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第五章  私の心をあなたに(6)

 確認ではあるが、月宮早苗はクローンである。簡単に言えば、造られた人間。もちろん、彼女を造ったのは的場壮大だ。 

 彼は早苗を造った際、彼女の体にチップを埋め込んだ。そもそもが『不完全』な人間である早苗を制御するためのものである。そのチップには2つの機能がある。1つ目は、世の中の常識から外れること。早苗が実験のことを遊びだと思い込んでいた原因である。そして2つ目が『強制執行』だ。


 『強制執行』。

 本来は早苗が暴走状態に陥った時に、彼女を制御下に置くための機能だ。しかし、的場は異なる目的でこれを使用した。


 本来の目的なら、クローンの暴走によって一般人に危害が及ばないようにするという正当な目的があるため、辛うじて違法とはならない。

 だが、今回の使用目的は専ら実験完遂のためである。このような私的使用は明確な違法行為――つまり、人間の尊厳を無視した行為とみなされるのである。


 さて、ここでもう1つ確認しておきたいことがある。

 完全体となった早苗には辛うじて自我が残っていた。そして彼女自身、死に関しては先述の機能があっても一定の常識を持っていたらしい。だから、圧倒的な力を振りかざしながらも3人の敵に対して殺傷行為をすることは無かった。


 では、その自我が失われた今は?

 答えは簡単だろう。つまり、超至近距離にいた早織に、黒き刃が振り下ろされる。








「あ、え?」


 再び背中から黒い翼を出現させた早苗が絶叫しながら襲い掛かってきた。的場の言葉に体が動かなくなっていた早織は間違いなく早苗の剣で切り裂かれたはずだ。

 だが、早苗の剣は振り下ろす途中で止まっていた。

 その原因は1つの手。白いオーラを纏ったそれが剣を受け止めていたのだ。そしてその手の主は、


「黒、神君……」

「大丈夫か、早織?」


 だが、その状態も長くは続かない。

 剣を振り下ろせないと分かった早苗は黒神の胸倉を掴み、空高く飛び上がった。


「――!? マジ、かよ」


 4メートルほど上昇すると、早苗は剣の柄で黒神の顔面を殴り、地面へと彼を落とした。空中では思うように自由が利かない。況してや顔面の激痛もある。黒神はそのまま地面に向かって落下していく。


 それだけでは終わらない。

 早苗は落下していく黒神に追いつくと、今度は至近距離で『包闇連弾』を放った。無数の黒球が黒神の体で爆発し、彼の落下速度を急激に速める。

 いくら『氣』を纏っているためダメージが微減するとはいえ、これだけの量が当たれば黒神も耐えられない。


「が……ゴボォッ!?」


 途中で朝影が『氷槍』を数本投げてきたが、早苗は『超包闇』を連射してすぐに破壊してしまった。そして、落下する直前の黒神の腹部を踏み潰した。

 地面への衝突と上からの圧迫により、比喩ではなく彼の体は一瞬ながら潰れてしまう。


「……!! ――!!!!」


 絶叫すらあげられない。もはや、自分の内臓が全てグチャグチャになってしまっているような感覚さえある。

 黒神は口から血と胃液が混じったものを大量に吹き出した。辛うじて意識だけは保っているものの、それがかえって彼に言い表せないような激痛を体感させることになっている。


 早苗は息切れ1つしていない。

 最早、戦いにおいて彼女は止められない。

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