第五章 私の心をあなたに(1)
早苗は光の宿っていない瞳で周りを見渡すと、黒神と早織に向かって両手をかざした。すると、その手ではなく早苗の後方に彼女の体を包んでしまうほどの大きさの黒球が出現した。
「まさか……!」
黒神は早苗の意図に気付いたのか、呆然としている早織の手を握って半ば強引に走り出した。
「く、黒神君?」
「あいつは黒球を収縮させて『超包闇』を放ってた! それがあの大きさならどうなる!?」
この場所を破壊するほどの威力の、巨大な『超包闇』が放たれてしまう。黒神と早織が力を合わせたとしても相殺出来ないかもしれない。
だから彼はコンテナが大量に積みあがっている場所に向かって走ったのだ。あれは少し前に早苗が『超包闇』を連射したことで山積みになったものだ。
どれほどの威力があろうが、対象との間に障害物があれば、その威力は軽減される。軽減されたとして、果たして相殺出来るか定かではない。しかし、選択肢はそれしかないのだ。
「間に合――!?」
直後、轟音と共に無数の黒い光線が山積みになっていたコンテナを全て消し飛ばしてしまった。
「嘘……だろ。この威力を、連射?」
黒神の額に、嫌な汗が流れる。
振り返ると、早苗の後方の巨大な黒球はいつの間にか複数個に分裂していた。その大きさは、今まで彼女が出現させていたのと同等。つまり、今まで1本に集中していたからこそ出せていた威力の『超包闇』を、今は連射できるということだ。
「は、反則だろそんなの……」
逃げ場は無い。最早、正面から立ち向かうしか選択肢は残されていない。
早織は未だに心ここにあらず。自分が引き金を引いてしまったことを悔やんでいるのだろうか。
「おい早織、しっかりしろ!! 今更悔やんでも、何も解決しない!」
「でも、私は……」
「くそっ、来る――!!」
一瞬の出来事だった。
『超包闇』が連射されかと思った直後に早苗の姿が消え、黒神の目の前に黒い翼が見えた。そして気付いた時にはゴミ処理場の壁に叩きつけられていた。
「が――っ!?」
腹部から血が出ている。どうやら『闇創剣』で斬られたらしい。『氣』のおかげで傷は浅いようだが、壁に叩きつけられたダメージも相俟って体が思うように動かない。
「さ、さお、り!!」
早苗の翼で遮られ、早織の姿が見えない。だが、早苗が剣を振り下ろす体勢になったのは見えた。
(このままじゃ、助けられない。早織も、早苗も!! 動けよ……動けぇぇぇぇぇえええええええええええええええ!!)
その剣が、振り下ろされる。




