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第四章  そして完全体へ(8)

 実験の続行。

 本来ならば、勝負がついた時点で一旦実験は終了することになっている。だが、『二重能力試行実験』の主任である的場は即座に戦闘を再開するように指示した。

 それが何を意味するのかは明らかであろう。

 今、この場で早苗が完全体になる。そう確信したということだ。





「続行かぁ……珍しいねっ。よっとっ」


 現在進行形で激痛が走っているはずなのに、早苗は身軽そうに立ち上がった。


「早苗、痛くないの……?」

「痛いよっ? でも、久しぶりにこんなに楽しいんだから、もったいないじゃんっ」


 早苗は笑っていた。本当に嬉しそうに、頬を赤らめながら。


「本当に続ける気?」

「もちろんっ。次は、負けないよっ」


 正直、早織にはもう戦う気など無かった。だが、立ち上がった早苗が胸の前に両手を構えて大きな黒球を出現させたのを見て、戦闘態勢をとるしかなかった。


「早苗。もう止めよ、こんなこと」

「嫌だよっ。だってお姉ちゃんは……お姉ちゃんはっ」


 少し、涙ぐんだような声だった。どんな時でも楽しそうな声だった早苗が初めて聞かせる声色に、早織は驚いている。


「さ、早苗……?」

「だってお姉ちゃんはここでしか『遊んで』くれないじゃんっ!!」


 癇癪を起こした子どものように、早苗は叫んだ。その瞳には薄っすらと涙が浮かんでいる。


(……遊び、か。そうだよね、早苗にとってこれは遊びでしかないんだ。そっか……)


 その瞬間、早織の中で何かが弾けた。沸々と、得体の知れない感情が湧き上がってくる。それを抑えることが出来ない。

 そして、


「いい加減にしてよ!! 私が、私がどれだけ辛い思いをしてるのか分かってるの!?」


 互いの思いのすれ違い。

 そこから生まれる憎しみや怒りは時として、人間を悪魔へと変えてしまう。


「お姉ちゃん――っ?」

「もういいわ。分かってもらおうだなんて思わない。早苗、あなたを殺してこの実験を終わらせる」


 そう呟き、早織は『水創剣』を構えて走り出した。2人の距離はそこまで遠くはない。早苗が慌てて黒球を放つが、弾かれてしまう。

 次の瞬間。


「う、あぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 鮮血が、飛び散った。

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