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大坂夏の陣⑦ 正義の鉄槌

◇◇


――石田隊、動く!!


 この急報は各陣に届けられると、少なからず幕府軍の大将たちに衝撃を与えた。

 しかし大半の将たちは、『徳川家康に二度負けた男』の石田宗應が、何度やっても同じ結果を繰り返すだけだと、たかを括っていた。

 さらに、石田隊の目の前には、東側の攻略から退却してきたばかりの酒井家次率いる一万五千の軍団があり、一万の石田隊は簡単に足止めされてしまうだろうと考えていたのである。

 その為、諸将は即座に動こうとはしなかった。

 

 ただ幕府軍において、二人の男たちだけは違った。

 

 一人は立花宗茂だ。

 彼は真田幸村と稀に見る壮絶な戦いを繰り広げていたが、「大御所様が危うい!」と見るや、素早く退却を始めた。

 執拗に背中を追う真田隊と、互角の戦いを演じながら後ろに下がっていくのだから、いかに立花兵が精鋭であるかがうかがいしれよう。

 

 それともう一人は、将軍徳川秀忠だった。

 彼は若い頃の父、家康を思わせるような鈍重な動きで、奈良街道の前進を開始した。

 まるで大きな山がそのまま動いていくような丁寧かつ慎重な行軍で、もぬけの殻となった天王寺を目指して、一歩一歩進んでいく。

 そしてついに天王寺を制圧すると、そこに本陣を構えたのだった。

 

挿絵(By みてみん)


 

◇◇


 両翼に津田清幽と重氏の親子をすえて、一本の槍のように縦長の陣形で突き進んでいく石田隊。

 その前に現れたのは酒井家次をはじめとする諸将が集まる一万五千の大軍だった。

 しかし数の上では有利なはずの酒井隊だったが、あらゆる面で違いがありすぎた。

 それは『信念』であり『覚悟』の違いだ。

 

「うおぉぉぉぉぉ!!!」


――ドドドドドドッ!!


 まるで獲物をとらえた虎の如く駆けていく石田隊に、酒井隊はなすすべなく蹂躙されていった。

 そうして石田隊は、壁となった酒井隊をあっさりと突き抜けたのだった。

 

 宗應は、酒井隊の兵がまばらになったところで、ちらりと右手に目をやる。

 するとその目に飛び込んできたのは、『龍』のごとき真田幸村の姿だった。

 

 そして……。

 龍虎が合流した――

 

 宗應と幸村が馬を並べて目を合わせる。

 互いに言葉を発さなくとも、言いたいことは頭の中に自然と流れてきた。

 

――いよいよ石田様の『夢』がかなう時ですね。

――ああ。この時をどれほど待ち焦がれたことか……。

――さあ、共にやってやりましょう!

――おう!! いくぞ!!



「「徳川家康に正義の鉄槌を!!」」



――うおおおおおおおおお!!



 二人の息の合った雄たけびが日本中の空を震わせた。

 龍虎が一体となって戦場を切り裂いていく。

 しかし、『勇者』はどんなに敵が強大であったも立ち向かっていくものだ。

 

「させるかぁぁぁ!!」


 と、立花宗茂が二刀を掲げて飛びだしてきた。

 

「邪魔をするなぁぁぁぁぁ!!」


――ドガガガガガガッ!!


 真田隊がとてつもない勢いでぶつかると、聞いたこともないような鈍い音が戦場に響いた。

 そして幸村は腹の底から叫んだのだった。

 

「石田殿ぉぉぉぉ!! いっけぇぇぇぇぇ!!」

「うおおおおおおお!!」


 幸村のかけ声に呼応するように宗應が咆哮をあげる。

 龍を切り離した虎は、弓から解き放たれた矢のように真っ直ぐと目標に向かって進んでいった。

 

「大御所さまぁぁぁぁ!! 逃げろぉぉぉぉ!!」


 宗茂の血を吐かんばかりの声が空に響き渡ると、宗應の目に確かに飛び込んできたのだ……。

 

 背を向けて逃げ出そうとする徳川家康の姿が……。

 そして彼らは目が合った。

 

 

――あ……り……が……と……う……。



 その五文字を口にしたのは……。

 

 

 石田三成だった――

 

 

――ドゴォォォォン!!



