第四章 そして完全体へ(1)
「コート、返してもらいに来たぜ」
黒神は早織の隣に立つと、両拳を合わせてそう言った。
早織と早苗は共に呆気にとられている。
「ど、どうしてここに……」
「つきみ……早織が、俺を呼んだんだろ?」
黒神は白い歯を見せて笑った。そして、少し前に出て、その背中を早織に見せた。
「黒神君、何しに来たのっ?」
「そうだな……遊びに来たんだよ。友達として」
早苗はこの実験のことを遊びだと、本気で信じているらしい。故に、黒神もこのような表現をせざるを得なかったのだ。
黒神の言葉に、早苗の目が輝く。語尾だけではなく、その目にも星マークが浮かんでいるような気がする。
「……でも、先生たちが許すかどうかっ」
笑いながらも、早苗は自分のデバイスを耳に挿した。そこから、しゃがれた声が聞こえてきた」
『続行だ、早苗。彼とも遊んであげなさい』
「だってさっ。じゃあ、行くよっ!!」
直後、激突があった。
「黒神君、ダメ!!」
早織は必死に叫んだが、その声は届いていない。
拳と拳の衝突の後、黒神は白いオーラを纏い、右足を突き出した。
「この能力はっ? 少なくとも私は知らないよ、これっ」
黒神の蹴りを避けた早苗は一旦距離を置いた。そして、両手を前に突き出して黒球を出現させる。
「でも、楽しいからいっかっ!!」
そして、無数の小さな黒球が黒神に向かって発射された。
「『包闇連弾』っ!」
「うお、まず――っ」
ドガガガガガッ!! と、黒神が逃げ込んだコンテナが削られていく音が響いた。
「お姉ちゃんと同じ手かなっ? そんなのは聞かないよっ!!」
その直後、一筋の黒い光線が黒神が隠れたコンテナを吹き飛ばす。光線も、コンテナも奇跡的に当たらなかったものの、黒神は恐怖から身震いした。
「『超包闇』ってところかなっ?」
「マジかよ……こりゃ、確かに神原よりも強いかもな」
黒神は知らないが、コンテナを吹き飛ばした『超包闇』は数分前に早織が放った『超水流』をコピーしたものだ。
そのことにもちろん早織は気付き、早苗の成長速度に恐怖を感じた。そして同時に、もはや自分ではどうしようもないのだという絶望も。
(私は、見ていることしか出来ないの? このまま、黒神君と早苗が戦うのを黙って見てるしか……)
彼女がどれだけ悩もうが、時は流れていく。戦いは、続いていくのだ。
今も、早苗は黒神の逃げる方向に向かって『超包闇』を連射している。地面が抉られ、黒神の後ろには吹き飛ばされたコンテナが山積みになっていく。
(……私の『超水流』は反動で動けなくなるのに、早苗は全く反動を受けてない。しかも連射だなんて)
実力では早苗の方が上。同じ時間を過ごしてきて、同じ内容の実験を繰り返してきたのに、ここまで実力に差が出るのか。能力の属性以外は全てが同じ人間のはずなのに。
(黒神君、お願い……負けないで!!)
祈ることしか出来ない。それほどまでに、この場において早織は無力なのである。




