命の値段
『アダマンゴーレムとの戦闘でデコイになってくれる冒険者募集。一人10万R』
かくして、募集が始まった。
正直、命がけの仕事に高々10万R程度で人が集まるのかと思ったが、予想に反して応募が殺到した。中にはマールの名前もある。
俺だったら、こんな値段であのゴーレムと戦うなんて絶対に嫌だ。だが、1000万Rやるから参加してみないかと言われれば、考えてしまうような気がする。
そして、応募してきた冒険者たちは、俺が100回死ぬような戦いでも、余裕で生き残るだけの体力と技術を持っている。彼らが考える命の値段は、俺の感覚の100分の1なのかもしれない。
さて、応募してくれた冒険者たちへの説明などはマリンさんがやってくれる手はずだ。
俺は見積りを作って、アルタルの元領主のもとへ行かなければならない。
それでは見積りを作成してみよう。
事前調査費用 40万R 見積り作成費用現地調査4名
人件費 470万R 47名×10万R
諸経費 100万R 47名のアルタルまでの旅費、支度金などざっくり計算。
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費用合計 610万R
これくらいが最低限必要な金額だ。
仮に2000万Rで見積りを出すとすると、
契約金額 2000万R
費用 610万R 小計より
ギルド管理運営費 210万R クリルナ支部3人のひと月分の賃金合計×3
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利益 1180万R
ギルド管理運営費の金額の給料の三倍というのは、元いた世界の考え方からだ。インセンティブは利益の一割なので118万R。悪くない……。
だが、これは果たして妥当な金額なのだろうか。依頼主と感覚が大きくずれていなければいいが。できれば、前回はいくらで受注したか知っておきたい。だが、ギルド本部から送られて来た資料には、その辺の情報がないのだ。
頭を悩ませていると、ナルバ支部長がちょうど通りかかる。これ幸いにと聞いてみる。
「ちょうどいいところに。今、見積り作っているのですが、前回のアダマンゴーレムっていくらで契約したか知っていますか?」
ナルバ支部長は思い出すように言った。
「確か1800万Rだったかなぁ」
「そうですか!」
俺は大規模クエストの見積りなんてしたことがなかったので不安だったが、それほど金額的にはずれていないようだ。それとも誰がやっても、似たような値段になるのだろうか。
「支部長、見積り金額を算出したので依頼人に会いに行ってきます」
『アダマンゴーレム討伐 2200万R』
俺はサインをもらうために、たった今作った見積書と契約書を支部長に手渡した。
「あれ? 君の机にある資料だと2000万Rじゃないの? この契約金額一割上乗せされているのだけど」
俺はパタパタと手を振って、支部長に応えた。
「これは、相手が値引き交渉に来た時のために乗せてあります」
値引き交渉なんて取引の基本だ。向こうの世界では、大手企業の調達部は必ずと言っていいほどやってくる。「これからも一緒にお仕事したいので、ちょっと努力してもらえませんか?」なんて電話を俺はしょっちゅう受けていた。これを見越して、見積もりに値引き分の金額をこっそり忍ばせておく。たいていは一割程度。それだけ値引きしてやると、相手も納得して引き下がってくれる。逆に上乗せしておかないと値引きできない時なんかは、ガチで相手とバトルになる。相手も値引き交渉が仕事なので、いくら安くしたという成果がほしいのだ。
こちらもそれを見越して金額は設定しておかなければならない。この世界の商流がどうなっているかは知らないが、今回も念のために。
「そうか。わかったよー」
支部長はあっさりサインしてくれた。どうやら、こっちの世界でも商売のやり方はそんなに変わらないようだ。
俺はその契約書を持って、アルタル領主のユーノに会い、契約を取り付けてきた。
やはり安くしろと言ってきたので、若干渋った様子を見せ「困りましたね、こんなに安くしたら支部長に怒られてしまいます」などと言いつつ、ざっくり200万R差し引いてやった。ぴったり2000万Rの金額を提示すると、アルタル領主もあっさり承諾してくれた。
準備は整った。
ようやくアダマンゴーレムとの決戦である。