 空前絶後の突撃が家康の本陣に突き刺さった。

 

――ぐわああああああ!!

――ひぃぃぃぃいい!!


 大混乱に陥る家康隊は、大和川沿いまで一気に下がっていった。

 しかし三成の突撃の勢いはとどまるはずもない。

 

――ズガガガガガッ!


 と、味方同士の甲冑がこすれる音が耳をつんざくほどに、家康隊は押し込まれていった。

 中には川に落ちて身動きのとれなくなってしまった者もいたほどだ。

 

「ひけい! とにかくひくのだ!!」


 家康は懸命に声を上げて大和川沿いを東へと進んでいく。

 いつの間にか彼自慢の『金の扇』の馬印は倒されてしまっていた。

 しかしそんな屈辱も、命に替えられるものではない。

 彼は追ってくる三成に背を向けて、とにかく東へと逃れようと手足を動かし続けたのである。

 

「追え! 追えぇぇぇぇぇ!!」


 十年以上に渡って溜まり続けた鬱憤は、追い討ちを苛烈かつ執拗にしていく。

 

「来るな! こっちへ来るでない!! うわあああああ!!」


 家康にとっては三方ヶ原での敗戦以降、初めて命の危機を迎えていた。

 群がる兵たちをかきわけて、とにかく前へと進んでいくと、いつの間にか奈良街道へと出ていた。

 二度、三度と三成の繰り出す槍が、家康の背中をかすめていく。

 

「ちょこまかと動きおって!! もはやこれまでだ! 観念しろ!!」

「わしはかようなところで死ぬわけにはいかんのだ!! ぐおおおおお!!」


 ……と、その時だった。

 家康の目に二人の幼い大将たちが映ったのだ。

 

 それは徳川義直と頼宣の二人だった。

 

「お主ら!! 何をぼさっとしておるか! わしを守れ!!」


 家康は懸命に指示を飛ばすと、彼らは無意識のうちに「かかれぇぇぇ!!」と合わせて三万の兵に命じた。

 

――ズドォォンン!!


 まるで巨木に投げつけられた石のように、彼らの軍勢に深く食い込む三成隊。

 しかしここまで息をつかずに突撃を繰り返してきた肉体はとっくに限界を迎えており、突撃の勢いは完全に殺されてしまった。

 

「がははは!! なにが『ありがとう』だ!」


 家康は目の前で捕らわれた猛獣のようにもがいている石田隊を見て大笑いした。


――これで勝った!!


 恐らく豊臣軍は、石田隊による乾坤一擲の突撃をおぜん立てするために、策を巡らせたのだろう。

 そして、総大将である家康が三成の手によって討たれれば、戦は終わると思っていたに違いない。

 そうふんだ彼が勝利を確信したのはおかしくない。

 

 しかし彼は気付かなかったのだ……。


 突撃を止められて、歯ぎしりをしているはずの石田宗應が……。



 ニヤリと口角を上げたことを――

 

 


「いよいよラストスパート! 『太閤を継ぐ者祭り』の開幕じゃぁぁぁ!! わっしょい! わっしょい!」

「秀頼さまぁ。『らすとすぱーと』ってなんでしょう?」

「ラストスパートはラストスパートじゃ! お千も一緒に走ろうぞ!」

「はいっ! よく分かりませんが千も秀頼さまと一緒にがんばります!」


一度はやってみたかったキャラのかけ合いあとがきです。

もう最初で最後なんだろうなぁ(しみじみ)。


では本日は1時間おきに公開していきます!


そして本日(1/27)、いよいよ書籍版『太閤を継ぐ者』が発売されました!

みなさまどうぞよろしくお願いいたします!

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