第一章 運命の邂逅(8)
次に目を覚ましたとき、景色が一変していた。
「なん……何が……?」
並んでいた露店は店主ごと氷づけになっている。地面も凍ってしまい、その冷たさに黒神は自分が倒れていることに気づく。
「うぐっ……」
凍てつくような冷たさに耐え、黒神はなんとか立ち上がる。
やはり夢ではないらしい。さきほどまで話していた店主も店と共に凍っている。
「おっちゃん……」
死んでいるのだろうか。笑いも泣きもしない。話していたときと同じ表情で氷の中にいる。彼はきっと、何が起こったのかも分かっていないだろう。
「朝影……!」
ふと前を向くと、そこには驚いたような表情でこちらを見ている朝影がいた。青い髪、ブルーの瞳、そして青いオーラのようなものを纏っている。
「どうして、凍ってないの? それに、貴方は……」
「お前がやったのか」
「質問してるのは私よ」
「お前がやったのか」
「……そうよ」
否定してほしかった。こんなことしたのは私じゃない。貴方も奇跡的に凍らなかったんだね、と。
だが、彼女は否定しなかった。真っ直ぐ、黒神の瞳を見つめて、はっきりと肯定した。
「ふざけるなよ……なんでこんなこと」
「助けてくれたから貴方だけは巻き込まないって決めてたのに。はあ、でももう後には引けないのよね」
朝影は頭をかきながら呟く。
「なんでこんなことしたんだよっ!!」
今度こそ、黒神の言葉に力がこもる。明確な、怒りが。
「『エデン破壊論』って知ってる?」
「はあ?」
「その名の通り、エデンの破壊を主張する論。私はその論者の1人なのよ。エデンに来たのは破壊を実行するため。まあ、まさかあそこで気を失うとは思わなかったわ。でも、もう止まらない。私は、エデンを破壊する」
彼女の言葉の全てを理解したわけではない。だが、エデンを破壊するのが目的だったということは理解できた。そう、つまり彼女は――朝影光は、敵だ。
「さて、次は私が聞く番ね。どうして貴方は凍っていないの?」
言われてみれば、周りは人も露店も建物も、視界に入るもの全てが凍っているのに対して、黒神はほぼ無傷である。明らかにおかしい。
「た、確かに、どうして俺だけ……」
「からかってるの? こんなことができるのは、能力者しかいないでしょ。貴方の能力はなんなの?」
「…………」
知らない。知っているはずがない。なぜなら、彼は能力を持っていないからだ。デバイスが適合せず、能力が発現しなかった。故に、彼は能力を使えない。
では、この状況はなんだ。なぜ彼だけが凍っていないのか。
「その様子じゃ、まさか本当に知らないってわけ? ……まあいいわ。どちらにせよ、殺すから」
朝影の両手から氷柱のようなものが飛び出す。
「『氷槍』」
「――っ!?」
そして、朝影は黒神に向かって突進してくる。そのブルーの瞳に、明確な殺意を宿して。
死ぬのか。
黒神は恐怖を抱いた。
今まで、死など考えたことは無かった。能力の無い自分は傍観者。能力者の戦いを見て、憧れたり、嫉妬したり、そんな人生を過ごすんだと思っていた。
目の前に迫るは、能力者。そして、死の文字。
(死んで、たまるか。こんなところで死ぬわけにいくかよ……!!)
そして――




