第一章 運命の邂逅(7)
かくして、黒神はコルンに来ていた。
もちろん、散歩のためだけに来ているわけではない。コルンの露店の中にはスイーツを取り扱っているものがある。それを求めて彼はこの地に来たのだ。
「案外人気の店だからな。早めに来ないと無くなるんだ」
そんな人気店が建ち並ぶ綺麗な通りはコルンの『表』の部分。路地裏などの『裏』の部分はかなり荒れている。
「おーおー、今日も能力者対決が横行してんのな」
コルンに限らず、大抵の都市では能力者同士による対決が行われている。だが、基本的には決められた施設でしか対決はできないことになっているのだが、コルンなどの治安の悪い町では指定外の場所で対決が行われていたりする。
だが、コルンはまだ良識を保っているほうだ。
基本的に『裏』で対決を行うし、能力を持たない者たちに対決を強制したりはしない。そういう点でマシなのである。
だからこそ、黒神もこうしてのんきに歩くことができるのだ。
「お、あったあった」
しばらく通りを歩くと、目的の露店を見つけた。実は、黒神はたまにここを訪れるため、露店の店主と仲が良かったりする。
「おっちゃん、シュークリーム1つと――」
「ほいほい、苺のショートケーキね」
「さすが、分かってるね」
「寧ろ、他のものも頼んで欲しいんだけどな」
初老の店主はブツブツ言いながらも、箱にシュークリームとショートケーキを入れていく。
「はいよ、580円な」
「ちょっと高くなってないか?」
「最近また苺が採れなくなってきてるらしくてな。これでもかなり安くしてるほうだ、我慢してくれ」
黒神は言われた代金を支払い、満足そうに箱を受け取る。
「そうだ、終夜よ」
「ん、なんだよおっちゃん」
立ち去ろうとする黒神を、店主は呼び止めた。
「さっきから若い姉ちゃんがウロウロしてんだよ。俺が話しかけると怖がりそうだし、お前どうにかしてくれ」
店主は件の人物を指差した。
「ん、あれって……」
「知り合いか?」
そこにいたのは、不自然に通りを徘徊している青髪の少女であった。そして、彼女の姿に黒神は見覚えがあった。
「ああ、そんなところだよ」
朝影光。
昨日の夜、黒神が助けた少女だ。だが、彼女は朝にこう言ったではないか。
――踏み込まないほうが懸命よ
もしかしたら、彼女の言う国家レベルのことがこの町に起ころうとしているのだろうか。そうでなければ彼女がここにいるのはおかしいだろう(一応、迷っているという線も考えられるが……)。
(でもあれは不自然とはいえ、迷ってる人間の徘徊の仕方じゃないよな。寧ろ、犯罪者が下見をする時のような……)
声をかけるべきだろうか。だが、黒神ははっきりと拒絶された。関わるな、と。やはり、速やかにここを立ち去るのが正解なのだろうか。
だが、その迷いは一瞬にして吹き飛んだ。
「おいあの姉ちゃん何を――!?」
朝影は両手を空にかかげ、そして、
全てを凍らせた。




