大坂冬の陣 終幕 和睦
◇◇
少し時間を戻す。
それはちょうど石田三成が『篠山麓の戦い』で藤堂高虎軍と激しく戦っている最中、すなわち慶長一六年(一六一一年)一二月一七日の夕刻の頃。
俺、豊臣秀頼を乗せた船は、兵庫津と呼ばれる、堺の手前の港の近くで足止めされていた。
足止めと言っても、敵と交戦状態にあった訳ではない。
なんと『渋滞』に巻き込まれて、全く進めなくなってしまったのである。
ふと海を見れば無数の船がところせましと海面を覆い尽くしている。
俺は不思議に思って、船頭に声をかけた。
「これは一体何が起こっているのだ!?」
「へい。実は、堺の港が伊達の御殿様によって封鎖されてましてな。堺で積み荷を下ろす予定だった船が、こぞって兵庫津に集まっているってわけです」
「封鎖……?」
「へい。なんでも堺の港の近くに寄った船を大砲で沈めると。恐ろしいお方ですなぁ」
俺はその言葉を聞いた瞬間に、さっと顔を青くした。
そして豊後を出る前に霧隠才蔵に伝言した内容が、ぱっと頭に浮かんだのだった。
――秀頼は船で堺の港を目指している旨を伝えよ。
もちろんそれは、大坂城内の人々を安心させて、幕府軍との戦いを勇気づける目論みで行ったものだ。
しかし今、それが全くの裏目に出てしまったと気付いたのである。
つまりもし俺の乗っている船が堺に入れば、容赦なく伊達軍によって沈められてしまう……。
そんな懸念が生まれるのは、火を見るより明らかであった。
「まずい! とにかく早く、船を下りるのだ! 陸路で大坂城を目指す!!」
俺はとっさにそう指示をした。
大坂城までの道のりには幕府の軍勢も待機しているのは分かっている。
それでも無防備な船で堺を突破するのは、今の状況を考えれば不可能だ。
「とにかく急がねば『和睦』が成立してしまう!」
俺は船頭に急がせるとともに、兵たちに下船の準備をさせた。
そして心の中で強く祈っていたのだった。
和睦が成立するより前に、到着できるように、と――
◇◇
丁度その頃より少し前のことだった。
霧隠才蔵が大坂城に到着し、秀頼の伝言を城内に伝えたのは……。
――ワアァァァッ!
その報せを受けた、城内の人々がお祭り騒ぎとなったのも仕方ない。
城を大軍に囲まれて、秀頼の生死すら不明なまま、彼らは不安の日々を送っていたのだから。
もちろんその報せは、評定の間に集まっていた、淀殿、大野治長と大蔵卿の三人にも届けられた。
なお真田昌幸は高梨内記と共に桂広繁が不在の長居砦に向かっており、ここにはいない。
彼ら三人の顔は、ぱっと明るくなり、淀殿にいたっては目尻に涙を浮かべながら喜んでいる。
治長もまた喜びに心が躍っていたのは確かだ。
だが、それ以上に彼の場合は、すっと肩の荷がおりる感覚に浸っていたのであった。
――これでようやくそれがしの御役目も終わりか。
ふぅと大きく息をつくと、天井を見上げる。
するとわずかなしみさえもはっきりと見えるではないか。
それは『大坂城の代官』という重圧によって、普段は見えるはずのものが、見えなくなっていたことを如実にあらわしていたと言えよう。
そして場がひと段落したところで、治長は急激な眠気に襲われた。
特にここ数日は、ほぼ一睡もできていない。
緊張の糸が、ぷつりと切れたことで、何もかもが『平静』に戻っていくのが、彼にはかえって新鮮でならなかった。
しかし……。
絶え間なく流れる歴史の大河とは時として、急激に流れを早めるものだ。
それは才蔵の帰還から、わずか四半刻にも満たない頃だった。
なんと大坂城を出ていった片桐且元が、『幕府の使者』として城に戻ってきたのである。
人々の罵声と白い目にさらされながらも彼は不退転の覚悟を決めた強い瞳で、廊下を歩いていくと、淀殿との謁見を求めて評定の間へと入ってきた。
そして彼は一礼するなり、はっきりとした口調で告げたのだった。
「淀様。片桐且元、一生のお願いがございます!」
