02
結局、私が暗幕を化学室に返しに行くことになった。地味に重いし、わざわざ私が行かなくても男子が行けば何事なく終わる可能性が高かったんじゃないか。そう思った時にはもう教室に戻るのが面倒くさい距離まで歩いていた。それに化学室は教室がある生徒棟とは別の特別棟にあってもう渡り廊下にまで来ていた。暇そうにぼーっとしていた私も悪かったと反省しながら歩いていると、どこか遠くから笛と太鼓の音が聞こえてきた。祭囃子のような音で、特別棟でも出し物なんてあったかなと疑問に思った。こっそりのぞいてみようと音がするほうへ行くと、ぼんやりとした赤い光が見えた。
今はもう廊下が薄暗くなっていて、火災ベルの上にあるランプが点灯して見えるのかと思っていたらその光はゆらゆらと揺れてこちらに向かって来た。逃げるようと考える暇もないほどの速さでやってきた光は、私を包み込むかのように目の前で弾けた。
あまりの眩しさに目を閉じてしまって、次に目を開けた時には学校の廊下ではなく祭の中にいた。遠くで聞こえていた祭囃子は大きく聞こえて、左右には屋台がずらりと並んでいる。誰もいなかったひっそりとした廊下とは違ってた大勢の人たちが行き交っている。
驚きのあまり石のように立ちすくんでいると、後ろから来た人にぶつかってしまった。その人は小さく会釈をすると私を避けて進んでいった。その人は男で軍服のようなかっちりとした装いだった。だが、顔が人ではなく犬のような顔で耳も生えていた。頭が理解することを拒否していて、文化祭だしなんかのコスプレだろうと思うことにした。この場所についてはわからないけど、目立ってもいいことはないし、立っていても邪魔になるだけだ。
人の流れに流されながら屋台の後ろ側にでも回ろうかと思って屋台の方へと目を向けると、屋台同士はぴったりとくっついていた。後ろ側は暗いのかよく見えなくて、真っ暗な闇が続いていた。後ろには回れないし、行くのもなんだかやめたほうがよさそうだ。おいしそうな食べ物の屋台や、ヨーヨー釣りなどの遊べる屋台を眺めながら進んでいく。楽しそうにキラキラと輝いているように見えて、驚きなんてどこかに飛んでしまった。きっと祭の空気に飲まれてしまったんだ。