理想の学府を目指して㉓苦難の先の福音(終幕)
◇◇
慶長6年(1601年)10月ーー
冬の足音がついそこまで迫る京の早朝、まだ空は夜の暗闇が半分と夜明けの瑠璃色が半分。
昼間は活気に溢れる豊国学校は、ひっそりと静まり返っている。
そこに旅の準備を終えた明石全登と、彼を見送りにきた石田宗應の二人が、歩調を合わせるようにゆっくりと豊国学校の敷地の中を歩いていた。
そして学府の出入り口となる正門の前までやってくると、宗應は足を止め、全登は一人少しだけ進んで、宗應の方へと振り返った。
ちょうど一年前と同じような光景。
しかし宗應の目の前に立っている全登は、まるで別人のようだ。その瞳は自信と使命感に輝いている。
「では、いって参ります。あとの事はよろしくお願いいたします」
と、全登は軽く頭を下げる。
宗應は昨年と変わらぬ穏やかな笑顔を全登に向けた。
「ええ、お任せください…と言っても、拙僧はただ皆まさを見守るだけにございますが…」
と、宗應は背後にある寺子屋などの建物の数々を見つめた。
「いえ、宗應殿あっての豊国学校にございます。
ここで学び、教え、そして研究する者たち皆が、宗應殿のお人柄と情熱に感じる事があって、ここにおるのですから」
「ふふ、それはおだて過ぎというものです。
この豊国学校は、秀頼様の高いこころざしのもとに、造られたものにございますゆえ、そのこころざしこそ皆さまのお心を動かしたのでしょう」
宗應はそう謙遜すると、再び全登に向き直った。
全登の表情には以前のような硬さや、気負いもない。
そして、宗應はふと何かを思い起こしたかのように言った。
「そう言えば、近頃耳にしたことがございます。
なんでも、一人の元大名様が、関ヶ原の戦いの後、罪人となり落人として徳川殿にそのお命を狙われておったそうです。しかし彼の一人の家臣の方が危機と知り、そのお命をかけて徳川殿に直訴して、彼を助けたそうです」
その事はもちろん宇喜多秀家と明石全登のことは明確である。
なぜそれを回りくどいことを言うのか、全登はいぶかしく思っていた。
宗應はおっとりとした調子で続けた。
「そのお話しがどこからか伝えられましてね。
堺と京の町民たちに広まり、今美談として大きな話題となっているのですよ」
「なんと…さようでしたか…」
秀家のことが町民たちに良く伝わっていると知って、全登はほっとした。だが、そんなことのために宗應はこの話題を持ち出したのだろうか…
「全登殿が京におられない間に、そのお話がこの豊国学校にも伝わりまして。本阿弥光悦様が、お知り合いの出雲の阿国という踊り手にその事をお話ししたところ、彼女がその事を歌と踊りにいたしまして…
町民だけではなく、大名たちにも知られることとなったのです」
「え…」
宗應はそこでニコリと微笑んで続けた。
「その踊りが多くの大名たちのお心に響いたようでして、その捕まった大名様のお命の嘆願が、町民たちからも大名たちからも上がったのにございます」
「それは…」
全登の体が震える。
「ここまで話が大きくなると、さすがの徳川殿とも言えど、死罪を申しつければ、どんな騒ぎが起こるとも限りません。
そしてついに、徳川殿は、その元大名様の罪を一等減じて、八丈島への流罪にお決めになられました」
全登は、宗應に対して自然と深々と頭を下げる。
そこに言葉はなく、ただ熱い涙を流して震えていた。
「明石殿…頭をお下げになる方向が違いますよ」
と、宗應は優しく言うと、一つの方角を指差した。
「初めのそのお話の出どころは、この方角にあるお城だそうですよ。
そのおしゃべり好きの御当主様より伝え漏れたとか…
ふふ、あくまでお噂にございますが」
宗應の指さすその方角…
その先にあるのは、大坂城…
その当主は豊臣秀頼…
秀家の死罪を免れるように、全登とのことを美談として仕立て、話を広めたのは、単なる「大坂城の御当主のおしゃべり」によるところだったのか…
そしてそれが京に伝わったあとに、本阿弥光悦を動かしたのは誰か…