治長は且元の様子に目を見張っていた。
且元は常に自分の欲求を抑えながら、城内の平穏を保つよう努力をしてきたのを、彼は知っているからだ。
そんな且元が、淀殿に向けて鉄のように固い己の意志を伝えようとしている。
彼は思わずごくりと唾を飲み込んだ。
一方の淀殿は、いつも通りの穏やかな口調で且元に問いかけた。
「いかがしたのです? かように真剣な顔をしたお主を見たのは初めてです」
淀殿が且元に対して、嫌味とも取れるような言葉を投げかけたのは、この場の雰囲気を和らげ、且元の緊張を解こうとしているからだろう。
しかし且元は、淀殿の気遣いなどお構いなしに、引き締まった表情で続けたのだった。
「伏見にて阿茶の局様がお待ちでございます。どうか『和睦』を結ばれよ」
淀殿はの顔色が暖かみのあるものから、冷たいものに変わる。しかし彼女は、穏やかな口調を保ったまま答えた。
「もうすぐ秀頼ちゃんが戻ってきます。話はそれからでよいでしょう」
しかし且元はぐっと身を乗り出すと、顔を真っ赤にして続けた。
「このままでは秀頼様のお命が危ないのです……!」
「なに?」
淀殿の細い目がにわかに丸くなると、次の瞬間には且元の目からは滂沱として涙が流れ始めた。
それは明らかに『悔し涙』だった。
「幕府は堺を占拠した後、港に大量の大砲を並べております。そして港に近付く船があれば、沈めると……」
淀殿は驚きのあまりに言葉を失い、現実を否定するように首を横に振っている。
そんな彼女に代わって、治長は努めて冷静に言葉を並べた。
「仮に大砲を並べているからと言って、本気で船に向かって発砲するとは思えませぬ。幕府も冗談のおつもりでしょう」
且元は唇を噛みながら、治長の方へ目をやった。
彼の目は真っ赤に充血し、顔はさながら鬼のように険しい。
その顔を見ただけで、治長は「ただごとではない」というのを、即座に理解したのだった。
そして且元は震える声で言った。
「相手が本気だから、それがしはここに来たのだ……! 秀頼様を守ることこそ、それがしに課せられた使命だと思っているから、ここにいるのだ! 『冗談』などと、もう一度でも口にしてみろ。その場でお主を斬り伏せて、それがしも腹を切ってくれよう」
且元の燃えるような言葉に、先ほどまで春のような明るさだった評定の間が、真冬の空の下のように冷たい沈黙に覆われた。
そして彼の言葉を決定的にするような人物が、評定の間に転がり込んできたのである。
それは津田宗凡であった。
「も、申し上げます!」
淀殿に代わって、再び治長が「よろしい、申してみよ」と、宗凡に声をかける。
すると宗凡もまた且元と同じように顔を真っ赤にしながら告げた。
「伊達は本気でございます! 本気で秀頼様の船を沈めるつもりでございます!!」
こう切り出した彼は、自分の目で見てきたことをつぶさに語った。
それはまさに青天のへきれきとしか言いようがない、まぎれもない現実であった。
つい先ほどまで「秀頼の帰還」が喜ばしいものだったにも関わらず、今はそのことが逆に豊臣家を追い詰めているのだから、なんという皮肉であろう。
治長はあまりのことに言葉を失い、とてつもない衝撃で気を失ってしまいそうになるのを、どうにか堪えていた。
その一方で、彼の『戦国武将』としての一面が顔を覗かせてきた。
これがもし何者かによる『策』だとしたら、他人の親心を踏みにじる残酷で卑劣極まりないものであると同時に、なんと鮮やかなものなのだろうか……。
治長は、自分の器量をはるかに超越した次元の『攻防』に、現実であって現実でないような心地であった。
そういった意味においては、彼は実に『凡庸』な人間であると、自分を評価している。
徳川家康をはじめとして、真田昌幸や石田三成といった『偉人』とは雲泥の差があると同時に、彼らは『憧れ』であり、手の届くはずもない人間たちと思っていたのだ。
