あなたを守る傘になると決めて…①当たり前のこと
◇◇
慶長11年(1606年)3月1日――
「ただいま戻りました」
ついに明石全登が、およそ四年半に渡る長い旅を終えて、堺の地に降り立った。
そのいでたちは、この地を出立した時と変わらぬ着物姿。
すっかり洋装に身をまとって帰国してくるものだと思っていた俺、豊臣秀頼は、その全登の姿を見て、少し拍子抜けしてしまった。
しかし、俺を始め出迎えに来た人々に対して、一人一人に礼を持って挨拶をしているその間を見計らって、
「ところで全登は、西洋の着物などを着て帰ってくるものとばかり思っていたのだが、違うのだな?」
と、不思議そうに問いかけると、彼は、
「それがしは日本の武士でございますゆえ…」
と、はにかみながら答えたのだ。
「日本の武士…?はて、どういうことにございますか?」
今度は大谷吉治が首をかしげて訊く。
すると全登はあらためて背筋を伸ばして、凛々しい口調で答えたのであった。
「それがしは異国に渡って、様々な国を訪れ、多くの人々に接してまいりました。
そこでつくづく思ったのです。
それがしは日本人であるな…もっと言えば、日本の武士であるな…と。
異国の地で文化の違いに驚かされることばかりでございましたが、そんな時はいつでも、この事を思い起こすことで、それがしはいつでも自分自身に誇りを持って、渡りあえたのだと思っております。
その気持ちは、帰国してからも忘れまいと、着物という形だけではございますが、それを貫こうと思った次第にございます」
「なるほど…武士の魂か…」
彼の心の強さと、気高さを感じて、なぜか俺は思わずジンときてしまったのだが、それは俺だけではなかったようだ。
大谷吉治、真田幸村、堀内氏善、桂広繁の四人もまた、感じるところがあったのであろう。彼らは一様に目が輝いていた。
だが、吉治の背後にいる、吉岡杏だけは何の感情を抱くこともなかったように、どこか上の空で皆の様子をうかがっていたのだった。
ところが、そんな感傷をぶち壊しにするような男が、肩をいからせながら、船から下りてきたのである。
「おうおうおう!!なんでえ!?見送りにきた時よりも、出迎えの方が人が少ねえじゃねえか!」
その男は、まさに洋風かぶれといってもよい、中世ヨーロッパの貴族を感じさせるような、えんじ色のベストに白いシャツ、同じくえんじ色の七分丈のパンツに、長いブーツをはいている。
そんな男に全登が苦笑いをしながら、ぴしりと諌めた。
「これ、又兵衛殿。かように無礼な事を言うものではありませぬ」
「へいへい…しかし、いつから全登殿は俺の親みてえになったのやら…」
と、男は首をひっこめて眉をしかめる。
どうやらこの男は、全登の護衛として同行した後藤又兵衛のようだ。
そして彼は船の方へと振りかえると、
「おうおう!!みんな!!船を下りてきな!!」
と、もちろん日本語で叫んだのである。
するとその言葉が通じたのだろうか。
ぞろぞろと船から人々が下りてきた。
彼らの人種は、みなばらばらなようで、白人もいれば黒人も、そしてアジア系の人たちもいる。
まさに多種多様な人々であったが、その瞳は新たな生活と使命に対して、期待と不安が入り混じった色を浮かべていた。
そのほとんどが、男性であったが、中には女性もいたり、さらには家族とともに来日した者もいるようだ。
俺は、彼らの様子を見ているだけで、興奮のるつぼに陥った。
「すごい!すごいぞ!!全登!!」
そんな俺に対して、横一列に並んだ人々に対して、全登がなんと俺の知らない言葉で流暢に話したのだ。
「Questa persona sarà il Hideyori Toyotomi」
「ややっ!!全登!!それは何語じゃ!!?」
「申し訳ございませぬ。ローマにて使用されている言葉にございます」
「いわゆるイタリア語というやつか!!?」
「イタリア…?申し訳ございませぬ。かような言葉を聞いたことがございませぬ」
