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もう一つの関ヶ原②秀吉が奪ったもの

少し長いのですが、ご堪忍願います。

「あざみは、『たいこう』が大嫌いなのじゃ!!」


いきなりそう啖呵を切られた俺は、まさに顔面蒼白で色を失って、思わず後ずさってしまった。

あざみの幼い瞳には、憎悪がこもっている。そのような目をむけられるいわれは、俺にはないはずなのだが、その強い視線に押されて、反論するどころか言葉さえも出せない。


そんな彼女の様子を見かねた兄の権兵衛が、思わず俺たちの間に入って、彼女の事を優しくなだめた。


「おい、あざみ。藤吉は、なんの関係もあるめえ。そう睨まんでもよいだろうに」


「ごんにいは優しすぎるんじゃ!あざみは、絶対に許さねえ!」


兄の威厳など全く感じられず、彼女に一喝された権兵衛は、苦笑いを浮かべて、黙ってしまった。


彼女は一歩俺につめ寄ると、大きな声をさらに大きくして、俺に烈火のごとく怒鳴った。


「でてけ!!さむらいの子なんか、顔も見たくない!今すぐでてけ!」


あまりの彼女の剣幕に、今まで静観していた才蔵が、俺の前に出て、無言で彼女を見つめる。その視線は威圧するでもなく、かと言ってへつらう訳でもなく、穏やかなものだ。

しかし、彼女は、そんな才蔵にも、果敢に食ってかかってきた。

その様子は、まさに怖いもの知らずといったところか…


「なんだあ!?お前さんもさむらいか!?だったら、一緒にでてけ!」


戸惑って動こうとしない俺に業を煮やしたのか、彼女がぐいっと前に出る。

そして俺の胸ぐらをつかもうと手を伸ばしてきた。

しかし、これには才蔵も黙ってはいない。

彼の手があざみの手をつかもうとしたその時であった。


「あざみ!いい加減にしろ!!」


と、少し離れたところから、威勢のよい老人の声が響いてきたのだ。

その一喝に、ぴたりと手が止まるあざみ。

そして勢いよく振りかえると、声の主に文句をつける。


「じじ様には関係ない事じゃ!あっちへ行ってておくれ!」


あざみの祖父なのだろうか…じじ様と呼ばれた老人は、長くて白いひげを携え、しわくちゃな顔をこちらに向けて、静かに近づいてきている。

表情は穏やかだが、孫娘のわがままは許さないとでも言わんとしている強い瞳だ。


そしてあざみの前までやってくると、先ほどの一喝した声とは大きく異なる、秋風を思わせるような柔らかな声で、彼女に言った。


「関係ねえことはあるまい。お前の兄上が連れてきた客人じゃ。それなら、わしの客人でもある。同時にあざみの客人でもあるぞ。

あざみは、客人をもてなす事も出来ねえくらい、悪い娘っこなのか?」


「そ…そんなことはねえけど…」


ばつが悪そうに、うつむくあざみ。理にかなった説得に、反論できずに苦しんでいるようだ。

その様子に、一層声の調子を柔らかくした老人は、


「あざみが、良い娘っこなら、お客人にこれまでの無礼を謝りなされ」


と、俺に謝罪をするように諭した。


震えながらゆっくりと振りむき直すあざみ。

顔は下を向いたままだが、その瞳には涙をいっぱい溜め、顔は悔しさのあまりに真っ赤に染まっている。

俺はその触りがたい雰囲気にのまれ、相変わらず声も出せないまま、彼女の出方をうかがった。


「…言えねえ…あざみには言えねえ…」


ぼそぼそと何かつぶやくあざみは、どこか調子が悪そうに苦しい表情を浮かべている。

俺は思わず心配になって、


「だ、大丈夫か?顔色が悪いようだが…」


と、あざみの顔をのぞきこんだのだが、それが彼女の導火線に火をつけてしまったようだ。

突然顔をあげたと思うと、大粒の涙をこぼしながら、嵐のように絶叫した。


「あざみには『すまねえ』なんて言えねえ!!」


あまりの剣幕に俺は思わず尻もちをついてしまった。

そんな俺を見下ろすように、あざみは続けた。


「母様を…母様を殺した、さむらいが許せねえ!!