しかし今、そんな『偉人』たちが中心となって作りだす『歴史の渦』のど真ん中に、治長は立たされている。
そこで彼はようやく気付いたのだ。
――偉人たちもまた『普通』の人間なのだ。
と。
そして『策』とは、決して人智を超越したものではなく、実に泥くさく、単に相手の喜怒哀楽をついたものであると、まざまざと見せつけられ続けていたのであった。
そして今、この状況を覆すだけの『策』を、何一つとして思い浮かばなかった。
それは目の前で土気色に顔を変えた淀殿も、隣で彼女の背中を支えている大蔵卿も同じだろう。
そんな中、淀殿が絞り出すような声で言った。
「和睦いたせ……」
すなわちこの時点で……。
豊臣は『敗北』したのだと、治長は冷静に判断したのだった。
「有楽斎殿をここへ寄越してください。評定を始めます」
治長は『代官』として、小姓に命令した。
小姓は、弾かれるようにして廊下を駆けていくと、すぐに有楽斎を連れてきたのだった。
相変わらず余裕の表情を浮かべて、ゆっくりとした動作で腰をおろした有楽斎は、場の空気を覚って言った。
「おやおや、何やら深刻な事態に陥ってしまったようですなぁ」
神経を逆なでするような有楽斎の言葉に、治長は震える気持ちを抑えながら、その場の全員に向けて告げたのだった。
「では、評定を始めます。議案は『和睦』についてです」
と――
◇◇
――幕府との和睦は、秀頼の母である淀殿によって決められたものとする。
――和睦の使者は、淀殿の姉である常高院と大蔵卿の二人とする。
――和睦の内容は、伏見にて決めるものとする。
評定で決まったのは以上三点だった。
そしてなおも戦場で戦う諸将たちへの伝達は、代官である治長が自ら指揮をとることにした。
なお淀殿は、評定が始まったと同時に、無言のまま自室へと戻ってしまった。
焦点の合わぬ目に、小刻みに震える唇を目にしただけで、治長は自分の身が切り刻まれるほどの痛みを覚えていた。
「これでよかったのだ……」
甲冑姿に身を包み、『千成瓢箪』の旗を背にした彼は、そうつぶやくと、馬に乗って大坂城を後にしたのだった。
歴史を前に進める時には必ずや、何かを『得て』、何かを『捨てる』ものだ――
わずか数日間であったが、治長はそれらを痛感した。
豊臣秀頼の命という、かけがえのないものを『得る』ために、これから大坂城は多くのものを『捨てる』ことになるだろう。
そのうちの一つが、多くの豊臣家の家臣たちの『武士の一分』であるのは間違いない。
そうでなければ、馬上の治長が涙で顔を歪めるなんてありえないのだから……。
悔しい。悔しい。悔しい。
ただ一言が、胸の中を支配している。
無論、彼にしたって、一度は『和睦』を決意したのを忘れたわけではない。
しかし、石田宗應と真田昌幸という二人の『英雄』の登場は、彼の心の中に、豊臣家の一員としての『武士の一分』を芽生えさせていたのだ。
そして彼は己の無念を振り払うように、腹の底から叫び声を上げ続けたのだった。
「退却! たぁいきゃぁぁぁぁく!!」
と――
◇◇
慶長一六年(一六一一年)一二月一七日 夜更け――
異例とも言える、夜の帳が落ちてから始まった伏見城での会談は、日付が変わる頃まで続いた。
豊臣側からの条件は二つ。
『本領安堵』と『幕府軍の即時撤退』だ。
一方の幕府側は、『長居砦と真田丸の破却』と『三の丸と二の丸の堀の埋め立て』だった。
明らかに不平等とも言える条件。
しかし阿茶の局の一言によって、豊臣側は受け入れる姿勢を明らかにした。
その一言とは……。
「大坂城を平和の象徴といたしましょう」
というものだった。
すなわち両軍が対立することなどなければ、堀や出城など必要ないはずだ。
これからは仲良く、手を携えて天下泰平の世を共に作ってまいりましょう。
彼女の言葉の裏にはそんな願いが込められていたのである。
そう持ちかけられると、断るのは不可能だった。
