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第四章  そして完全体へ(3)

「あの光線を確実に当てられるようになるなんて、予想外の成長速度ね」


 ゴミ処理場の壁に隠れて、携帯電話の形をしたデバイスで戦闘の様子を録画していた朝影は、小さな声で呟いた。

 彼女の記憶の上では、黒神は『氣』の光線を放つと反動を受け、動けなくなるまではいかないものの狙いが逸れてしまう。だが、彼は登場する際に放った光線をしっかりと当てて、早苗が放った黒球を打ち消した。


 神原の戦いから確かに時間は経った。だが、特訓という特訓はしていない(主に黒神が多忙であったため)。それなのに、黒神は成長を見せたのだ。

 早苗の成長速度は確かに速い。だが、それは黒神にも言えること――否、黒神の方が速いのかもしれない。


「ま、とは言ってもそれはRPGゲームのような感覚なのよね」


 総合的に見れば早苗の方が優秀だろう。

 黒神は能力者になりたてであり、ゲームで言うなら開始時のレベル1の状態である。対して、早苗はレベル90くらいだろうか。とすれば、レベルアップのための経験値には絶大な差がある。黒神の成長速度の方が速くて当然なのだ。

 これが、成長速度のカラクリ。


「……味方を批判してどうするのよ」


 朝影はため息を吐いた。

 彼女が戦闘を録画している理由は、実験が実際に存在していることの証拠として神原に送信するためだ。

 確かにこの映像だけで実験の犯罪性が証明されるわけではない。が、そんなことはどうでもいい。


「ただ、そういう『疑惑』があるだけで十分。それだけで、隊長たちは動ける」


 そう、口実さえ作れればそれでいいのだ。事実が判明するのは研究所に突入した時である。


「治安維持部隊がそんな暴力的でいいのかっていう疑問はあるけど……でも、根本を潰さないとこの実験は止まらない。それに、相手がクロだってことはほぼ確定してるし」


 極力映像に声が入らないように、小さな声で朝影は呟いた。

 そして、録画に意識を集中しなおす。

 黒神は少しずつだが、優位に立ち始めている。そして、2つの光線が交わった直後、砂塵の中に早苗は倒れた。

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