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第五章  私の心をあなたに(7)

 言い表すなら、一方的で圧倒的な暴力。研究室のモニターに映し出されていたのはそんな光景だった。


「邪魔者どもめ……早織には生かしておくと言ったが、自分から死にに行ったのだ。仕方ないだろう」


 少し前に突然現れた氷使いの少女も黒神と同様、簡単に蹴散らされてしまう。動かなくなった2人を一瞥すると、早苗はゆっくりと早織の下へと歩き出した。的場の指示を実行するために。

 白いワンピースと黒い翼。正反対の色。彼女は天使に見えるか、それとも悪魔か。的場にとっては前者、あの場にいる者にとっては後者だろう。


「やれやれ、ようやくこれで――」


 的場が後頭部を掻き毟りながら呟いた時、突然研究所のドアが爆発した。


「な、なんだ!?」


 吹き飛ばされた扉を辛うじて避けると、的場は辺りを見回した。すると、研究所内にアーマーを纏った人間が次々に入ってくるのが見えた。

 最初に入ってきた大男は中を見渡すと、こう告げた。


「よォ研究者諸君。治安維持部隊だァ、観念しやがれ!!」


 他の人間たちは銃を持っていたが、彼だけは手ぶらだ。それが何故なのか的場には分からなかったが、答えはすぐに出た。

 若い研究員の1人が風の能力を使って彼に攻撃した。だが、その攻撃は彼に当たらず――否、当たったはずなのだが、一瞬にして消えてしまったのだ。


「は、はぁっ!? どういうことだよ!!」

「はァ、ま、知らねェだろうから別に文句は言わねェけどよォ。せめてこの床破壊するぐれェな気概を見せやがれ」


 そこからは一瞬の出来事であった。

 彼が突撃したのと同時に他の人間も突撃し、あっという間に研究室内の全員を組み伏せてしまったのだ。何人かは応戦しようと試みたが、能力による攻撃は全て大男にかき消されてしまい、かと言って力任せの物理攻撃は普通に防がれてしまう。


「こ、攻撃の手段が無い……? 君たちは一体……」

「あァ? さッき言ッたじャねェか。治安維持部隊だッてよォ」

「なんの根拠があって!!」


 的場は後ずさりしながら叫んだ。


「クローンに対する倫理違反だ。この映像に映ッてるだろォ……そこのモニターに映ッてるのと同じ場所で起こッてる戦いが」


 大男は左腕を突き出す。すると空中に映像が映し出された。そこに映っているのは早苗が完全体となった時の映像だ。


「こ、こんなもの、捏造だ!!」

「いいや、これだけじゃねェ。さッき『強制執行』の使用を確認した。これだけでも明確な違法行為なんでなァ。まだなんかあるか?」

「ふ、ふざけるな! こんな所で、こんな所でぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええええええ!!」


 的場はその場に跪いて絶叫した。

 大男――神原は哀れみの視線を向けながら彼を取り押さえる。そして仲間に的場を連れて行くように命令した。

 神原以外誰もいなくなると、彼はモニターへと近づいた。そこには、絶望的な状況が映し出されていた。


「ちッ、嘘だろ! ここまで来たんだぞ。ここまで来てバッドエンドだなんて認めねェぞ!!」


 そこまで叫ぶと、神原はモニターの下にマイクがあることに気付いた。電源を入れると、彼はこう叫んだ。


「こッちは終わッたぞ。だから、いつまでも寝てんじゃねェぞ『英雄』!! テメエの友達を助けるんだろォが!!」


 神原の方からは自分の言葉が届いているのか分からない。だが――



 黒神の腕が動いたのは確認できた。

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