宇喜多秀家が死罪をまぬがれたのは、果たして単なる歴史の歯車が作り出した必然なのか…
それとも小さな力がその歯車を狂わせたのか…
そんなことはもはやどちらでもよいのかもしれない。
明石全登という一人の男が、背負っている一本の赤い傘を返すその約束を果たせる未来を『夢』に見ることが出来るのだから…
「おおーい!ジョアン!待つデース!」
宗應の背後からオルガンティノの大きな声が聞こえてきた。
彼が見送りにくる予定はなかったのだが、それ以上に全登を驚かせたのは、その格好であった。
大きな荷物を抱えて、歩きやすいようなその姿…
どう見ても単なる見送りではない…
「それがしもお供いたしまーす!!だから待つデース!」
走ってこちらにやってきたオルガンティノは、全登の前まで来ると、肩で息をして両膝に手をおいてうつむく。そんな彼に向かって全登は驚きの声をあげた。
「オルガンティノ様!?しかし京での布教はいかがするのですか?」
「ぜえぜえ…そ、そもそも…豊国学校でイエズス会の宣教師が働くことが出来ねば、京での布教活動をするわけにはいきません…
それに…」
「それに?」
「ジョアンは異国の言葉を話せませんデス。
異国でジョアンが困るのは嫌デス!」
「ですが…寺子屋で言葉をお教えになられて…」
その時、宗應が口を挟んだ。
「その件は、オルガンティノ殿ではなくコンスタンチノとおっしゃる日本人のお方がお教えになる、と名乗り出てくださいました」
「え…それは…」
「なんでもヴァリニャーノ殿がオルガンティノ殿の穴埋めに…と、直々にご指名になられたとか…
日本人が日本人に物を教えることに、イエズス会総長と言えどもお止めになる権利はない、とヴァリニャーノ殿はおっしゃってたそうです」
「ヴァリニャーノ様…」
全登はオルガンティノの方へと向くと、
「それではオルガンティノ様。どうかよろしくお願いします」
と、深々とお辞儀したのだった。
「では!出発デース!!」
全登の肩を持ってオルガンティノは大きな声でそう天に向かって叫ぶ。
いつの間にか、空には暗闇はなく、瑠璃色で覆い尽くされていた。
雲一つないどこまでも澄んだ秋空の中、全登とオルガンティノは、完成した船のある大坂の港にある造船所へと力強くその足を進めていったのだった。
◇◇
慶長6年(1601年)10月3日ーー
この日は、俺…すなわち豊臣秀頼にとって、歴史的とも言える一日となった。
なんと…
なんと…
大坂城の本丸から初めて外に出ることになったのである!
いや、正確には関ヶ原の戦いを止めるべく、大坂城を抜け出したことがあったが、あの時は何の力にもなれず、挙げ句の果てには母である淀殿から、思い出すだけでも背筋が氷るほどに恐ろしいお仕置きを受けたことはあった。
しかし今回は違う。
その母である淀殿の許しのもと、この日ばかりは、大坂城の本丸はおろか、城外に出ることになったのだ。
もちろん外に出るだけの理由はある。それは異国へ出立する明石全登を見送りにいく、というものだ。それゆえ、朝に出立し、夕げの時間までには大坂城に帰ってくることとなっている。
それでも俺にとっては、まさに記念日とも言える日と言えるほどに、嬉しいことであった。
実は、それを最初に甲斐姫に嘆願したのは、彼の娘である明石レジーナではあった。
正確には彼女と彼女の家族が、この日だけ大坂城を出て、大坂の港にある造船所に父親である明石全登を見送りに行きたいと願い出たのである。
そのことに、俺はそれに便乗…いや、彼女と彼女の家族に付き添い、自分の家臣である全登を労いたいという理由で大坂の港にある造船所までの、大坂城からはわずかな距離を出ることをレジーナとともに甲斐姫と淀殿にお願いしたのであった。
………
……
「しかし…母上…この人数は少し多すぎではないのでしょうか…」
と、大坂城の本丸を出る門の前に、淀殿によって召集されたその集団を見て、俺は思わずため息まじりに、俺らを見送りにやってきた淀殿に言った。
なんと俺の護衛として百人以上もの城詰めの兵たちが集められたのだった。
