第三章 最終実験(4)
「ん……? 黒神君と、確か朝影さんだよね」
早織は目を擦りながら、体を起こす。そして、2人の顔を見て、辺りを見回して現在の状況を確認した。
「ここ、どこ……?」
ポニーテールが解け、ストレートになった茶髪の少女は未だに状況が掴めていないらしく、首を傾げた。
「俺の家だ。月宮、学校の近くのゴミ処理場で倒れてたからさ」
「……黒神君の家? へー、じゃあ、このベッドって……あわわわわわわわわわわわわっ!?」
ようやく状況を理解したのか、早織は顔を熟れたトマトのように真っ赤にしてオロオロしだした。どうしていいのか分からないのか、足をジタバタと動かしている。
「ま、普通の反応よね。ちなみに、最近は私が寝てるから安心していいわよ」
朝影がいることを再認識した早織は落ち着きを取り戻したが、彼女の言葉を聞くと、何故かがっかりしたような表情を見せた。
(こりゃ、私の予想は当たってるみたいね……)
早織はベッドから降りると、朝影に促されて彼女の隣に座る。その際、自分の格好に気付き毛布で体を隠した。
「さて、月宮。聞きたいことがある」
早織は黒神が言わんとしていることに気づいたらしく、彼が質問の内容を言う前に話し始める。
「知っちゃった、のかな。私と早苗のこと」
「ある程度の予測はついてるってところだ。俺は、いや俺たちは真実を聞きたい」
「クローン実験、いや……『二重能力試行実験』って呼ばれてる実験。それに参加してるわ。被験者は、早苗。私はオリジナルよ」
要するに、早苗がクローンで早織が遺伝子提供者ということだ。これで、黒神が一番聞きたかったことの答えは出た。
早織はさらに話を続ける。
「実験の内容は、とにかく戦闘を行うこと。それが能力成長の要素だから。そして、今回の実験が9672回目になるわ」
「ねえ月宮さん、いつ頃からその実験は始まったの?」
「私が4歳の時だったと思う。突然病院に連れて行かれて……その次の日に妹として早苗が紹介されたわ」
およそ13年、『二重能力試行実験』が行われていた。13年もの間、早織はそのことを抱え込んでいたのだ。
その事実に、黒神は胸に痛みを覚えた。
「ずっと、我慢してたのか。誰にも言えずに……」
「最初は、私も遊びだと思ってた。だってまだ私自身も能力は発現してなかったし。中学生になって、能力が発現してからは実験回数も増やされて、私もただの遊びじゃないって気づいた。でも、もう遅かったの。デバイスもいじられてたし、それに何より、私は早苗のことを本当の妹だと思ってたし……」
少女の瞳から大粒の涙が零れ始める。しかし、彼女はそれを拭おうとも隠そうともしなかった。段々と嗚咽が混じってきたが、それでも話を続ける。
「早苗は、実験のことを遊びだと今も思ってる。だから、戦闘中でもっ、楽しそうな顔をするの……そんな顔、見てると、私は……」
自分は辛い状況なのに、相手は笑っている。姉との楽しい遊びだと思っている。
早苗の存在が、妹として、大切な人として大きなものとなってしまった早織は、複雑な気持ちだったに違いない。
「楽しそうな早苗を見てると、どうしても、裏切れなくて。それに、もし逃げたとしても、デバイスのせいで、すぐに捕まる……だから私は、実験を継続するしかなかった」
黒神には、想像も出来ない世界だった。
永遠と繰り返される戦闘。だが、それを楽しそうに行う妹。
「最近は、苦しむ私のほうがおかしいのかなって、思うようになったかな」
「だからこそ、部活が安息の地になったってことかしら」
「そこまで気づいてたんだね……うん、歓談部で話をしてる時間が、唯一実験のことを忘れられる時間だった。だから、早苗を学校には来させなかったの」