「そ、そうであるか。イタリアとは言わぬのだな…まあ、何でもよい!とくかくすごいぞ!全登!!」
そう驚きを隠せない俺に対して、ニコリと笑って一礼した全登は、引き続き俺の知らない言葉で、次々と話し始めたのだ。
「Cette personne sera le Hideyori Toyotomi」
「Deze persoon zal de Hideyori Toyotomi zijn」
「此人将是丰臣秀赖」
「Esta persona será la Hideyori Toyotomi」
「Hic erit Hideyori Toyotomi」
どうやら元の時代で言う、フランス語、オランダ語、中国語、スペイン語、ラテン語で、「この方が豊臣秀頼様です」と、俺のことを紹介したらしい。
しかしその様子に俺は、眉をしかめた。
「これは、困ったのう…こんなにも多くの言葉があるとなると、学府での研究はいかがするのだ…?」
という至って平凡な疑問に突き当たったからだ。
しかし、全登はこの事は織り込み済みであったようで、穏やかな口調で間を置かずに答えたのである。
「ご安心くだされ。西洋の学者たちには、みな『ラテン語』なる言葉を使っていただきます。それがしを含めて学府にてラテン語を学べば、問題なく通訳できましょう。
なお、ラテン語はあちらにおられる、オルガンティノ様がお教えいただけるとのことで、基本的な事はそれがしも既に習っております。
また、明からの学者たちには、自国のお言葉を使っていただいても、問題ないかと思われます」
「すごい!全登!!いや!Zento!お主はまさにグローバルじゃ!!」
興奮のあまりに、訳の分からない事を口走ってしまった俺の事を、全員が不思議そうに見ている。
そんな皆の視線など全く気にする事もなく、俺は高らかとその場にいる全員に告げたのだった。
「ようこそ日本へ!!
今宵は大坂城にて歓待の宴を催す!!大いに盛り上がろうぞ!!はははっ!!」
こうして明石全登は、帰国するとともに多くの学府の研究者たちを引き連れてきた。
彼らの専門分野は、医療、農耕、化学、天文学など多岐に渡り、彼らの深い知識は確実に日本の民たちの生活に豊かさをもたらすものに違いない。
しかし、学問が民の生活に直結するまでは少し時間がかかるかも知れない。
それでも俺は、民たちが喜び、笑顔になるその姿を想像しただけで、心が踊って仕方なかったのだった。
………
……
「秀頼さまぁぁぁ!」
ーータタタタッッ!!
大坂城の本丸の城門に戻ってきた俺に向けて、千姫がまさに猪のように突進してきた。
ーーボフッ!!
「うぐっ…」
と、俺はそんな千姫の突進をまともにお腹に受け止めると、思わずうめき声がその腹から漏れてしまった。
そんな俺の苦痛に歪む顔などお構いなしに、千姫は俺を見上げると、満面の笑みを見せたのだった。
「おかえりなさいませ!!秀頼さま!!」
その千姫の愛らしい顔を見れば、誰もが思わず笑みを浮かべてしまうだろう。
それは俺も同様であった。
「全く…たったの一刻(約2時間)足らずで帰ってきたというのに…」
と、口では苦言を漏らしながらも、笑顔で彼女の頭をなでると、彼女はとても嬉しそうにしながら目を閉じていたのであった。
…と、その瞬間…
何だか言い得ぬ殺気のようなものを感じたのだが…
キョロキョロと周りを見ても、俺たち以外には、兵たちも、城に向かっている侍女たちにも、俺の知っている顔はない。
「今のは何だったのだ…?」
「どうされたのです?秀頼さま?」
俺に頭をなでられて、まだ顔を赤くしている千姫が、不思議そうに問いかけた。
「いや、何でもない。大丈夫だ」
と、自分に言い聞かせるようにして言うと、俺たちは本丸の中へと足を進めたのであった。
…と、そんな俺たちの背中をじっと見つめる一人の少女がいたことなど、俺は気づくはずもなかったのである。
「伊茶。何をしているのですか?さあ、行きましょう!