なに…母親が殺されただと…

しかし、俺の驚きなど、目もくれずに、あざみはさらに続ける。


「大事な宝物を奪いとる、さむらいが憎いんじゃ!!」


あざみはそう言い捨てると、三度振りかえり、薬草の畑の奥の方へと走り去ってしまった。



尻もちをつき、顔を青ざめたまま動けないでいる俺。


その間に、権兵衛が簡単にこれまでの経緯を老人に話している。

才蔵は俺を起こす為に手を貸そうとしてくれたが、俺は放心状態で、その手を取ることすら忘れて、その場に座りこんでしまった。


秋の日差しは残暑をともない、無意識のうちに額に汗をかかせる。

しかしそれすら拭うことを忘れていた俺に対して、老人がそっと俺の背中に手をそえた。


「すまなかったのう…本当は、草花を愛する心優しい女子なのじゃが…」


と、彼はあざみに代わって俺に謝り、優しく抱き起してくれた。


俺は突如として現れた竜巻に巻き込まれたかのように、何が起こったのか理解できず、無礼な扱いを受けたことによる怒りの感情など、微塵もわいていない。


それよりも彼女の痛烈な一言が、俺の胸に深く突き刺さり離れないのだ。


俺は半ば無意識のうちに、横で俺を支えている老人に問いかけざるを得なかった。


「母上が殺された…と…申しておったが…それはまことか?」


何かの比喩だと信じたい…出会ったばかりではあるが、身近に感じる「死」というものへの抵抗が、俺にその言葉を否定するように命じている。

しかし残酷なことに、俺がいるこの時代にとって、「死」は、俺が思う以上に、すぐ近くに転がっているのが「普通」なのだろう。


老人は言いづらそうに小声で、絞り出すように答えた。


「うそか…まことか…と言われれば、まこと…と言わざるをえないかもしれぬのう。

確かに、あざみの母…つまりわしの娘のきくは、死んだのじゃ…

豊臣秀吉の命に従った結果のう…」


その言葉は、見えない手で後頭部を思いっきり殴りつけるような、強い衝撃となって俺の脳みそを揺らした。


そしてその衝撃に、ぐわんぐわんと目が回ったと思うと、俺はそのまま気を失ってしまったのだった。



◇◇

俺が気を失ってから、果たしてどれくらい経ったのだろうか…


背中が痛い…


どうやら外ではなく、どこかの建物に寝かされているらしい。

もちろん布団など敷かれておらず、木の板の上に無造作に仰向けになっている。


そして、俺はようやく目を覚まし、ゆっくりと目を開けた。


まだはっきりとしない意識の中、霞んだ視界が、人の顔の輪郭をとらえると、目の開きとともに、徐々に晴れていくその輪郭が、確かに先ほど俺を罵倒したあの少女のものであると分かった。


