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第四章  そして完全体へ(4)

 その瞬間、早苗には何が起こったのか分からなかった。気付いた時には顔に激痛を感じ、体は地面に伏していた。


「っ!? っ!! っ?」

「ふー、さすがにあの距離じゃ俺も無傷じゃ済まない、か」


 倒れたまま、顔だけを上に向けると、そこには右手を振りぬいたような格好で立っている黒神がいた。彼の顔には砂や埃が付着しており、多少のかすり傷がある。

 恐らく、『超包闇』を相殺した際に飛んできた砂などで怪我を負ったのだろう。


「わ、私が……ここまでっ」


 ようやく状況を理解した早苗は後ろに飛ぶようにして体を起こし、黒神と距離を取る。


「凄い、凄いよ黒神君っ! ここ最近はお姉ちゃんでも私の体を地面につけることなんて出来なかったのにっ」


 その表情は嬉々としている。少なくとも、地面に叩きつけられた人間のするような表情ではないだろう。


「正直、9673回目の遊びだからどんなパターンの相手でも対応できると思ってたけどっ。さすが『英雄』だねっ!」


 実際、黒神が戦闘に慣れている人間だったらここまで上手くはいかなかったかもしれない。戦闘スタイルが確立されていないからこそ、早苗が知っているパターンには当てはまらないのだ。

 皮肉にも、黒神がまだ経験が浅いからこその結果なのである。


「行くよ、黒神君っ!!」


 今度は激突を選ばない。

 早苗は『超包闇』を連射した。しかし、それは黒神に向かってではない。彼女は周りにあるコンテナや木箱などのオブジェクトに対して放ったのだ。そう、黒神の逃げ場を無くすために。


「――っ、これじゃ俺が取れる選択肢は……」


 先ほどのような、予想外の行動は取れない。彼に与えられた選択肢は狭まってしまい、それは早苗にも予想の出来る範囲しかないからだ。


「さあ、どうするのっ」

「行くに決まってるだろ」


 選んだのは、近距離戦。黒神は『氣』を両手に集中させて走り出す。


「……『影分身』」


 早苗の隣に、人型の黒い影が出現し、それはすぐに早苗と同じ容姿へと変化した。そして、分身が突進し本体は『包闇連弾』を放つ。


「近距離と遠距離の同時使用!? そんなのアリかよ!!」


 無数の黒球は影分身には当たらず、確実に黒神に向かってきている。

 相手にしなければならないものは2つ。分身と黒球。そして、少しでもタイミングを間違えればどちらかの攻撃を受けてしまう。

 黒神が取った行動は、スライディングだった。


「おぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!!」


 両手に集中していた意識を両足に切り替え、伸ばした足を分身の膝に突き刺す。バランスを崩して倒れてきた分身を抱き寄せるような格好で自分の体を覆い、分身を盾にする。

 無数の黒球は分身の背中に直撃していく。


「それ、もし私が行ってたらセクハラって叫ぶところだよっ」

「うるせぇ! なりふり構ってられるか!!」


 早苗のところに一気に近づくと、黒神は分身を蹴り上げ、その勢いで自分も立ち上がる。


(『超包闇』が来るか!? だったら――)


 だが、違った。

 早苗は大きな黒球を右手だけに移し、その形状を変えた。具体的には、剣の形に。


「『闇創剣(ダークソード)』っ。これもお姉ちゃんに教えてもらった技だよっ」


 拳を構えなおそうとしていた黒神に対して、早苗は剣を振るった。届くかどうかギリギリの距離であったため、黒神は即座に後ろにさがった。しかし、剣が伸びる。影が伸びるように、長く。


(まず……い!?)


 その刃が、迫る。

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