たかだか買い物だけでこれ以上遅くなると、大蔵卿に何を言われるか分かったものではありません!」
その侍女の一人に、伊茶と呼ばれた少女は、ハッと我に返ったように見つめていた一点から目を離した。
「ごめんなさい。ぼけっとしてしまって。
早く大蔵卿のもとに戻りましょう!」
と言うと、彼女らは大蔵卿の待つ、大坂城の奥の間の方へと急いでいったのであった。
そう…この「伊茶」と呼ばれた少女こそ、俺に殺気を向けていたその人であり、この時は大蔵卿の侍女として、大坂城に勤めている。
彼女の存在が後の俺の人生に大きな選択を迫ることになるのだが…
もちろんこの時の俺が知るよしもなかったのであった。
………
……
慶長11年(1606年)3月2日ーー
明石全登の求めに応じて来日した学府の研究者たちに対する盛大な宴を催した翌日、俺は再び城を出て、彼らとともに京にある豊国学校へと向かうことにしていた。
連日の外出に対してさらに恨めしい視線を送る淀殿と千姫への挨拶もそこそこにして、俺たちは城外に出ると、舟にて京へと入ったのである。
春のうららかな陽射しは、新たな船出に相応しく、体の奥から活力が湧いてくるようであった。
舟の上でふと周りを見渡すと、研究者たちの顔が目に入る。
昨日の宴によって彼らの緊張も少しは解けたのであろうか。皆一様ににこやかに談笑している。
そんな彼らを見て、俺は全登に問いかけた。
「それにしてもおよそ二十名はいるが、よく集められたのう」
その問いかけに、全登も彼らと同じようににこやかに答えた。
「それがしの力ではございませぬ。
秀頼様の崇高な願いを天が聞き入れてくださって、それがしの運をお開きになられたのです」
「ふむ…そうであったか…」
そんな風に俺が怪訝そうな顔を浮かべていると、全登の隣に座っていた後藤又兵衛が、眉をしかめて口を挟んできた。
「その物言いではまるで偶然だったようじゃねえか」
なおこの日の彼は、どこにでもいそうな和服姿だ。
「又兵衛殿。その服装は?」
「ああ、これかい?昨日の格好はどうにも窮屈でなんねえ。
向こうにいる間は昨日までの服装が普通だったのによう。こっちに帰ってきたとたんに、この姿が普通に感じられるんだかから不思議なもんだ」
しかしその又兵衛の気持ちは、俺にはすごくよく分かる。
なぜなら俺もこの時代にやって来る前までは当たり前だと思っていたことが、こっちの時代に来てからは窮屈に感じたことは服装以外でも多々あったからだ。
それでも、すっかり今では普段の生活習慣が、違和感のないようにやれるようになったのは、ひとえに周囲の支えがあったからに他ならない。
この又兵衛との何気ないやり取りで、俺はあらためて自分の周囲にいる人々への感謝の気持ちが溢れてきた。
ところが同時に、もう一つの想いに突然かられたのである。
――そう言えば、もとの世界の俺は元気にやっているだろうか…
この想いは今になって始まったことではない。
元の世界の自分のことは、あまり気にかけていなかった。
それは、「もう一人の自分にも自分の人格が残っていて普段通りに生活しているはずだ」と都合よく解釈しているからだ。
もしくは「この時代での出来事は全て俺の長い夢の中の出来事で、目を覚ませばもとの時代の日常に戻っているはず」とも考えている。
いずれにしても、もとの時代の自分については、さほど深くは考えていない。
それでも時折、その事が思い起こされ、その度に両親の顔が思い浮かぶ。
そしてもう一人…
――麻里子はどうしているかな…
と、もとの時代では「当たり前」のようにいつも側にいた幼馴染のことがなぜか思い出される。
もちろんこちらの世界で「当たり前」でなくなった存在は、当然彼女ばかりではない。
それでも彼女の事だけは…俺が馬鹿をやった時にいつも小言を言って頬を膨らませるその表情だけは、時折ふと頭に浮かぶのであった。
「ちょっと!聞いておられますか!?秀頼様!」
という又兵衛の言葉で、俺は我に返った。
「すまん、すまん!考え事をしておった!何か言ったのかい?」
「全く…頼みますよ!」