「あら、秀頼ちゃん。そんな事はないわ。むしろ少ないくらいかしら。」
「大坂の港にある造船所まで行って帰ってくるだけですぞ…しかも、七手組たけではなく幸村殿や甲斐殿まで付き添いをしてくれることになっているのに…」
「ふふ、兵の多さは、母の愛の大きさのようなもの…それを多すぎるなんて…
秀頼ちゃんには、この母の愛情をまだありがたく思ってないのですね…」
これはめんどくさい展開になりそうな予感がする…
そう判断した俺は、
「ありがとうございます!母上」
と、今出来るとびきりの笑顔を見せて、淀殿のご機嫌をとることにしたのだった。
しかし、そんな俺を見て、横から大きな声を上げた少年たちがいた。
「殿!!この木村重成もおります!殿のお命はそれがしがお守りします!」
「殿!大野治徳もいるぜ!俺だけで十分!」
「秀頼様!堀内氏久もいきます!」
と、俺の口から名前を言われなかった三人の少年たちが、口を尖らせて、自分も俺のことを護衛してくれると主張している。彼らもまた俺たちに同行して、大坂の港にある造船所までいくこととなっている。
しっかり者の重成以外はむしろ俺の方が、彼らが迷子にでもならないか心配だ。
とは言え、仲の良い友たちと城外に出るのは、さながら「昔」というべきか…はなはだ表現は難しいが、とにかく「俺にとっては昔」に経験した「遠足」に近い感じがして、物凄く胸が踊る気分であった。
「秀頼さまぁぁぁ!!」
そんな浮かれ調子の俺に、それ以上に有頂天で朗らかな少女の、俺を呼ぶ声が朝の秋空にこだました。
その声のした方を見ると、千姫がレジーナの家族たちとともにこちらに向かってきているのが見えた。
彼女もまた俺たちと同行することになっている。
俺が城外に出かける事を昨日知った彼女は、大号泣して
「千も連れていかなかったら、おじじ様(徳川家康のこと)に言いつけてやるぅ!!」
と駄々をこねたのだ。
なんだか色々と洒落にならないような事態を危惧した俺と幸村は、彼女の母親代わりの淀殿に頼み込んで、「条件つき」で了承してもらった。
その「条件」が何であるのかは、幸村と淀殿との間に交わされたそうだが、柄になく青ざめた顔で戻ってきた幸村は、
「これも豊臣家のため…」
と、つぶやくばかりで、ついにそれを明かされることはなかったのだった。
さて、そんな千姫は昨日の号泣などどこぞに吹く風のように、今は天真爛漫な笑顔をこちらに向けている。
だが、俺はその小さな体に合わないような大きな荷物を見て、目を丸くした。
「おい、お千!なんでそのように大荷物なのだ?」
と、いぶかしく問いかけた俺に、千姫は心外とでも言うように、口を尖らせて答えた。
「秀頼さまの為に、このように大きな荷物になったのに、そんな風に言わなくてもよろしいではないですか!」
「なに?俺のためだと?」
「はい!まずは、秀頼さまのお腹が空いた時の為に握り飯でしょ。それに、秀頼さまが甘いものを欲しくなったときの為にコンペイトウに、秀頼さまのお喉が渇いたときの為にお水と…」
と、千姫は指折りしながら一生懸命に説明している。
俺はため息をついて、それを制した。
「俺たちは一体どこへ行くと言うのだ…それではまるで異国に行くようではないか…」
するとそんな俺に、千姫は不思議そうな顔をして、俺にたずねた。
「大坂城のお外に千は出たことがないゆえ、よく分からないのですが、異国のようなものではないのですか?」
俺はこの言葉を聞いて、はっとさせられる想いであった。
――そうか…もしかしたら史実の千姫も、このような心持ちであったのかもしれない…
物心つく前から伏見城か大坂城の奥に、さながら囚われの身のように閉じ込められていた彼女は城外のことを一切知る事はなかったのだろう。
彼女が城外のことを「異国のよう」と思うのも無理はない話なのだ。
そしてそれは、今はわずか四歳の少女であれば、不自然なことでもなんでもないかもしれないが、もし今日のようなことがなければ、彼女はこの先数年間も「豊臣の人質」として、このような運命をたどることになっていたのかもしれない。
