終章 それぞれの一歩目(3)
エデンには、『管理者』と呼ばれる者たちがいる。簡単に言えば、政府のようなものだ。
そして、首相のような立場は『管理人』と呼ばれる。
その『管理人』を含めた『管理者』が全員、とあるビルの会議室に集まっていた。円形に設置されたテーブルと椅子に、それぞれが座る。
真ん中にいる20代の女性が『管理人』である。
腰にまで届きそうなストレートの黒髪、触ると弾かれそうなほどハリのある白い肌、引き締まった体に服を着ていても大きいと分かるほどの胸。そして、整った顔立ち。白い白衣を着た彼女はまさに完璧な女性であった。
周りは中年の男性や初老の女性など、年齢層がバラバラではあるものの確実に彼女よりは年上である。
だが、彼女は物怖じせず柔和な表情を浮かべると、こう述べた。
「皆様、お集まりいただきありがとうございます。もうお分かりかもしれませんが、今回集まっていただいたのは先日の『二重能力試行実験』について、私の見解を発表しておきたいと思ったからです」
そこまで言うと、『管理者』の1人であるスーツを着た初老の男性が額に青筋を浮かべながら怒声を放った。
「大体、俺は最初からあの餓鬼は殺すべきだと言ったはずだ! それを貴様が無視したからこうなったのだろう!! 見解もクソもあるか、今すぐ責任を取れ!!」
『管理人』は身を乗り出した男性のほうを向くと、
「私のお話をお聞きになりたくないのでしたら、いつでもご退席いただいて結構です」
「貴様、俺を舐めてるのか!!」
「……まさか、『セカイ』が私の手にあることをお忘れですか? あなた方はその干渉を免責されている存在。ですが、だからといって干渉出来ないわけではないのですよ」
「ぐむ……覚えてろよ女狐……」
男性が黙ると、『管理人』は周りを見渡して話を続けた。
「件の少年、黒神終夜の行動に、皆様は少なからず不安をいだいておられるかもしれません。しかし、結論から言って彼の行動は我々の大願に悪影響を及ぼすものではございません。『セカイ』は、正常に起動しております」
「またそれですか『管理人』」
今度は30代くらいの女性が発言した。
「『楽園解放』の件の時も貴女は同じことを言いましたよね? アタシたちが『セカイ』を確認できないのをいいことに、虚偽の報告をしているのでは?」
数人の『管理者』が賛同するように頷いた。そうだそうだ、と『管理人』を捲し立てる。
「虚偽の報告をしたとして、私に何のメリットがあるのでしょうか。ああ、あなた方を排除出来るというメリットはあるかもしれませんね」
冗談交じりの言葉だったかもしれないが、そう言った彼女の顔は真剣そのものだった。その威圧感に、『管理者』たちは言葉を詰まらせてしまう。
「ですが、それが目的ならあなた方は既にここにはいないでしょう。それに、我々の大願は私1人では不可能な領域まで来てしまいました。あなた方を排除することにメリットはございません」
「くっ、もういいです。本題に戻ってください」
「お心遣い、感謝いたします。それでは、本題に戻らせていただきます。黒神終夜、彼は寧ろ利用すべき人間であると考えられます。彼を利用することこそが、大願成就のエッセンスと言えるでしょう。それに、彼の扱う力。デバイスに呼応しないあれは、能力開発競争を展開している世界の台風の目となるでしょう」
「彼に『セカイ』は効くのですか?」
白くて長い顎鬚を蓄えた老人が、それを撫でながら優しい声色で問う。
「ええ、『セカイ』の干渉条件は能力の種類ではありませんから。彼にも干渉は可能です」
「左様ですか、ならば僕も反対する理由はありません。いざというときには『セカイ』で干渉できるのですから」
「賢明なご判断です。さて、以上が私の見解です。異論はございますか?」
先ほどの老人の発言で、反対派の人間たちも納得せざるを得なくなってしまった。彼らは俯き、沈黙した。
「沈黙は合意の表れ。英断に敬意を表します。それでは引き続き大願のために尽力なさってくださいませ。それを『セカイ』も望んでおります」
そこで会談は終わった。『管理者』たちは各々退出し、最後に残ったのは『管理人』だけだった。
彼女は窓へと近づくと、廃ビルだらけの風景を眺めながら、ため息混じりにこう呟いた。
「警戒するならば、彼よりも寧ろ……『セカイ』の干渉条件からそれを考えられない彼らはやはり無能と言ったところでしょうか。いずれにせよ、今回の会議が我々の新たな一歩ですね」
黒神の知らないところでも、物語は確実に進んでいる。




