理想の学府を目指して④土佐の泥 後編
この世の全ての兄弟姉妹の方々が、末永く仲良く暮らしていくことを願って、この物語を贈ります。
◇◇
慶長5年9月25日ーー
土佐のその屋敷にも等しく秋はやって来ている。
そしてあと一ヶ月もすれば、冬の足音が聞こえてくるはずである。
「ああ、次の春を土佐で迎えたいものだ…」
と、津野親忠は秋空を見つめながらつぶやいた。
今、彼の脳裏に浮かんでいるのは、春のあの祭りのことであった。
どのように世の中が変わっていこうとも、変化することがない祭りの姿は、家族の愛情に似ていると、親忠は感じていた。そして次の祭りでは、自分よりも大きくなった弟の長宗我部盛親と泥をぶつけ合う事を夢見ていたのである。
しかしその見込みは極めて薄い、としか言いようのないものだ。もはや山内一豊がこの土佐の国を治めることは決定的と言える。例え友の藤堂高虎が懸命に徳川家康に訴えたところで、どうにかなるものでもないだろう、と彼は半ば諦めていたからだ。
それでもまだ、次の春の祭りの事を夢に見るのだから、未練だけはどこまでもつきまとってしまうことは、幼き頃に生まれ育った故郷に対する強い思い入れであり、やむを得ないのかもしれない。
そんな切ない想いに身を委ねていたその時であった。
彼宛ての一通の書を持った男が、彼を訪ねてきた。
「おお、玄蕃殿でしたか。お元気そうで何より。息子の五郎殿も息災ですかな?」
「はい、お陰様で親子ともども元気にやっております」
と、男は親忠に向けて頭を下げた。
彼の名前は、大崎玄蕃。親忠の家臣の一人だ。彼は元いた甲斐の国が織田信長と徳川家康によって攻め込まれた折に土佐に落ちて来た、という珍しい経歴の持ち主なのだ。土佐に落ちてきた後は、その素性が明らかでないにも関わらず親忠が丁重に迎え、玄蕃はその恩に報いるべく、息子の五郎とともに忠勤に励んでいる。歳は六十手前であったが、その姿は未だに快活そのものだったのである。
その玄蕃に向かって、親忠は、
「今日は何用ですかな?また馬の乗り方でも教えていただけるのでしょうか?」
と、彼の得意とする乗馬の話を持ち出して、問いかけた。恐らく玄蕃は、近頃塞ぎ込みがちな自分を励ましに来たのだろうと親忠は考え、玄蕃の好きな話題を先に振ったのだ。玄蕃はその心遣いを嬉しく思い、笑顔を浮かべたが、首を横に振ると、一通の書を親忠に差し出した。
「これは…?」
「送り主は本多正純殿。徳川内府殿の側近中の側近の方からの書にございますぞ」
玄蕃はその書の内容が良い報せである事を想像して、声の調子が高い。しかし親忠は、あくまで冷静な心持ちでその書を広げて、内容を確認した。
それに一通り目を通した後、彼はそっと目を閉じて、一言だけ漏らした。
「仕方あるまい…」
それは何かを諦めたような、気が抜けたものであった。その様子に、玄蕃は書の内容が悪いものであった事を予感し、すぐにそれを親忠から奪い取るようにして受け取って中を見た。
その書には、三つのことが端的に記されていた。
一つ目は、長宗我部盛親の関ヶ原でのことを許し、減封ではあるが、土佐を安堵すること。
二つ目は、その代わりに盛親と親忠の兄弟揃って家康に謝罪しに大坂城までくること。
そして最後に、関ヶ原の合戦以前から徳川家に肩入れしていた親忠を、正式に長宗我部家の当主として認めることを家康は考えているとのこと。
この内容だけを見てしまえば、親忠にとっては喜ばしいものであると言えるだろう。
だが、この書を読んだ瞬間に、玄蕃も親忠と同じように絶望の淵に立たされる気分となったのだ。
「これは…」
と、茫然自失でつぶやく玄蕃に対して、親忠は達観した表情を浮かべ言った。
「こうなっては仕方あるまい。
どうやら我が小さき夢は、かないそうにないな…」
それは親忠が、土佐に春までいることがない…すなわちこの世にいることがない事を意味していた。
なぜここまで彼は思いつめてしまったのか…
それは長宗我部家のここまでの泥沼のお家騒動を知っていたからだ。この書のことは盛親はもとより、彼の側近である久武親直も知るところであろう。
このままではまたあの悲劇が繰り返されてしまう…
