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第五章  私の心をあなたに(5)

 その時、早苗はどう思ったのだろうか。

 それまで姉として彼女なりに慕っていた人間の殺害指示。

 早苗は『氷槍』を構える朝影に『包闇連弾』を放ち、拳を構える黒神の腹部へ蹴りを叩き込むことで2人を怯ませた。そしてその隙に早織の所へと駆け出した。


「くそ、早織!!」


 黒神は慌てて叫んだが、早織は何かにショックを受けているのか、動こうとしない。

 早苗は右手に『闇創剣』を構えると、顔と顔が触れ合いそうになるほどの距離まで迫り、剣を突き出した。

 ビュンッ!! と空気を裂く音が聞こえた。


「あ……さ、早苗……?」


 早苗の剣は早織の顔の横を通り過ぎ、髪の毛を数本舞わせた。そこまで来てようやく早織は我に返った。

 早苗の口から、ポツリと言葉が漏れる。


「嫌だっ」

「え……」

「こんなの嫌だよっ。私はこんなの嫌だっ!!」


 早苗の瞳からは涙が零れていた。先ほどまで生えていた黒い翼もいつの間にか消えている。それに呼応しているのか、その目には涙ではなく確かな光が宿っている。


「私はお姉ちゃんと遊べればそれでいいのにっ。殺すだなんてできないよっ!!」


 これは早織だけに向けられた言葉ではない。そしてもちろん、その人物はこの言葉を聞いていた。彼の声が早織と早苗両方のデバイスから聞こえてくる。


『そうか、最後の最後で君は拒否するか。実験動物(モルモット)の癖に生意気だな』

「っ! 私たちは実験動物じゃないっ!!」

『いいや、ワシは間違ってないぞ。なぜなら……君はワシの行動1つで従順な動物になるのだからな』

「一体どういうことっ!?」

『こういうことだ』






 的場壮大は苛立っていた。今まで全ての指示に従っていた早苗が初めて彼の指示を拒否したからだ。


「ふん、まさかこれを使うことになるとはな」

「せ、先生!?」


 他の研究員の間でどよめきが起こる。彼らは的場が何をしようとしてるのかに気付いたらしい。


「あれは明確な違法行為ですよ!!」

「知ったことか。これを使うことで得られる利益に比べれば、そんなことはどうでもいいだろう。さて」


 的場はモニターの側に近づくと、その下にある操作盤の真ん中の大きなボタンを押した。すると、操作盤が回転して裏側が現れる。

 そこには赤いボタンが1つだけ付いていた。


「早苗、今後君が自我を取り戻すことは無い。さよならだ……愛しい愛しい実験動物」


 そう言うと、彼はそのボタンを押した。


「『強制執行(きょうせいしっこう)』」


 直後、早苗の背中から再び黒い翼が出現し、彼女の目からは光が失われ――意識も失われてしまった。

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