そのように又兵衛はむくれながらも、全登の人材集めについて色々と教えてくれたのだった。
どうやらここ最近、特に西洋諸国の政治状況はあまり思わしくないらしく、落ち着いて研究に没頭できる研究者はごく一部とのこと。しかもそんな研究者たちも、パトロンとなっている貴族や教育機関が政治の混乱に巻き込まれた時点で、その研究をやめなくてはならない。
さらに言えば、この頃、科学の真理とキリスト教の真理の違いに対する柔軟性に欠けているのが実情なようだ。
簡単に言えば、少しでもキリスト教の教義に反した研究成果を公表した時点で、異端審問会にかけられ、下手をすれば生きたまま火あぶりの刑なんてことも、ありえることだったようである。
つまり一部の研究者たちにとっては、今の西洋は非常に不安定な環境と言えたのである。
商人たちの海洋進出により、アジア各国がもはや未知の異世界ではなくなった今、確かに日本という国は、果てしなく遠い国ではあったが、豊国学校での研究は正当な報酬と衣食住、そして何よりも安全な研究環境が保証されているという点において、非常に魅力的であったようだ。
それでも明石全登、オルガンティノ神父、後藤又兵衛の三名が、右も左も分からない遠い異国の地で血のにじむような努力をして、研究者たちを集めてきたのだから、本当に頭の下がる思いだ。
俺は、同じ舟に乗っている又兵衛と全登の手を取り、頭を何度も下げて、
「ありがとう!本当にありがとう!よくやってくれた!!」
と、心から感謝の言葉を口にした。
突然の事に驚いて顔を見合わせている二人に対して、俺は心の内を素直に吐露したのであった。
「俺の夢物語のような要望に対して、真剣に向き合い、それを夢から現実にしたのは、お主らと前の舟に乗っているオルガンティノ神父の努力の賜物だ。
お主らの働きで、きっと畿内の民らは…いや日本の全ての民たちの生活が豊かになるに違いない。
民たちの笑顔があれば、俺はどんな逆境も乗り越えられる気がするのだ。
これは決して綺麗事ではない。
なぜなら必ずや、民たちが豊臣家の、そしてお主らの力となってくれるだろうと確信しているからだ!」
そんな俺の言葉に全登は、俺の手に自分の手を優しく重ねると、
「秀頼様。先ほども申しましたが、これも全て秀頼様の崇高な志しがあったからこそ成し得たことにございます。
それにまだこれは始まりに過ぎません。
この後に研究が実を結び、そして民たちの生活へと花開くかは、ひとえに彼らの働き次第にございます。
それがしらは、彼らが存分に力を発揮できるように、さらなる努力をせねばなりませぬ」
と、力強くうなずいた。
その彼の瞳を、俺はじっと見つめる。
やはりそうだ…
出立した時とは全くの別人のようにその瞳は、自信にみなぎっている。
この四年半の月日と異国の旅は、全登を大きく成長させたのだろう。
多くの研究者たちを招き入れることと同じくらいに、一人の明石全登という男の成長は、俺にとっては替え難いほどに大きな喜びであり、同時にうらやましくもあった。
――俺もこの数年間で少しは成長できたのだろうか…
と、全登の瞳を見ていると、不安を覚えてくる。
もとの時代の俺にとって、毎日の過ごし方は全て「当たり前」で固められていた。
学校に行くのも、部室に顔を出すのも、読書にふけるのも、麻里子に怒られるのも、宿題に追われるのも…
全てを「当たり前」に行い、それらの行動による己の成長など、全く意識した事はない。
しかし、今はどうだろうか。
それら全ての「当たり前」がなくなった今、俺は自分の行いと己の成長に、全て責任を持たねばならなくなった。
そして歴史の歯車の行きつく先を知っている状況において、家族や自分の身の破滅を避ける為に、俺はその歯車を逆転させるほどまでに、成長し続けねばならなくなったのだ。
そんな時に帰国してきた全登。彼は見事に成長を遂げていた。俺の想像以上に。
しかし、俺はどうなのだろうか…
急に自信を失い、心の中が厚い雲で覆われていく…
…と、そんな時。
「おいおい!秀頼様!全登殿!そろそろ到着だぜ!
