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石田三成との会談〜千姫の受難〜①

◇◇

俺が豊臣秀頼となってこの時代にやってきた日の翌日――1600年8月19日。


いよいよ石田三成との直接対談のタイミングを迎えようとしていた。その前に目標と条件を整理しておくことにする。その上で、会談の進め方を考えよう。


まずこの会談を俺が所望した理由――すなわち、本会談の目的なのだが、それはずばり…


関ヶ原の戦いを中断させる!


と、いうとんでもなく無茶な要求を課すことであった。


しかし、これは俺なりに悩みに悩んだ結果の結論であり、単なる思い付きではないとだけは強調しておきたい。


俺は昨日結論づけたように、俺が平穏な毎日を送るためには、一日でも早く「徳川家康に政権を譲る」ということを実行したいと考えている。

しかし同時に、俺のヒーローである真田幸村(真田信繁のこと)からは「西軍に肩入れしてほしい」と懇願されている状況だ。

そして忘れてはいけないのが、ここ大坂城は西軍の本拠地であり、安易な東軍への肩入れは、身の破滅を生みかねないということだ。


これらを加味すると、「われは内府どのに加担する!」と簡単には表明出来ないし、そもそも赤子に等しい俺が、そんな宣言をしても、大人は耳を傾けないに違いない。

それどころか「内府め!幼い秀頼公までたぶらかしおったか!」と西軍の将たちの怒りで燃え盛る火に油を注ぎかねない。



つまり俺は今置かれている状況と、大好きな真田幸村との関係という身勝手すぎる感情の二つを加味した上で、こう結論づけた。


「表だって東軍の肩入れは不可能である」


と。


ここまで散々引っ張っておいてなんだそれは!と言われたって仕方ないと思っている。

むしろそんな事を言われたら「お前ならどうするんだ!」と反論してしまうだろう。


ではいっそのこと西軍に加担したらどうなるのか。


これについて、はっきりと言えるのは、例え今のタイミングで俺が西軍に味方しても、戦況は大きくは変わらないであろうということだ。


もうここまで進行してしまった大きな流れを止めることは、例え太閤秀吉であっても難しかったに違いない。ましてやお子ちゃまの俺に、家康相手にひっくり返すなど、もっての他である。


