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第三章  最終実験(8)

 1月9日土曜日。今日は学校も休みである。故に、黒神も動きやすいのだが、逆に言えば実験を行いやすい日でもある。


「了解。じゃあ、実験が始まり次第映像を送るわ」


 朝影は朝日が差し込むベランダ付近をウロウロしながら、神原と通信していた。

 実験の当事者から証言を得たものの、明確な物証が無いため、まだ『楽園解放』は動けないらしい。よって、実験の映像を撮って送り、そして彼らが動くという流れになった。


『研究所の場所は割り出してる。いつでも動けるぞ』


 神原との通信を切ると、朝影は台所にいる黒神に話しかけた。


「いつ実験が行われるか分からない以上、早めにゴミ処理場に行く必要があるわね」

「まあ、それはいいんだけどさ。なんでお前いつも制服なの? 折角服買ったのに……」


 黒神は真ん中によく分からない絵の描いてある白い長袖のシャツに、青いフード付きのジャンパー、そして黒いジーパンを履いている。だが、朝影は相も変わらず(一応室内では普通の服だが)制服姿だ。

 朝影はスカートを触ったりしながら、


「こっちの方が動きやすいし」

「そうなのか? まあ、別にいいんだけどさ……そうだ、一応月宮に連絡を入れてみる」


 黒神はデバイスを取り出すと、早織のデバイスへの通信を試みた。だが、彼女は今出れる状況にないのか、コール音が繰り返されるだけで反応は無い。


「やっぱり出ない、か」

「……覚悟は決まった?」

「最初から決まってるよ。月宮を、いや、月宮姉妹を助け出す。そのためにこの拳を握る」

「詩人みたいね。出来損ないの」

「出来損ないは余計だろ……」


 朝影は笑顔だった。


「そう言えば、なんでコートを貸したんだよ。しかも俺のを勝手に」

「あの格好だと寒いだろうし、何より……良い口実でしょ」


 もう1つあるんだけど、と朝影は言ったが、それは教えてくれなかった。またもや彼女はニヤニヤしていたが、その真意は黒神には分からない。


「さあ、行くわよ『英雄』さん」

「ああ!」


 黒神は自分の頬を叩いて、気合を入れた。そして、朝影と共に家を出る。

 と、その時黒神のデバイスから音が鳴った。


「メール?」


 差出人を確認すると、そこに表示されていたのは、


「つ、月宮!?」

「内容は?」

「……1文だけだ」



 ――助けて



 顔を合わせた2人はほぼ同時に走り出していた。

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