いや、史実ではそうであった可能性が高い。
俺はそう想うと、急に彼女の境遇に胸が痛くなるのを感じて、彼女の頭をなでた。
「秀頼さま?」
「おなごにそのような大きな荷物をもたせるわけにはいかぬ」
と、俺は彼女が抱えていた荷物を彼女の手から奪い取るようにして、持ち上げた。
ずしりと自分の手にかかる重量が、淀殿ではないが「愛情」のように感じられて、俺は胸がくすぐったくなったのだった。
そしていよいよ出立の時を迎えると、俺は用意された駕籠ではなく、幸村がまたがる馬に、彼の背中にしがみつくようにして乗ると、他の少年たちもみな、他の大人の乗る馬に同乗させてもらっているようだ。
千姫も俺と同じ馬に乗りたいと、また駄々をこねていたが、周囲の説得により渋々レジーナとともに、駕籠の中に入っていった。
そして…
「よーし!出立じゃぁぁぁ!!」
と、俺は大きな声で号令をかけると、百人以上のお供を引き連れて大坂城の本丸を、正々堂々と正面から出た。
俺にとっては感動の一歩が踏み出された瞬間であったのだった。
◇◇
「むむっ…なんだか期待していたものと違うが…このようなものか?」
大坂湾を臨む場所に作られた堀内氏善の造船所で、俺は思わず落胆とも言える言葉を発してしまった。
それは、「度肝を抜くような船を作れ」と命じて、完成したその船を目の前にして、出た言葉だ。
俺としては全長50m以上で幅10m以上、さらに大砲がいくつも積まれた超巨大な帆船を期待していたのだが、その期待を全く裏切るもので、恐らく全長は20m程度で、それでも大きいが、どこかこじんまりとした印象を受けたのだ。しかし素人目に見ても、無駄な装飾などはなく、いかにも速く航行しそうな雰囲気に、俺は頼もしく感じたのも確かであった。
「ガハハ!親父殿!想像していたのとは違っていることに驚いた様子ですな!」
と、今回の造船の責任者である堀内氏善は、相変わらず豪快な笑みで俺に話しかけてきた。
「うむむ…もう少しなんというか…こうドカーンというのを想像していたからのう」
するとそこに同じく造船を担っていた大谷吉治が近づいてきて、笑顔で巨大ではない理由を説明してくれた。
「実は、巨大な船を作ろうという計画もあったのですが、そもそも交易をする…つまり多くの積荷を載せることを目的とした航海ではございませんので、その大きさよりも、より速く、より小回りが利き、より頑丈な船を造ろうと考えたのです」
「なるほどのう…かつてコロンブスが、自分が乗船したキャラック船のサンタ・マリア号ではなく、一回り小さい随行したキャラベル船のピンタ号やニーニャ号を好んだという事と同じであるか…」
「ころんぶす?」
「いや、なんでもない。なるほど…そのような事であれば仕方がない!
いや、むしろ全登殿の航海には最適な船であろう!
よくやった皆の者!!」
と、俺は造船に携わった人々に対して深く礼をするとともに、大きな声で労ったのだった。
その声に皆、歓声を上げて喜んでいる。
俺も自分の指示で完成した真新しい船を見て、なんだか鼻の奥がツンとする不思議な感慨に浸っていた。
そして船には「豊国号」という名前がつけられると、いよいよ明石全登たちの出立の時間が近づいてきた。
そこで実はもう一つ全登には「贈り者」をすることにしている。
その「人物」が造船所にやってきた。
「おうおうおう!如水様に言いつけられて、1万石の所領を捨ててまで乗る船は、どこじゃ!」
いかにも素行に難があるような、だみ声が近づいてきたと思うと、その人物は颯爽と姿を現した。
頬には刀傷があり、その男が戦場で生きてきた武士であることを物語っている。
すると、同じく全登を見送りに、加藤清正と桂広繁を連れてやってきた黒田如水が、その男を叱りつけた。
「おい!又兵衛!!貴様!遅刻した上に、なんだその物言いは!」
「げっ!親父…いや如水様!!」
「げ…ではない!しかも、秀頼様の前でその振舞い!!わしが頭の固い佐吉であれば、即刻手討ちとしていたであろう!