もし断れば、その場で和睦は不成立となり、秀頼の命だけでなく、大坂の街そのものも危うくなってしまうだろうと、大蔵卿は判断した。
そうして……。
和睦は成立した――
慶長一六年(一六一一年)一二月一八日 早朝――
俺、豊臣秀頼は、ついに大坂城の門をくぐった。
多くの者たちが俺たちを出迎え、歓声を送ってくれている。
彼らの中には、安心したのか、涙を流している者たちまでいた。
しかし、淀殿は「体を壊している」との理由で、ついに顔を見せなかったのだった。
既に『和睦』が成立してしまったのは、俺たち豊臣軍をすんなりと通してくれた幕府軍の対応からして明らかだ。そして俺を迎え入れた人々の瞳に映る『不安』の色からして、『和睦』の内容が思わしくないことも覚っていた。
これからどう動くべきか……。
そう頭を悩ませようとした時、隣を歩く甲斐姫がいつになく優しく声をかけてきた。
「ひとまず淀殿に顔を見せてやれ。あとのことはそれから考えるがよい」
彼女の言葉に対して、俺は大きく頷いた。
俺は淀殿のことを考えると、胸が張り裂けそうになる。
堺に並べられた無数の大砲が、俺が乗った船に向けられそうになっていると聞いた時の、彼女の絶望を、誰が正しく理解できるだろうか。
そして、大坂城を危機的な状況に追いやったとしても、息子の命を助けることを優先した彼女の決断を、誰が責められるだろうか。
きっと城内の人々はみな、彼女の下した決断を支持しているに違いない。
それでも彼女は、屈辱的な『和睦』の責めを一身に背負っているだろう。
自然と俺の足は早くなると、いつしか駆け足に変わっていた。
――早く母に会いたい!
そして『いつも通り』に言ってやるのだ――
――ダダダダダッ!!
廊下に響く、激しい足音。
俺は全力で廊下を駆けていく。
この時代にやって来たばかりの頃は、右も左も分からなかった大坂城内。
でも今は、ただ一つの部屋を目指して、ただ一人を目がけて、何の迷いもなく突き進むことができる。
ついに俺は目的の部屋の前までやって来た。
荒くなった呼吸を整える。
そして……。
――スパンッ!
と勢い良く襖を開けると、突き抜けるような明るい声で言ったのだった。
「母上! ただいま戻りましたぁぁぁぁ!!」
突然の俺の訪問に、目を丸くする淀殿。
俺は必死に笑顔を作った。
秀頼は元気です!
何の心配もいりません!
そう声にならない言葉を表情で伝えようと試みる。
その次の瞬間だった……。
淀殿は眩しい笑顔を浮かべると……。
――フワッ……。
と、優しく俺を抱きしめた。
そして彼女は俺の耳元でささやいたのだった。
「おかえりなさい。そして、ごめんなさい」
と――
それを耳にした直後……。
俺の涙腺が崩れた。
堰を切ったかのように流れていく涙。
それでも俺は必死に笑顔を作った。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
嗚咽をもらしながら、何度も俺に謝る彼女の声が俺の胸の深い部分をえぐり続けた。
本当は誰も悪くなんかないんだ。
だから淀殿が俺に謝る必要なんてあるはずもない。
俺は震える声を振り絞った。
「母上……やめてください……むしろ謝るべきはわれの方です。御心配をおかけして、申し訳ございませんでした」
「うわあぁぁぁぁぁぁ!!」
ついに淀殿は泣き崩れてしまった。
俺もまた溢れだした感情を止める手立てを知らずに、彼女と共に崩れ落ちる。
歴史の歯車は、ついに俺たちを飲みこまんとしている。
その歯車によってもたらされた、逆境に次ぐ逆境の連続に、残された『道』が次々と姿を消していったのを、俺も淀殿も分かっているのだ。
もはやたった一つしか『道』は残されていない……。
その『道』の終着点は、豊臣家、滅亡――
そして、豊臣秀頼の『死』――
愛する両親の死、生まれたばかりの息子の死、そして夫の死と、あらゆる辛酸をなめ続けてきた彼女だったが、俺の前で弱さを見せることは一切なかった。