そしてそんなことをしたら、石田三成と安国寺恵瓊と一緒に下手をすれば処刑となる可能性もある。

そこまでとはいかなくても、宇喜多秀家と一緒に八丈島へ島流しは、大いにあり得る。

そんな事になったら、俺はこの時代を満喫するどころではなく、必死に明日の米を得るためだけの人生になりかねない。


「それだけは絶対に嫌だぁ!!」


と、思わず叫ばざるを得なかった。


「うるさいわね!秀頼さまは昨日から少し変ですわ!頭がおかしくなってしまわれたのですか?」


「あ…千…お前いたのか…?」


と、思わず漏れてしまうくらい、同じ部屋に千姫がいるのをすっかり忘れてた。

一つだけ忘れてはならないのは、この時点で千姫と秀頼はまだ結婚していない。

つまり赤の他人なのだ。

どういう訳で大坂城に入り浸っているかは不明だが、いつも4歳下のこの少女は俺の側に引っ付いている。


「いたのか?ですって!?もう!秀頼さまは千の事をなんだと思われているのですか!?」


そう俺に問いただす千姫は、頬をぷくぅっと膨らませて腰に手を当てている。


この光景…昔に幼馴染の麻里子ともあったな…

こうなると面倒くさいんだよな…


と、重く感じた俺は「はぁ」っとため息をついたのだった。


「もう!ため息なんてついちゃって!どうせ私は面倒くさい女ですよ!秀頼さまなんて、もう知らない!」


と、幸運なことに彼女自らそっぽを向いて、一人でかるた遊びの練習を大きな声で始めていた。


正直言って、すごくうるさい。

しかし変に話かけられるよりはまだましだ。

俺は再び思考の深海へと潜り込んでいく。



東西どちらにも加担を表明するにはリスクがあると感じた俺は、歴史通りに日和見をせざるを得ないだろう。

しかしこのまま関ヶ原の戦いが勃発してしまっては、俺の立場は転落していく一方だ。

それくらいに関ヶ原の戦いというのは、徳川家康の力が強くなるきっかけとなる大一番なのだ。


そこで俺は考えた。

東軍が勝つのは仕方ない。

しかし大勝利とまではいかないように出来ないかと。


言わば「小牧長久手の戦い」にならえないかという作戦である。

あの戦は豊臣と徳川の両軍が互いに本隊同士がぶつかることなく、局地戦のみで終えた。

結果は一応豊臣の勝利とするのが通説ではあるが、徳川の強大さを内外に示すことにもなったのは有名な話である。


つまり、それを今回の戦でも再現出来ないかと模索しようと考えたのである。


既に伏見城の戦いなど、局地戦は始まってしまっている。

今のところは近畿と北陸を鮮やかに抑えた西軍の手前が際立っていると言えよう。

しかしその戦力の違いは当の石田三成にも分かっているはずだ。


西軍の圧倒的不利を…


もしそうでなければ、俺の「お墨付き」など欲する必要などない。もし有利に進んでいると彼が思っていれば、むしろ俺を戦から遠ざけようとするはずである。


つまりこの戦はこの時点であっても、東軍が相当有利である事に変わりはないのだ。


もしこの時点で三成と家康の和睦が成立したとするならば…

そしてその仲介役を豊臣家が買って出たとするなら…

結果として徳川の勝利で終わりつつも、石田方の力を示した事にもなり、二つの強大な勢力の間に立つという意味において、豊臣家の存在意義が際立つ。


我ながら完璧な作戦に鳥肌ものである。


しかしそこには大きな問題がある。


それは言わずもがな、それをどう実現させるか、という点だ。


その実現の為に、現在切れるカードは二つだと俺は思っている。


それは今回の「実質の」西の総大将である石田三成との会談。

それにもう一つは、現在は西の丸にいる、「名目上の」西の総大将である毛利輝元への直談判だ。



いずれにしても時間との戦いだ。

まずは石田三成との会談という、最も強力なカードを手に入れたのだ。

これをなんとか活かさなくてはならない。


ガリッ…


俺はその重責に耐えきれず、思わずコンペイトウを口にしてしまった。


「ああ~!!秀頼さま!ずるい!私も食べたいのを我慢していたのに!

勝手に食べたらいけません、て母上に言われているではありませんか!」


外野がうるさいのはこの際無視だ。


引き続き俺は考える。



いっそのこと、俺の正体を石田三成に打ち明けてしまうか…

実はそんな風に考えていた。

義理固い彼の事だ。俺の正体を知っても、それを公表したり悪用したりはしまい、そう考えていたためだ。

しかしその考えは、今朝方あっさりと崩された。


「秀頼ちゃん、今日の治部との会談には、私も同席いたします」


と、最も素性を知られたくない淀殿がそう決めたのである。


そうなると話は厄介だ。


わずか7歳の俺が

「内府どのと和睦せよ」

と、命じたところで、いぶしがられるだけだ。

むしろ相手すらしてくれないだろう。


俺は自分の無力さに歯ぎしりしていた。


そこに再び外野から声が飛んでくる。


「秀頼さまは何をさっきからされているのですか!?

まるで一人芝居をしているようで気味が悪いです。

本当に頭がおかしいのではありませんか!?」


一人芝居ね…

確かに勝手に叫びだしたり、歯ぎしりしだしたりすれば、気持ち悪いよな…

この点は隣の千姫に深く同情してもよいだろう。

しかし「頭がおかしい」というのを未来の夫に向けて連発するのはどうなのよ?

と、声には出さずに彼女をなじっていた。


しかし…

そんな彼女を眺めている間に、俺は一つのことを思いついたのだ。


「一人芝居…」


「あまりじっと見つめられると千は恥ずかしゅうございます」


と、なぜか顔を赤らめている千姫。

そんな彼女の様子などお構いなしに、俺はその思考が一つの結論に達した喜びが爆発した。


「そうか!その手があったわ!」


ガバッ!


俺は昨日と同じようにそんな彼女に抱きついた。


「千!よくぞ申した!よし!この会談、絶対に成功させるぞ!ははは!」


顔をゆでダコのように真っ赤に染めてジタバタする千姫を、嬉しさのあまり俺はギュッと抱きしめ続けたのであった。



どうも千姫が登場するとテイストが軽くなる…

そしてキャラ設定の甘さが際立つ。


千姫だけのストーリーを書いて、キャラを立てるべきか…


ちなみに次回は三成との会談になります。

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