そして今度ばかりはその矛先が自分に向けられることは火を見るより明らかである。
なぜなら久武親直という男が、例え天下人の意向に背いてでも盛親を守る、そういう狂信的で苛烈な忠誠心の持ち主であることを知っているからだ。
無論、親忠にしても、例え徳川だろうが豊臣だろうが、お家や弟に泥を塗ろうとするならば、この身をていして守り通すつもりであり、弟を蹴落としてまで当主の座を、というつもりはさらさらない。
そうやって今までも生きてきたつもりだ。
だが彼の見えないところで、兄弟の運命が進む先には、確実に彼らを陥れるように、逃れようのない大きな落とし穴が待ち構えているのだ。
「それがしが説得力に当たります!どうか早まることなきよう!」
と、玄蕃は必死な思いで、すがるように親忠に懇願した。
「どうにかなるものでもあるまい…再び家が二つに割れる前に、俺が自害することが最善であろう」
「お待ちくだされ!これは徳川の罠にございます!
家康本人の意かどうかはさておき、徳川が長宗我部家を陥れようとしているに違いありません!
久武殿にその理を説明すれば、賢い彼であればきっと見抜いてくれるに違いありませぬ!」
と、玄蕃は家康を呼び捨てにしながら、苦々しい顔をして頭を下げた。
…と、その時であった…
「はて、それがしの名前が聞こえたと思えば、親忠様にございましたか…」
と、親忠と玄蕃の前に、一人の男がゆらりゆらりと近付いてきた。
その男は…
久武親直であった。
目の焦点があっておらず、顔面蒼白で明らかに尋常とは思えないその表情に、玄蕃はその声とっさに親忠を庇うように彼の前に立ちはだかる。そしてその親直に向けて、言い放った。
「これは久武殿ではごさらぬか。何用でこられたのかな?」
「長宗我部家当主の側近であるそれがしが、一介の家臣の一人に過ぎぬ親忠様の屋敷に足を運ぶことが、そんなに奇妙なことであろうか?」
その言葉に玄蕃の額に青筋がくっきりと浮かぶ。
「無礼であるぞ!親直殿!」
周囲の空気を震わせるような一喝であったが、親直はたじろぐどころか、逆上して大声でわめきだした。
「うるさい!!落ち人ごときの貴様に一体何が分かるのだ!貴様ごとき、俺の一声で一族郎党を処刑することも出来るのだ!!わきまえよ!!」
「わきまえるのは、親直殿の方だ!養子に出たとは言え、ご当家の嫡流にあたるお方への狼藉は決して許されるものではない!!」
火花を散らして睨み合う二人の間に入り込むようにして、親忠が穏やかにいさめた。
「まあ二人とも落ちつけ。
親直よ。それがしに何か話があってきたのであろう。立ったままでよい。申してみよ」
親直はその言葉の後もしばらく玄蕃を睨みつけていたが、その時とはうって変わってにこやかな笑顔で、親忠の方を向いて話し出した。
「これは失礼しました。さすがは土佐の国の半分を安堵されたお人は、余裕が違いますな」
その親直の嫌味をこめた言葉に、親忠は目を見開く。
「なんのことだ…?それがしに土佐の半分を安堵だと?」
「ほう…しらを切られるつもりか…既にお友達の藤堂高虎から話は聞いているだろうに…」
しかしこの事は親忠にとっては初耳のことであった。なぜならこの時、この事を親忠に知らせることになったであろう藤堂高虎は、実はこの事を知らなかったのである。
つまり「土佐半分の安堵」は本多正純の出まかせであったのだ。
もちろんそんな事など露とも知らない親直は、親忠があくまで知らぬふりをしていると思い込んでいた。そしてその事が彼のわずかに残された理性の欠けらを完全に振り落とした。
親直はその場で腰を下ろすと、姿勢を正して親忠を見上げて言った。
「まあ…そんな事は、もはやどうでもよいのです…
親忠様…一つお願いがございます…」
この時点で親忠にはどんな願いなのかは想像していたが、振り絞るようにして問いかけた。
「…なんだ?申してみよ」
親直は深々と頭を下げると、大声で願いを言った。
「どうか!長宗我部家の未来の為に、腹をお切りください!!どうか!!」
「きさまぁぁぁぁ!!」
とうとう堪忍袋の緒が切れた玄蕃は、親直の顔を思い切り蹴り上げた。
「なぜ分からぬか!!これは徳川の謀略である!!