男同士で気持ち悪く見つめ合っているところ悪いのだが、この手を放してくれよ!」
と、又兵衛が強引に手を引き抜きながら大きな声で言った。
「す、すまぬ」
と、俺も慌てて手を引っ込める。
そして全登は、俺を見て微笑みながら告げたのだった。
「良い目をされるようになりました。豊臣家を背負われるお方に相応しい目をしてらっしゃる」
俺は、恥ずかしさに顔を真っ赤にさせて、全登から目を離した。
彼のその一言…お世辞かも知れないが、それでも素直に嬉しい。
心の中が、再び晴れ渡ってくるのを感じると、目の前には、大きな京の街並みが輝いて見えてくる。
目的の豊国学校は、もう目の前だ。
さあ、いよいよ完成を迎える天下一の学府。
俺は、その学府が天下に、いや世界にその名をとどろかせることを、願ってやまなかったのだった。
◇◇
慶長11年(1606年)3月2日ーー
京にある天下一の学府「豊国学校」は、春の穏やかな陽だまりの中とは思えぬほどに、言い得ぬ緊張に包まれていた。
なぜならこの日、普段はばらばらの場所で学んでいる弟子たちと、師匠たちが一同に集められていたからだ。
こんな事は初めての事であり、皆何事かと顔を見合わせて、師匠たちの指示に従って整列していた。
そんな中を俺は、ゆっくりと進んでいた。
弟子たちの整列の最前列には、学長の石田宗應を始め、豪勢な師匠の面々が横に並んでいる。その光景を眺めるだけでも、俺の胸は踊る。
俺が最前列まで俺がやって来ると、宗應は頭を下げて、サッと前を開ける。
そして彼の背後にあった段差を登ると、学府の面々を見渡せる程の高さのある広い舞台のような場所に出た。
その舞台の上で、俺の背後には新たな研究者たちが整列する。
最後に段差を登ってきた、明石全登、後藤又兵衛、オルガンティノ神父の三人は、俺の横に並んだ。
さあ、全ての準備は整った!
俺はその胸一杯に、春の暖かな空気を吸い込む。
そして、雲ひとつない青空に向けて、どこまでも突き抜けるような大声で宣言した。
「皆の者!!いよいよ今日、世界有数の研究者たちが、この豊国学校に研究者として到着した!!
これからが豊国学校の本当の始まりである!!
みな学ぶのだ!!
切磋琢磨して、その学を競うのだ!!
願わくば、この一流の研究者たちに勝るとも劣らない程の研究者が現れんことを!!」
俺の空気を震わせるような大きな声が、人々の心の中に響き渡る。
すると…
ーーオオオオオッ!!
と、今度は地面を震わせるような雄叫びを、全ての弟子たちが上げた。
その声を聞くと、腹の底から興奮が湧き上がってくる。
始まるんだ!今から!
そう思った瞬間に、ゾワゾワっと俺の全身に、電気のような何かが走ると、一気に顔が紅潮した。
どうやら弟子たちもみな俺と同じ気分のようだ。
顔を真っ赤にしてその瞳を輝かせているのが、少し離れたところからも十分に分かる。
俺はその反応に満足して大きくうなずくと、青い上掛けを翻して、その場を後にしたのだった。
この学府で行うべき、もう一つの事をなす為に…