早く頭を下げよ!!そして遅刻したことを詫びるのじゃ!」
叱責を受けたその男は、しゅんとなって俺の前にやってくると、小さくなって頭を下げた。
「後藤又兵衛基次と申します。こたびの遅参申し訳ございませんでした」
そうこの男の名は後藤又兵衛。後に大坂の陣で大活躍をする、戦国きっての猛将である。
この頃、当主である黒田長政とはあまりうまくいっているとは言えず、史実の上では数年後に出奔してしまい、不遇に陥ってしまう。
今回はそうなる前に、俺は、彼の武勇を見込んで、全登の護衛役を如水を通じて頼んだのであった。
「いやいや、良いのだ。むしろ無理を言って、筑前の所領から抜けてもらいすまなかった!」
その俺の言葉に気を良くしたのか、又兵衛は胸を張る。
「明石殿の護衛!どんとそれがしにお任せくだされ!南蛮人だろうが、紅毛人であろうが、害を与えようものなら、それがしの刀で切り刻んでみせましょう!ハハハ!!」
「おい!又兵衛!お主はそんなだから、長政から嫌われるのだ!!全く、ちょっとは落ち着かんか!」
と、又兵衛の様子に如水が一喝を加えると、再びシュンとなって、又兵衛は大人しく船に乗り込んでいったのであった。
そしてそこにもう一人遅れてきた人物がいた。
石田宗應である。
「突然堺でお買い物をしたくなったわ、なぜかしら?」
と、北政所が突然言い出すと彼が付き添いとして、彼女から指名された為、見送りに参加することがかなったのであった。
期せずしてここに、七人の将星が揃った。
黒田如水、加藤清正、石田宗應、明石全登、堀内氏善、大谷吉治、桂広繁…
彼らの躍動が、学府を造り、船を造り、城を造り、そして多くの味方を作っていった。
まさに暗闇の中で始まった、俺の豊臣秀頼の人生という航海の、行く道を示す「星」のような働きに、俺はいくら感謝しても足りないであろう。
俺は自然と彼らに向かって深くお辞儀をした。
彼ら全員が目を大きくして驚いているのが分かる。そんな彼らに俺は、素直に心境を吐露したのであった。
「こんな場ではあるが、あらためてお主らに礼を言いたい。
本当にありがとう。
お主らが俺のもとに集ってから、まだわずか一年という期間であるが、そなたらの行動が豊臣家の…いや日の本の民の未来を作っていると言っても過言ではなかろう。
まさに『豊臣の七つ星』と言える働きである。
今はこうして言葉でしかその労を報いてやれないことを恥ずかしく思う。
しかし、今後も豊臣を…日の本を照らす星となって、輝く事を願ってやまないのだ」
俺が心から思っている飾りのない言葉に、加藤清正などは目に光るものを浮かべている。そして、その他の者もみな一様に、神妙な面持ちで頭を下げていた。
逆境から始まったとも言える豊臣秀頼の人生であったが、彼らがいれば…いや彼らだけではない、真田幸村、霧隠才蔵、甲斐姫、片桐且元、そしてまだ年少である木村重成、大野治徳、堀内氏久…俺の周囲にいる全員がいれば、その未来は明るいものになるような、この時はそんな気がしていたのだ。
そして…
全登は異国へ出航する長崎の港へと旅立っていった。
広い海の先で彼は一体どんな人と出会い、何を見てくるのであろうか。
それは俺のこれからの人生においても同じことが言えるであろう。
豊臣秀頼という人生の大海原で、俺は今後どれだけの事を経験するであろうか。
そしてその先には何があるのだろう。
そして俺だけではなく、全てのこの世に生を受けた人々にとっても同じことが言えるのだ。
その航海の途中で、時には悲しみにうちひしがれるだろう。
それでも皆懸命に生きているのは、その先には『夢』が待っていると、信じているからに他ならない。
そうこの時は信じていた…
しかしその海の行きつく先が、人によっては『絶望』しかないことなど、この時の俺は知らなかったのだ。
その結果、『豊臣の七つ星』の全員が揃う事が、これが最初で最後になることなど…
そして豊臣秀頼の人生という航海のその先には、深い絶望しか待っていないことなど…
この時誰が予想出来たであろうか…
これで「理想の学府を目指して」のシリーズは終了でございます。
いよいよ次のシリーズが第一部の最後のシリーズとなります。
その予告は私の「活動報告」にてさせていただきました。
また第二部に関する情報も、ちょっとだけ記載させていただいております。
ご興味がおありの方がいらっしゃいましたら、どうぞご確認いただければと思います。
また、新たにレビューを頂戴いたしました。
大変素敵なレビューをいただき、ありがたく思っております。
引き続き大変多くの読者様より感想も頂戴いたしておりまして、本当に感謝しております。
どうぞ今後もよろしくお願い申し上げます。




