なかなか思い通りにはいかないですね
俺はすぐに対アダマンゴーレム戦に必要な人員を集めにかかった。必要なのは、とにかく盾。攻撃はミヅキに任せるとして、あとは彼女を守るための盾が必要なのだ。
ミヅキのエクスは魔法と違って射程は短いため、敵の近くで力を溜める必要がある。
その時間を稼ぎながら、ミヅキを守れる盾があればアダマンゴーレムは攻略できるはずだ。俺はクリルナ支部のデスクから、マリンさんにお願いをした。
「マリンさん。とにかくできる範囲で、盾役をかき集めてもらえるかな」
「はい! 承知です!」
俺は祈るような気持ちで朗報を待った。そして、確かに何人もの盾役の冒険者が、その呼びかけに応えてクリルナ支部に集まってくれた。
しかし……。
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「どうだった? ミヅキ、ドラミ」
ギルドの俺のデスクがある場所に、ミヅキとドラミが戻ってきていた。
「いえ、やはりアダマンゴーレムの攻撃を真正面から受けられる人はいないみたいです」
「だめダ。あいつラ、一撃でふきとばされるゾ」
「そうか……」
応募してきてくれた盾役の冒険者たちが使えるかどうか、実際にゴーレムを体験したミヅキとドラミに試してもらっていた。だが、どうも結果は芳しくない。
「みなさん、たしかに高い防御力をお持ちです。普通のクエストなら問題ないかと。ですが、超重量級のアダマンゴーレムの攻撃を受け止めるのはちょっと辛いと思います」
ミヅキのダメ押し。
「しかし、もう時間もない。このまま、優れた盾役を待つのも考えたが、そうしている間にクリルナ支部は赤字を抱えて潰れてしまう可能性がある。強力な盾役が一人いれば、それだけでクエストを成功させることができるはずだが、やはり都合のいい考えだったか」
ミヅキと盾役をある地点に配置して、ドラミがアダマンゴーレムを釣って、ミヅキの所まで引っ張る。ゴーレムの攻撃を盾役が防ぎ、力を溜めていたミヅキが反撃する。そのあとは脱兎のごとく逃げる。アダマンゴーレムは一定距離以上、アルタルの街を離れないのはわかっている。一回逃げきって落ち着いたら、また戻ってきて同じことを繰り返す。
釣り→攻撃→離脱 仕切り直し 釣り→攻撃→離脱
これを繰り返すのだ。そうすることで、比較的安全に攻略できるはずだと考えていた。これなら、投入する人員も少なくて済む。しかし、肝心の盾がいないのだ。
「なかなか思い通りにはいかないですね」
ため息を吐くマリンさんを見ながら、俺は続ける。
「ミズキと盾役と補助にドラミでもつければ人件費を大幅に減らしつつアダマンゴーレムを倒せたと思う。大きな利益も見込めたのだが、それはどうやら無理そうだ。
ならば、攻め方を変えるしかない。大量のおとりを用意して、アダマンゴーレムの注意を引き付けている間にミズキに攻撃してもらうしかない……」
俺は頭の中を整理しながら、彼女たちに話した。
「まずは『一閃』パーティー。
メインアタッカーはミズキ。それを守るタンク二名。そして、なにかあったときのためのヒーラー。このチームには応募してきた中で一番判断力に優れた人材を充てる。なぜ判断力かというと、アダマンゴーレムの動き方次第では、ミヅキの集中を中断させその場から避難させる必要があるからだ。
タンク二名はアダマンゴーレムとの戦闘の余波からミヅキを守ってもらう。片方のタンクが負傷した場合でも、回復してすぐに戦線に復帰できるようにヒーラーもつける」
ミヅキが、抱えるようにして持っていた刀をぎゅっと握りしめる。
「次におとり役。
派手な攻撃で敵を引き付けるデコイアタッカー。アダマンゴーレムの攻撃は受け止めることが難しいので、攻撃をしつつ回避もできることが望ましい。ただ、そういう人材がなかなかいないかもしれない。一番適しているのはドラミだろう。敵の頭上を飛び回って攻撃をかわしながら、強力なハルバードの一撃をお見舞いできる。だが、魔法に比べると派手さがないのも事実なのだよな」
「ほめてル? けなしてル?」
複雑な表情をするドラミの頭に手を置いて、わしゃわしゃとなでてやる。くすぐったそうに目を細めるドラゴニカの少女。よし、ごまかせた!