ずっと俺の面倒を見てくれていたのだろうか…


俺は礼を言おうと口を開きかけたのだが、彼女は俺と目が合った瞬間に、顔を赤くしたかと思うと、互いに声をかけるいとまも与えずに、その場を走り去ってしまった。


「なんなのだ…?」


全くもって彼女の意図が分からない。


俺はその小さな背中を追いかけるつもりはなかったが、ゆっくりと体を起こした。

その背中をそっと支える優しい力…才蔵だ。


どうやら彼も、俺が気を失っている間は、ずっと近くにいたらしい。


「ここは…?」


「先ほどの薬草の畑の近くの寺にございます」


「寺…」


ひんやりしたその一室は、さほど広くはなく、大人が三人も入ればいっぱいになってしまうのだろう。

俺は才蔵に質問を続けた。


「俺が気を失ってから、どれくらいたったのだ?」


「二刻(四時間)は経っているかと…」


「なんと…二刻も…」


「このところ緊張続きでしたので、疲れが出たのでしょう…どうかご無理はなされぬように」


確かに少年のこの身に鞭をうって、ここ数日は全力で走ってきた。

もちろん、あざみの母親の「死」について聞いたことによる衝撃はあったにしろ、それ以上に体が限界を迎えていたのかもしれない。


俺は体を起こしたが、立ち上がることもなく、部屋から見える外の風景に目を向けた。


緑の薬草の草花が、すでに西に傾きつつある日差しを浴びて、金色に輝いている。


「綺麗だな…」


関ヶ原の大戦のまっ最中であることを忘れさせるような、穏やかで美しい光景が、俺の疲れた体と心を癒してくれる。

俺はしばらくこの空間に身を委ねようと、心を空にして、ただ目を開いてくつろぐことにした。


こんなにじっくりと自然を見つめる時間を、元いた世界で作ったことがあっただろうか。


慌ただしい毎日と、見慣れた風景の中、狭い世界で生きてきた気がする。


いつも同じものを見て、聞いて、感じることしかしてこなかった十七年よりも、この数日の体験は俺にとって、何か大きなものを与えてくれたような気がしてならない。


刑部の涙… 淀殿の慈愛… 信繁との友情…


ほんの数日の間で体験したことばかりなのに、なぜかそれら全てが、遠い過去のことのように思われるほど、一日一日が濃い。


あと、千姫の拳…

これを忘れたら何を言われるか分からないな。


千姫のむくれた顔を想像すると、思わず笑みがこぼれてしまうことを禁じえない。


そんな風に顔を綻ばせながら、思い返していた時、


「おお、だいぶ元気そうじゃな。よかった、よかった」


と、老人が俺の様子をうかがいに、ゆっくりとした足取りでやってきた。

その傍らには、あざみが隠れるようにしてついてきている。


その小さな手にはなにやらお椀を持っており、老人の方が「元気がでる特製の薬湯じゃ」と言って、俺は無理やり飲まされたのだ。

しかし、これがとてつもなく苦い。


「な、なんじゃこりゃ!?」


思わず涙目になって顔をしかめてしまった。


その様子を見て、老人は大笑いをし、表情をこわばらせていたあざみも、俺の横にいた才蔵まで笑顔を見せている。


「そんなに笑うこともないだろう。うぅ…まだ苦い…」


と、出した舌がどうやら緑色に染まっていたようで、これにはあざみも腹を抱えて笑っていた。その笑顔を見て、俺の感じていた疲れがどこかへ吹き飛んでいったのだが、それは「苦い薬湯」に即効性があったからだろうか。