兄弟の仲違いをさせて、長宗我部盛親殿に『汚点』をつけさせる為の罠である!!
どうしてお主ほどの者がそれに気づかないのだ!!」
涙を浮かべながら叫ぶ玄蕃に対して、口から血を出しながら親直は立ち上がると、強烈な口調で反論した。
「お主もなぜ気付かぬか!!
親忠様の存在が、どれだけ長宗我部家に不幸をもたらしているか!!
もしあの時、親忠様が自ら腹を切っておれば、土佐を二つに割るような沙汰にならなかったのではないのか!?
例え今の難局を乗り切っても、親忠様が生きているだけで、ゆくゆくは再びお家騒動になろう!!
それを徳川が図っていると、なぜ分からぬ!!」
「はは!親忠殿と盛親殿の兄弟はその心配には及ばぬ!そもそも親忠殿は盛親殿こそが当主に相応しいと思っているのだからな!!」
「どうしてそう言い切れる!!?親忠様が翻意しないと、どうして言い切れる!!」
「それは…」
と、玄蕃は言葉をつまらせる。
そして親直は、涙を流しながら力の限り叫んだ。
「お主は分かるのか!!兄に裏切られた弟の気持ちが!!惨めな弟の気持ちが!!!」
その魂からの叫びに親忠は、胸を打たれた。
そしてその時、父長宗我部元親に幼い時に言われた事、そして遠い昔のことが胸に蘇ってきたのだ。
ーー久武親信と親直の兄弟のように仲良くしなさい
久武兄弟は、土佐中でも一二を争うほどに仲の良い兄弟であった昔のことを…
しかし…
ーー弟の親直を取り立ててはなりません。彼は腹黒い男です。必ずや長宗我部家に災いをもたらすでしょう。
と、兄の親信が弟の未来を奪うような進言を父にした事実を…
なぜ親信が弟を陥れるような進言をしたのかは、明らかではない。しかしそこにある事実はただ一つ。
心の底から慕っていた兄に裏切られた、哀れな弟がいたということ…
そしてそれこそ、久武親直が長宗我部盛親に異常なまでに肩入れする理由だったのだ。
すなわち、彼は二度と自分のような「兄に裏切られた悲しみにくれる弟」を見たくはなかったのである。
その事に初めて気づいた津野親忠は、強く心を揺さぶられ、目眩を覚える。
そして親直はなおも続けた。
「人は弱き生き物だ!
誘惑に心を奪われることなどない、色気にたぶらかされる事がない、と言い切れる人間がどれほどいるであろう!!
いや、いないはずである!
みな生まれながらにして、何らかの欲を持ち、何かを求めて生きていく!
それこそ心がある、何よりの証拠ではないか!
すなわち兄が弟を蹴落とす事は未来永劫ない、というのはそれがしには到底信じられぬ!
