出会い
放課後になるまでとてつもない程に、長い時間がかかったような感じかした。授業は聞こえていても頭入ってこなくて、そういう日に限ってよく指名されてしまう。だからこそ、放課後になってやっと一息つけたものだ。これからが私と楠山先生の長い話し合いになる予定なのだけれど。
誰もいない化学室で先生を待ち続ける。彼が指定したはずの今日の放課後の時間だというのに、臨時の職員会議のせいで私は一人さみしく待っているのだ。窓の外からはグラウンドで練習をしている運動部員たちの声が聞こえ、廊下の遠くの方では合唱部の綺麗な歌声が聞こえる。みんなが青春を送っている中、私は一体、何をしているのだろうかと少し暗い気持ちになってしまう。
鞄の中から一枚の写真を取り出してそれを眺める。この間母が取り出した私の小さいときの写真だ。ハル兄、それと高校生の時の楠山先生。二人と手をつなぎながら、泣いている小学生の私。記憶にない文化祭のこと、これが、これからの話の鍵に違いない。ハル兄の事を好きだった時の記憶なのに、文化祭に連れて行ってもらった記憶がないのは引っかかってしまう。好きな人との文化祭の記憶なんて、小さい頃の私には宝物の筈である。よっぽど嫌なことがあったのか、それとも、忘れなくてはいけなかったのか。
謎は深まるばかりで、答えを持っていそうな人物はまだ現れない。ボーッとしながら暇を潰していると、化学室のドアが開いた。やっと来たのか、そう思い顔を上げるがそこには誰もいなかった。誰かのいたずらだろうか。ドアを閉めようと立ち上がると、遠くから祭り囃子の音が聞こえた。それと共に誰かの走る足音が聞こえた。走っている人物は、この教室に向かってきているようだ。足音と共に祭り囃子の音が近づいてくる。足音の人物は楠山先生で私を見つけると駆け寄って来た。先生が私の腕を引いた瞬間、彼の後ろから、赤い光がやって来て私たちを包み込んだ。その時の先生の表情が悲しく、そして怒りを持った表情であることに気がついてしまった。