母親を亡くした少女に対して不謹慎かもしれない。


しかし、俺は「あざみの笑顔は、目の前の草原のように輝いているな」と眩しく感じる気持ちを抑えられなかったのであった。



◇◇

落ち着いた頃合いを見計らって、俺は聞きたいことを聞くことにした。


無論、あざみの母親の「死」についてである。


なぜここまで俺がその「死」にこだわったのかというと、もちろん「死」を身近に感じることに慣れておきたいという、極めて私的な理由もある。


しかしどうにも気になっているのだ。


それはあざみが「たいこうが嫌い」と言ったことだ。

なぜ彼女は秀吉…つまり俺の父親を忌み嫌っているのだろう。

その原因について、俺は知っておかねばならないような、妙な使命感を感じていた。


そのあざみも部屋の片隅で小さくなって座っているのだが、彼女にとってはつらい思い出を掘り返すことになるかもしれない。

そう思って、それとなく退出を促したが、彼女はがんとしてそこを離れなかった。


それはまるで、俺が彼女の母親の「死」の事を聞いて、どんな反応を示すのか試しているような気がしてならなかった。


しかし俺はそんな彼女の「期待」に応えられる自信はなかったし、むしろ応えようという気持ちすらない。

努めて冷静に、客観的に事実を見極めたいという気持ちにかられていた。


そして、その事について、老人――名は林蔵主、彼は静かに語り始めた。



あざみの母の死因は、言わば「栄養失調」、悪く言えば「餓死」に近いかもしれない。


元より病弱であったのだが、食料不足により、満足な食事が得られず、病気の進行が早まって、ついには死に至ったようだ。

権兵衛とあざみの兄妹を目にした時に「痩せているな」と感じたのは、彼らの持って生まれた体格ではなく、単純に満足な食事が得られていなかったからに違いない。


しかしそれだけ聞けば、秀吉が彼女の母の死に関係しているようには思えなかった。

次の一言を聞くまでは…


「たいこうけんち…母様を奪ったのは、それなのじゃ」


そう口を挟んだのは、あざみだった。


「太閤検地が…なぜ…」


俺の知っている太閤検地とは、農民たちが作物を育てるのに専念できるように、豊臣秀吉が敷いた政策だ。

一地一作人の原則を定め、農民に安定した収入源を与え、領主である大名の役割を明確にする…


それくらいしか知識がない。


それが彼女の母の死にどう影響したのだろう…


しかしそこには、俺が知らなかった農民たちの過酷な現実があったのだ。


あざみの家は、このあたりの「村」の「地下請(じげうけ)」として年貢の取り立てを、領主に代わって行ってきた。


太閤検地が実施される前は、その村単位で、年貢を領主に納めており、その量は毎年一緒だった。


その為か、村の連帯感は強く、働き手である男が病気や怪我をした家が出れば、その家の分まで収穫を増やそうと、より広く耕した。

そしてそれでも足りないとみれば、「隠田」や「隠畠」からの収入を利用した。


そう…それがあざみの家、つまり林家が治めていた村では、目の前に広がる薬草の畑だったのだ。


彼らは薬草を育てることで、自分たちの病気や怪我を癒すためだけではなく、年貢が足りない時は、それらを売って年貢を調達していたのだ。


助け合い…それは美しい風習だった。


彼らは村という社会の中で、そのように生きてきた。

互いに励まし合い、支え合ってきたのだ。


しかし、太閤検地はその風習を粉々に破壊した。


なぜなら、一地一作人では、農民一人一人が自分の土地から領主へ年貢を納めなくてはならず、その為に、村人同士での助け合いが、実質的に出来なくなったからだ。

さらに農民たちにとっては、都合の悪いことに「隠田」や「隠畠」が厳しく取り締まられ、没収された。


この目の前に広がる薬草の畑からの収入はなくなり、一年でも凶作の年があれば、家族全員が生死に関わる、そんなぎりぎりの生活を強いられたのである。


そして追い討ちをかけるように、「刀狩り」が行われると、男たちが兵として戦に出ることも禁じられた。

つまり、他の収入の道が完全に塞がれることを意味した。


兵農分離…聞こえはいいかも知れないが、それは農民たちにとっては、選択する自由を奪われ、追い込まれたのも同然だった。


そしてある年、稀に見る凶作となった林家は、生きるので精一杯の毎日を送ることになる。

それでも母は、息子たちと娘に、ひもじい思いはさせまいと、自分の命を削って、彼らを生かすように食料を工面し続けたのだ。


そしてその翌年の夏…


厳しい暑さは、限界を迎えた体には厳しすぎた。

もはや皮と骨になって、やせ細った彼らの母は、最後の最後まで、彼ら兄妹の行く末と健康を案じて、その生涯を閉じたのだった。


さらに悪いことは続く。


凶作の翌年は刀狩りが行われた後でも、略奪行為があとをたたなかった。


太閤検地前であれば、村の単位で自衛にあたっていたのだが、村の組織が崩壊した今、他からの略奪行為は自分たちで守らねばならなかったのだ。

特に名主であった彼らの家は、格好の的だったのだろう。

隣町の名主の平野家が、狼藉者をわずかな金で雇い入れ、彼らの家を襲った。