しかし今彼女の視界には、明らかな『絶望』が映っているはずだ。
そして、ついに彼女の心は『絶望』によって、折れてしまった。
「母上……泣かないでくだされ。あやまらないでくだされ」
なおも懸命に謝り続ける彼女の姿は、一人の哀れな女性にしか思えなかった。
俺は強く淀殿を抱きしめる。
今まで大きな存在だとばかり思っていた彼女の背中は、こんなにも小さく、可愛らしいものだったのかと、初めて感じた。
そして彼女もまた、俺の背中に手を回して、しっかりと俺を抱きしめ続けていた。
彼女の全身の震えが、直接伝わってくる。
すると……。
俺の心に灯った炎は、大きく燃え広がっていった――
「絶対に負けませぬ……」
いつの間にか涙は乾き、声の震えも止まっていた。
俺の予想外の言葉に、かすかに反応した淀殿はゆっくりと俺から離れた。
未だに流れる涙は止められない様子だ。
そして俺は彼女の両肩をしっかりと掴んで言ったのだった。
「われは絶対に母上を悲しません! どうか秀頼を信じてください!」
俺の力強い宣言に、ついに彼女の目から涙が止まった。
「秀頼ちゃん……」
俺が迷いなく言いきったとしても、にわかに信じがたいと思っているのだろう。
それは、彼女の戸惑いを映した瞳の色や、か細い声色から明らかだ。
今の状況で、『負けない』と言われて信じろという方がどうにかしているのは、俺だって分かっている。
しかし俺は勝つために戻ってきたんだ。
みなを幸せに、そして『笑顔』にするために戻ってきたんだ。
『道』を切り開くために戻ってきたんだ――
俺は言葉に出さずに、淀殿を見つめ続けた。
そしてついに……。
彼女の口元がほころんだのだった――
「信じますよ。秀頼ちゃん」
一寸も俺を疑わない瞳は、眩しく輝いている。
それは、俺が愛した日々の……。
母の顔だった――
俺は、一礼するとすぐに部屋を出た。
そこに待っていたのは甲斐姫と真田幸村の二人。
俺は彼女たちに向けて小さくうなずく。そして力強い足取りで廊下を歩き始めた。
「いい顔してるじゃねえか。それでこそ太閤殿下の血を引く男ってもんだ」
と、甲斐姫が目を細めながら俺に声をかけた。
俺は彼女の言葉にはっとした。
そうだ、彼女の言う通りだ。
俺は太閤豊臣秀吉の血を引く者……。
つまり、太閤を継ぐ者なのだ。
そして俺は知っている。
どんなに不利な和睦を結んだからといって、まだ完全に負けたわけではない。
最終決戦が残っていることを。
それは『大坂夏の陣』であることを――
つまり、俺たち豊臣の戦いはこれからだ!
◇◇
慶長一七年(一六一二年)一月五日 大坂城――
三が日が落ち着いた頃、早くも幕府による『長居砦と真田丸の破却』と『三の丸と二の丸の堀の埋め立て』の普請が着工した。
そしてそんな中だった。
『普請の奉行へ赴任の御挨拶』と称して、一人の大名が俺をたずねてきたのだ。
「お初にお目にかかります。秀頼公」
低くてしゃがれた太い声。
そして他を圧倒する雰囲気を持つこの男こそ、『不利な和睦』をもたらした張本人。
『独眼竜』伊達政宗だった――
いよいよ次回から最終章になります。
『大坂夏の陣』です。
秀頼くんはどんな『道』を切り開いていくのでしょうか。
それとも『道』を作れずに、歴史の歯車に飲み込まれてしまうのでしょうか。
どうぞ最後までお付き合い願います。
もし面白いと感じていただけたなら、御感想・評価・レビューをいただけると、大変励みになります。
何卒よろしくお願いいたします。
追伸
いよいよ来週(1/27)に書籍版が発売となります!
WEB版とは異なる要素を盛り込んであります。
特に、ワンシーンだけではありますが、真田信繁の上田城防衛戦のシーンを追加しました。
そして秀頼くんと家康公の初めての対決のシーンは、大幅に変更して、意外な展開となっております。
どうぞ、WEB版との違いもお楽しみいただけると幸いです!




