備えて、古くから親交のあった弁護士の友人に成年後見人を頼んでおり、その人ができた人だったおかげで、こうした暮らしをすることができている。


 後見人のおじさんは、両親がなくなってからもとても親身に面倒を見てくれ、遺産目当てに近寄ってくる親戚の前でも毅然と対応してくれた。二人で暮らすようになってからも、定期的に顔を見に来てくれたりと気にかけてくれる本当に

いい人だ。

 

 そんなわけで、俺は両親の代わりに家事スキル全般を習得しており、料理も問題なくこなせるのだ。特に料理は俺の得意とするところであり、毎日二人分の弁当を作って持参している。


「今日は何かな~......。 わぁ、エビフライ♪」


 蓋を開けて中を確認した途端、愛姫の顔に笑顔の花が咲く。エビフライは愛姫の大好物のひとつだ。

 弁当には愛姫の好物を1種類は入れるようにしており、俺は愛姫の弁当箱を開けたときのリアクションを見て、満足そうに小さく微笑んだ。


 「おいしい~♪」


 エビフライをぱくっと頬張り、ぽわーんと呆けた顔で堪能している。どうやら味も問題なかったらしい。安心して俺も手製の弁当に箸をつけた。


 愛姫の午前中の授業のことや、友達との話を肴に弁当を食べ進めていたのだが、


「あっ、朝のHRで先生が、最近ニュースでやってるミイラ事件のこと話してたよ。

 学校が終わったら寄り道せずにまっすぐ家に帰りなさいって」

「あ~、そういや今朝もミイラになった死体が見つかったんだっけ。確かに不気味だよな」


 全国連続失踪事件、通称”ミイラ事件”。

 先月あたりから日本各地で失踪事件が相次ぎ、失踪者がしばらくして干からびたミイラになって発見されるのである。

 目立った外傷などがみられないことから、偶然にも同じような事故が連続しているという意見や、異常者による猟奇的な連続殺人事件であるという意見が、連日ニュースを飛び交っていた。


 あまりに不気味な事件で、早く決着してほしいところだが、警察は事件か事故かの判断をつけるだけの情報がなく手をこまねいているようだった。


「誘拐事件が連続してるってだけでも勘弁してほしいのに、おまけにシワシワ死体になって戻ってくるってんじゃあんまりだよなぁ」

「うん...... 怖い」

「しばらく落ち着くまでは一人で帰ったりしないで友達と帰んな」

「うん...... にいちゃんは?」

「なんだ、兄ちゃんと一緒じゃないと怖くて帰れないのか? かわいいやつだなぁ」

「んなっ、ちがうっちゃ! にいちゃんが怖いんやないかと思っただけやし!」

「はいはい、ちょっかいかけて悪かったよ」

「ふんっ、にいちゃんのことなんか知らん」


 拗ねてぷいっと逸らした顔がかわいらしい。

 興奮した時に出てくる北九州弁もまたかわいらしい。


 ちなみに、福岡の方言=博多弁というイメージが世間一般かもしれないが、実際には福岡市の方の人が使う博多弁と、北九州市一帯の人が使う北九州弁がある。

 簡単にいえば、~ったい。という語尾になるのが博多弁で、~っちゃ。という語尾になるのが北九州弁だ。


 伊織は両親の転勤でこちらに引っ越してきたので標準語で普段話しているが、愛姫は幼いころから北九州で育ったので、北九州弁が結構染みついている。


「はぁ、俺も授業終わったら軽く晩飯の買い出しして帰るよ。」

「.............」

「お~い、愛姫さんや~い」

「.............」


 どうやらプンスカプンらしく応答がない。しかし、こんなときの対処法も当然把握しているため、俺は慌てず次なる一手を打つ。


「アントワネットのプリン」

「......!!」


 愛姫の首がぐりんっとこちらのほうへ戻ってきた。どうしよう、ちょろすぎるんだが。


 アントワネットとは、学校と自宅の間にある洋菓子店で、愛姫はそこのプリンが大好物なのだ。これをちらつかせればほぼ100%で機嫌を直せるという万能アイテムである。


「何個?」

「2個......いや、買えるだけ!!」

「はいよ。じゃあ買って帰るまで大人しく家で待ってろよ?」

「うんっ!」


 どうやら拗ねていたことは記憶の彼方まで吹き飛んだ様子の妹を見て微笑み、食べ終わった弁当箱を手提げに戻す。


「じゃあ、もうじき昼休み終わるから教室に戻るね」

「あぁ。眠くなっても頑張って先生の話聞くんだぞ~」

「寝ぼすけのにいちゃんに言われたくないよ。べぇ~」


 舌を短く突き出しながら悪戯っぽく微笑み、愛姫は教室へと戻っていった。

 俺は残り15分程となった昼休みを有効に過ごすべく、日時計にそのまま体を預けてゴロンと横になって目を瞑る。


 日差しが体に降り注ぎ、体を優しく抱きしめるように温めてくれ、緩やかに吹く風が、木の葉を鳴らしながら木々を通り過ぎて涼を与えてくれる。

 目を瞑っていても、瞼の向こうには太陽の日差しをはっきりと感じられ、まるで体の内側までも照らされているかのように思えた。


 俺はこうした日向ぼっこが何よりも好きだ。

 こうして何するでもなく太陽の下で目を閉じていると、あの頃の感覚を思い出せるのだ。

 家族みんなで過ごしていたあの頃を。


 もうあの日々には戻れないが、こうして降り注ぐ陽の光を浴びていると、まるで父さんや母さんが傍らで抱きしめてくれているように感じられ、何とも言いようのない穏やかな気持ちになれる。


 自然と表情が穏やかになり、気持ちよさからそのまま眠りに落ちそうになっていたのだが、


「そろそろ起きないと午後の授業さぼりになっちゃうよ?」


 突然声をかけられ、俺はうつつの世界から引き戻された。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