なんとか追い払いはしたものの、その被害は計り知れないものだったのだ。



そう…彼らの父親と長男が、命を落としたのだった…



そして、権兵衛とあざみは、二人だけになった…



賑やかで平和な、一家団欒は、夢物語となってしまったのだ。


わずか一年の間、たった一回の凶作によってもたられた悲劇だった。


こうして、太閤検地は、彼らの守ってきた村も家族も、そして彼らの夢さえも、破壊しつくしたのである。


彼女が、「とよとみひでよしが憎い」と言っていた意味がよくわかった。

それと同時に、天下人の責任の重さも、俺の胃のあたりでのしかかる。


俺はこの話を聞きながら、涙をこぼしていた。


いわれのない先ほどの罵倒は、むしろ浴びせられて当然かのように感じられ、自分の身を恥じた。

それは決して自分が執り行った政策ではなかったにしろ、強く重く責任を感じたのである。


その一方で、一つのことが浮かぶ。


それは、自分自身の存在についてだ。


この後、もし俺が大坂の陣で命を落とせば、江戸幕府の運営は順調に進み、同時に村請負制度が復活する。

恐らく林家も村役人として、幕府に雇われて、そのまま庄屋となって、活躍することだろうし、生活も代々安定するだろう。


しかしもし仮に俺が「この時代を満喫したい」という私欲の為だけに生き残って、それが幕府の政治に影響したとしたら…


後の村請負がなされるのが遅れるかもしれない。


そうなれば、彼ら兄妹の不遇は長く続くことになる。


彼らだけではない。

彼らと同じ境遇の農民たち全員が苦しむことになるのだ。



俺は…生きるべきなのか…?



この疑問は、この後の俺の豊臣秀頼としての人生に大きな課題としてのしかかることになる。


死にたくなんてない。

しかし俺が生き残ることで不幸な人が出るのは、気がひける…


俺が死なずに、みんなが幸せになる方法はないものか…


都合のいい話かもしれないが、そんな事を真剣に考えるのだった。



なおも涙を流し続ける俺の背中に、小さくて暖かい手が触れる。


あざみだ。


彼女は最初に出会った時には考えられないほどに、優しい表情を浮かべて、俺の背中を健気にさすっていた。


彼女が一番きついはずなのに…

俺はなぜ…

俺は何をすべきなのだ…


そんな自問をひたすら繰り返していた。


しかしここに、農民たちにとって、戦国の世がもたらす、最大の悲劇が待っていようとは…



「大変だあ!!みんな早くここから逃げろお!!」



突然、戦に戻ったはずの権兵衛の大きな声がしたかと思うと、寺の中に身を寄せていた村人たちが我先に逃げようと、大混乱に陥った。


俺、あざみ、才蔵、それに蔵主のじいさんの四人も、急いで薬草の畑の方へと駆け出す。

そこには青い顔をした権兵衛が立っていた。

俺は彼に緊迫した様子彼に、顔をこわばらせて質問した。


「何事だ!?」


「戦に負けた…もうすぐ戦に勝った福島の軍のやつらがこっちに来る!早く逃げるんだ!」


その言葉に慌てて俺は、蔵主に確認する。


「制札は!?制札はもらっていないのか!?」


制札とは、戦が終わった後に、村での略奪行為を禁じることを、大名からお墨付きをもらうことである。


「もちろんもっておるわ!」


「誰のだ!?」


「小西様じゃ!」


戦況は分からないが、もし史実通りなら、小西行長の制札は、敗軍の将のものであり、その実効性は怪しい。


「まずいな…逃げよう!」


俺はとっさにみなに促した。

しかし、


「嫌じゃ!!この畑は母様が育てた畑じゃ!ここから離れとうない!」


と、あざみはそれを嫌がった。

そんなあざみをいつにない剣幕で叱ろうと、権兵衛が口を開いた。


「あざみ!今はそんなことを言っている場合…」



…が、その言葉は最後まで語られることはなかった…


大きく目を見開いたと思うと、どさりと俺に寄りかかるようにして倒れこむ権兵衛。

俺はその体重を支えきれずに、そのまま彼とともに、畑の中に倒れてしまった。


「おい!大丈夫か!?」


思わず彼の背中に手を回す。

するとその手に生暖かいものが付着するのがわかった。


そしてそれが何なのか、全くもって知識のない俺であっても、容易に想像できたのである。



それは…



権兵衛の背中から大量に吹き出した血であった…





戦国の世…特に太閤検地後における、農民たちの立場や苦しみを私なりに考えました。


そしてこの話には様々なテーマがかじられるように、少しずつ含まれております。


人間の死について

秀頼としてどう生きるべきか

政策の是非や政治を行う者の責任の重さ

農民の生活


そして


日本の風習、季節、風景の素晴らしさ



それらをぎゅっと詰め込みましたので、少し駆け足過ぎたかな、と読み返しても思います。


なお、農民たちの実態については、完全に私見でございます。


諸説ございますので、違和感を感じられる方もいらっしゃるかと思いますが、どうぞご容赦ください。


では、これからもよろしくお願いします。


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