信じていたのに、裏切られた者だからこそ、そう言い切れるのだ!!」
親直の悲痛な叫びは、人間の悲し過ぎる性を言い当ている。
だが世の中、『絶対』などあり得ないからこそ、語らい、愛し合い、そして手を取り合うものではないだろうか。
しかし既に心に大きな傷を負った親直には、そのような綺麗事にあふれた世の中など、全く信じられないものだった。
彼の中にある世の中は、例え家族であったとしても、自分が生き残る為なら、奪い合うような、殺伐とした修羅の世界なのだ。
よく笑い、よく泣くーー
泥を浴びる事なく、真っ白なまま大きくなった盛親には、そんな世界を見せたくない。
みなが力を合わせて国を、日の本を動かしていく、美しい人々の絆だけを信じている、そんな豊かで幸せな人生を送って欲しい…
「弟」であり泥だらけの人生を歩んできた久武親直が、同じく「弟」であり純白なまま育ってきた長宗我部盛親に求めたもの…すなわち親直が盛親を通じて見た夢はそこにあったのだった。
その事に気づいたその瞬間…
津野親忠の決意は固まった…
千熊丸と盛親を呼んでいた頃の、彼の泣きべそをかいた顔が目に浮かぶ。
笑った顔、怒った顔、泥だらけの顔…
全て親忠にとっては、宝物のような表情だ。
その顔を浮かべるだけで、涙が頬を伝う。
もし、兄弟が血で血を洗うような世の中に生まれていなければ…
もっと、土佐の春を共に過ごせたであろうか…
もっと語り合う時を多く持つ事が出来たであろうか…
互いの子を自慢出来る日があったであろうか…
ああ…
願わくば、次生まれ変わる時も、千熊丸の兄として生まれたい…
その気持ちを彼は、弟に遺す言葉として、書き記した。
――大願の天祐によりてかなう日を、夢に見ゆる、土佐の大鷹…
………
……
乱世に翻弄される長宗我部家の物語は、盛親の涙とともに進んでいく。
兄津野親忠の死は、盛親の中の全てが流れ出てしまうほどの悲嘆の涙を生んだ。
そしてその後の事は、彼自身あまり覚えていない。
津野親忠の自害を聞いた徳川家康は、盛親を「兄殺し」と糾弾し、苛烈に怒ると、盛親には京にて蟄居、側近である親直には九州のいずれかの大名家に預けられることとなった。
その仕置きに親直が家康の前であるにも関わらず
「それでは話が違うではないか!!」
と、取り乱して、傍らにいる澄まし顔の本多正純に呪詛の言葉をかけながら飛びかかろうとした。しかし周囲の者に荒々しく取り押さえられて、そのまま部屋を退出したのは、瞳の片隅に映った。
しかしそれ以外の事は全く記憶にないのだ。
気づけば腰に差した刀さえ奪われて、彼は京の街の中に立っていた。
感情なく、呆然と立ち尽くす彼に、傍らの男が近づくと、彼を包み込むような優しい声をかけたのだ。
「それがしもちょうど殿と同じ頃、父によって兄を殺されました…
しかし、だからと言って今の殿のお気持ちが分かる、とは口が裂けても申し上げられませぬ。
ただ一つ、この老いぼれが助言出来ることがあるとすれば…それは…」
その老人は、津野親忠の傍らにいた大崎玄蕃。主を失った彼は土佐には戻らず、盛親の側に立っていた。
そんな彼の方を、盛親は色を失った目を向ける。
すると玄蕃は続けた。
「それでも生きなされ。生きて伝えなされ。この日の本に何が必要かを…
そしていつしか日の本全ての兄弟が仲良く暮らせる世を夢見るのです。
それこそ親忠様が、そしてそれがしの兄が望まれたことなのではないかと思ってやまないのです」
そこまで言うと、彼は親忠が最期に遺した書を盛親に差し出した。
それを見た盛親は…
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」
枯れたはずの涙はとどまることを知らない。
しかし同時に兄の言葉は、彼の瞳が失った色を戻していった。
兄の分まで生きよう。とにかく生きてみよう。
全てを失った彼が、兄の遺した一筋の光の道を歩もうと決意を固めていく。
この後、彼は京で寺子屋を開く事に決めた。
それは、未来ある子供たちに…兄弟たちに、出来ることを精一杯しようと、それがこの日の本の未来を作る礎になると考えたからである。
そして、彼はその際、こう名乗ることにしたのだ。
大岩祐夢――
と…
それは兄津野親忠が彼に託した夢であった。
……
……
かつて、土佐には大高坂城という城があった。
それは長宗我部元親が、土佐の国の繁栄を願って、盛親とともに移り住もうとした城でもあるが、残念なことに、ちょうどその頃、跡継ぎの問題が勃発した事や、周辺の土質の問題などがあり、元親は断念せざるを得なかった。
だが、土佐に入った山内一豊はその城を改築し、幕末まで続く立派な城に造りかえる。
その名は、高知城。
そして別名は…
鷹城――
それは親忠が夢みた、兄弟が仲良く春を迎えて土佐の泥をかけ合える、そんな城であると思えてならないのである。
◇◇
一方…
長宗我部盛親に改易と蟄居の沙汰を言い渡した家康は、盛親が退席した後も、しばらくその場に腰をおろしていた。その表情は、どこか険しいものを浮かべているのだが、傍らの正純は、それは「兄殺し」の盛親に向けられた厳しい感情を表しているものだと思っていた。
そんな彼を、家康は近くまで寄るように、無言で手招きした。
――これは「上手くやった」とお褒めいただけるかな
と、彼は心軽やかに家康の前に進んだ。
その時だった…
家康はその重々しい体からは信じられないほどに、素早く立ちあがったかと思うと、拳を鉄のように固くかためて、思い切り正純の左頬を殴りつけた。
――ドゴッ!!
