04
「まぁ、でも、貴女はこちらに良く呼ばれそうな縁を持っている。それなら此方の話もしなければ、きっと悲しいことが起きてしまう。」
狐面はさみしそうに言い、翁面もどこか落ち込んでいるように見える。
「それならば、話そう。巡鬼について。」
「巡鬼、彼は昔、ある妖怪とともに罪を犯した。どんな罪かは誰も知らず、ただ、終わらない祭の管理をさせられていた。巡鬼は外のものが入ってきても元の世界へ戻れるように迷い込んだ人間を導く役割を持っていた。」
「だがしかし、罪人は外の人間と存在を交換することで、外で暮らせる。それがたった一つ残された、罪から逃れる方法であった。」
それだと巡鬼さんの役目は、罪から逃れる方法と矛盾しているのではないか。そう思っていると翁面と狐面はケラケラと笑っていた。その様子は妖と呼ぶにふさわしく、そして何よりも楽しそうだった。
「罪から逃れたところで、妖怪が人間になったところで、幸せになれるわけないだろう。他のものに役割を押し付けた怠け者に、新たな不幸が訪れるだけさ。」
「他の者を不幸にしてまで幸せになれるものなど、いるのなら見てみたいものよぉ。」
「そろそろ、帰らせないと巡鬼が帰ってくるかもしれない。さぁ、今日はここまで。人の子よ、縁がまた導いてくれることを祈っているよ。」
もう話す気がないのか面たちはクルクルと私の周りを回るだけ。私は水の椅子から立ち上がって池の奥まで進む。振り返っても面たちは見えず、池が遠くまで広がっている。私の目の前には白い鳥居だけがある。もっとたくさん話したいことがある、聞きたいことがある、それなのに、どうして私は何も言えないのだろうか。
一歩前に踏み出すと、私は目を閉じた。周りが黒く染まる前に、視界をなくしてしまえばいい。ふと、自分以外の何かが近くにいる気がした。優しく、恐ろしく…そして懐かしい何かが。
何かを確認するために目を開ける前に、学校に戻ってしまった。目を開けるといつもの廊下。その先に、驚いたような表情を浮かべる楠山先生がいた。先生と目が合うと先生は真剣な表情で近づいてきて、私に質問をした。
「一人でマツリに行ったのか。」
「なんで、そんなこと聞くんですか。」
「…一人で行ったのか。それだけでいい。答えてくれ。」
あぁ、まただ。聞きたいことがあるのに、聞けない雰囲気。先生はきっと私の知らないことを知っているはずなのに。
「一人です。ところで先生、今日はお時間ありますかね?」
「…あぁ、行ってしまったのなら、言わなければいけない。だが、今日はダメだ。明日の放課後、化学室で会おう。」
そう言って先生は去っていく。今すぐにでも知りたいのに、でも、今日はもう疲れているから明日でよかったのかもしれない。