「なので、おとり役もパーティーにしようと思う」
「編成はどうなります?」
ドラミと違ってミヅキは俺にチャチャを入れない。
「まず、デコイアタッカーとしては、攻撃は派手なほうがいいから魔法系アタッカ―を採用しよう。それにタンク1名のコンビがおとり役パーティーの構成だ」
「ヒーラーはいらないんですか?」
マリンさんが疑問を投げかけてくる。ちなみにドラミはまだ俺の手の平の下で、ネコのように喉をゴロゴロ鳴らしている。
「まぁ、待て。順番に説明する」
俺は咳払いをして続ける。
「おとり役パーティーは複数設置して、アダマンゴーレムを囲むようにして順番に攻撃してもらう。ゴーレムが向かってきたパーティーは、攻撃をやめて、その場から撤退。その時に受ける追撃はタンクが何とかして弾く。今回応募してくれたタンクの連中だが、真正面からがっつり受けるのは無理だとしても、逃げながら攻撃の余波を防ぐぐらいはできそうか?」
「それなラ、たぶん、できル!」「できると思います」
ドラミとミヅキの言葉を受けて、俺も覚悟を決めた。
「そうか、なら、これで行く!
①おとり役パーティーがゴーレムを攻撃
②ゴーレムにターゲットにされたパーティーは撤退
③距離をとれば、ゴーレムは近場にいる別パーティーにターゲットを変更
④撤退後、ターゲットから外れたパーティーは態勢を立て直して再び戦列に復帰
⑤①~④の間にミヅキには『一閃』を放つため集中。
⑥力が溜まったら、ドラミがゴーレムを誘導、ミヅキが『一閃』で攻撃
⑦『一閃』パーティーは一時撤退 ①に戻る
これが作戦単位だ。
そして、作戦全体ではこれをゴーレムが倒れるまで繰り返す」
一息に話した俺に、ミヅキが申し訳なさそうに頭を下げた。
「めんどうなエクスですいません……。力を溜めながら少しでも移動できればいいのですが。集中が途切れちゃうので……」
「お前があやまることじゃない。アダマンゴーレムを斬り裂くことができる、ダメージを与えることができる。それは今まで誰もできなかったことだ。自信を持て」
「は、はいっ!」
ミヅキは意外そうな表情で、俺の顔をまじまじと見つめた。
「撤退の際に負傷することも想定される、ヒーラーを数人まとめて医療班を設置しよう。
それに釣り役はドラミ! おまえに頼んでもいいか。高速で飛行しながら移動できるお前が一番適任だと思う」
「いいゾ!」
「よし、ならば構成はこうだ。
『一閃』パーティー×1 ミヅキ、タンク2名、ヒーラー1名。
『釣り役』×1 ドラミ。
『デコイ役』パーティー×21。 魔法系アタッカー、タンクそれぞれ1名。
『医療班』パーティー。ヒーラー2名。
合計 49名
結構いい人数だな。ミヅキとドラミ以外の必要人員の内訳はこうだ。
魔法系アタッカー 21名
タンク 23名
ヒーラー 3名
マリンさん、これで募集をかけてくれ」
「課長、おとりパーティーが21である根拠って何でしょう?」
「それはミヅキが『一閃』を放つ数だ。ひとつのパーティーが数秒間、敵を引き付けることができれば、仮にやられてしまっても、ミヅキは最大で21発の『一閃』を放つことができる。そして、それだけ撃てば、ゴーレムを倒せるだろうと予測している」
「なるほど、では冒険者の日当はどうしましょう」
「相場だと一日1万Rだったか?」
「アダマンゴーレム討伐は危険度が他のクエストに比べて段違いなので、一人10万Rはくだらないかと」
「そりゃそうか。ゴブリン相手じゃないものな。値切って人が集まらないような事態もよくないし、10万Rで募集をかけてみようか。戦力が確保できることが分かった時点で、見積りを作成して依頼主に会いに行くよ」
きっともっといい方法がいくつかあるのだろうな。だが、検討している時間はない。正攻法に近く、被害も予想されるが、とにかくこれで行くことにした。先延ばしにして、機を逸してしまってもしょうがない。兵は拙速を尊ぶと言う。これに当てはまるかどうかはわからないが、決断しなければ何も始まらないのだ。