正純に鋭い痛みが走った瞬間、驚くほどの怪力が、彼の体を横になぎ倒した。
あまりにふいを突かれた正純は殴られた左頬に手をやりながら、普段はめったに見開かない目を大きくして、家康を見つめた。
その家康は、まさに鬼のような形相で正純を見つめ、怒鳴りつけたのだ。
「たわけがぁ!!!この家康に貴様の狼藉が見抜けぬとでも思ったか!!」
あまりの剣幕に正純は言葉を失って、ただ家康を凝視するしかない。
そんな彼に家康は雷を落とし続けた。
「人の心には動かしてよい方向と、決して動かしてはならぬ方向がある!!
貴様が動かした心が、どちらの方向を向いていたか!分からんとは言わせんぞ!!
恥を知れ!!この馬鹿者が!!」
と、激しい言葉を浴びせると、それに収まらなかったのか、家康は正純の顎を蹴りあげた。
正純は抵抗することもなく、そのまま大の字になって倒れる。
そのまま立ち上がろうともしない正純の近くまで寄ってきた家康はその場でしゃがむ。
そして正純の顔に自分の顔を近づけると、
「もう…二度とかような事をするでない!わしはお主を買っておるのだ…わしを失望させるような行動をするな…」
と、歯ぎしりをしながら悔しそうに吐き捨てると、そのまま立ち上がり、怒りに満ちた表情のまま部屋をあとにした。
この事は、家康の心に大きな影を落とす結果となった。
すなわち彼は、「正しき人道を敷くことこそ、施政者がすべき最重要な事である」と確信し、もとより交流のあった天台宗の高僧である天海を側に招くことへとつながるのであった。
そして、本多正純は…
頭を揺らされ、朦朧とした意識の中、彼は醜い喜びに浸っていた。
「殿が俺を叱ってくれた…俺に目をかけてくれた…くくく…あははは!!」
乾いた笑い声が部屋の中に響く。
そして再び瞳に禍々しいものを浮かべた彼は、
「あとは土佐に残った、長宗我部の家臣ども…やつらを黙らせねばならぬ…くくく…
息の根を止めれば、うるさくなくなるかのう…くくく」
と、次なる快楽を求めて、その標的をいまだに土佐に向けていたのであった。
「大願の~」という辞世の句は、私の完全なる創作になります。
長宗我部盛親が京にて「大岩祐夢」と名乗っていたのは、史実の通りで、その意味を私なりに解釈させていただきました。
また、津野親忠の自害の真相は、未だ謎とされております。
通説としては久武親直の讒言によって、盛親が自害に追い込んだとされております。
果たしてその通りなのでしょうか…
私が思い描くこの小説の世界は、美しすぎるもので溢れているかもしれません。
しかし、人の世がいつでも美しい愛情と涙に溢れた世界であることに、願いを込めて、この作品をこれからも書き続けていきたいと思っております。
最後に、いつも多くご感想をいただき、本当に感謝しております。
みなさまの励ましのお声が、私の執筆の力となっており、本当に嬉しく思っております。
これからも皆さまの心に届くような作品を作っていきたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。




