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第四章  そして完全体へ(5)

 月宮早織は恋する乙女である。

 その少年とは、高校で出会った。最初はただのクラスメートだったので、あまり気にしていなかった。しかも、彼は無能力者だ。多少の軽蔑すらしていた。


 だから、同じ部活だと知った時もいい気持ちではなかった。

 その頃には『二重能力実験』も本格化しており、少しでも実験から離れようと思って歓談部に入ったのだが、同学年は彼しかおらず、先輩たちも揃うことは少なかった。


 成り行きで少年と話すことになったが、彼と話していると不思議と実験のことを忘れられた。

 何故か、と問われるとそれは彼が無能力者だったから、と早織は言うだろう。

 無能力者であるが故に、彼が話す内容は普段の生活やら友人との一幕やら、能力など全く関係のないものばかりだった。


 だからこそ、早織は実験のことを忘れられたのだ。

 次第に、彼に安らぎを求めるようになった。否、彼こそが早織にとっての安らぎだったのだ。


 気付いた時にはもう、恋に落ちていたのだろう。

 確かに、それはただ少年に依存しているだけにすぎない。実験が終われば彼の必要性は無くなり、そんな感情も失ってしまうかもしれない。


 だが、早織はそれを否定した。

 なぜなら、彼が能力者となったことを知っても、その感情が消えなかったからだ。

 彼が無能力者だったから頼れていたのではない。彼だったからこそ頼れていたのだ。

 それを知ったとき、彼女は彼に恋をしたのだと確信した。








(だから、ただ何もせず見てるだけなんて嫌……私は、私は!!)


 黒神は早織がいる場所には攻撃がいかないように戦っていた。なので、その場から殆ど動けずにいた早織には全くと言って良いほど怪我が無い。

 コンテナが吹き飛ばされていき、黒神の逃げ場が無くなる。

 正面から突撃した黒神に対して、早苗は『影分身』や『包闇連弾』で対抗する。


(私は、彼にただ守られたいだけじゃない。私は――)


 早苗は黒球を剣に変えた。あの剣の性質を知っている早織には分かる。このままでは、黒神は負けてしまう。

 そう思ったときには、体が動いていた。

 早織は走りながら水の球体を作ると、それを剣の形に変えた。そして。



 ガキィィィッ!! という音が響いた。

 


 迫ってくる黒い剣に思わず目を瞑っていた黒神は、恐る恐る目を開けた。そこには、右手に水で出来た剣を持ち、黒い剣を上に跳ね上げている早織がいた。

 少し屈んでいるため、彼女の背中ではなく後頭部が見えている。


「さ、早織……?」


 元々は黒神のものである白いコートを来た早織は黒神を一瞥すると、笑顔で告げた。



「私は、黒神君の隣にいたい!!」

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