03
ふわふわとした気持ちになっていると急に体が止まった。というより誰かに腕を掴まれて、体が前に進まなくなった。
「…人の子か。」
振り向くと男の人がいた。緑を基調とした浴衣に黒の羽織を着て、目が隠れるような布のお面をつけていた。この男の人は先程の犬の顔をした人のように、変わっているところはなかった。
「人の子だな…行くぞ。」
ぼーっと見ていたら彼の中で私が人の子だと言う結論に至ったようで、腕を引いて歩き始めた。周りの流れを逆らうように歩くので、足が縺れそうになるし腕も痛い。
…まぁ人の子かと聞かれて、私の現実逃避は終わってしまったのだけれど。周りの人たちが文化祭のコスプレをしていると思うことはもう出来ない。それに私がいる場所も学校ではないし。帰り方もわからない今、私がとりあえず考えなければいけないのは、腕を引く彼について行って良いのかということだ……手を振りほどけないほどに強く掴まれているから逃げようがないけれど。どんどん先に進んでいく彼が止まったのは飴屋の屋台の前だった。そこでは美人の若いお兄さんが飴を売っていた。
「…おや?巡鬼が連れているなら、今回の迷子かな?」
「代は払うから、いつも通りに頼む。」
「はいよ。」
腕を引いていたのはメグリオニというのかそう呼ばれていた。飴屋のお兄さんは飴を作っていた。綺麗で透き通った赤い色の飴を器用に丸くして棒を刺した。それを私の前に差し出してくる。受け取っていいものなのか困り、隣にいるメグリオニさんを見上げると頷かれた。良いと判断して私は飴を受け取って食べた。もし、これに毒でも入っていたら美人がつくるものは信用しないようにしようと、固く誓って。
食べてみると普通に甘い苺の味のする飴だったけれど。特に様子を窺う素振りも見せてこないし、本当にただの飴だった。そして飴屋のお兄さんは右隣の屋台に手をかざした。右隣には射的屋があったがお兄さんが手をかざすと、射的屋は跡形もなく消えてしまった。ぽっかりと空いたその空間の奥には闇ではなく細い砂利道が続いていた。その道へと行くのかメグリオニさんはまた腕を引く。
「お兄さん、ありがとう。おいしいです。」
一応お礼と感想を言っておく。後に礼も言わなかったなと思われたくないし。私の見た目が金髪でよろしくないから、知らない人といざこざを起こさないためにも愛想は大切だ。飴屋のお兄さんが人じゃないかもしれないけど。まぁ、人相手じゃなくとも愛想は大事だと思う。