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第三章  最終実験(2)

「気絶ではないみたいね……眠ってるだけ」


 早織の姿を見て、朝影はそう結論付けた。服こそ破れたりしているが目立った外傷が無いからだろう。


「とはいえ、このままってわけにもいかないわね」

「そうだな。こんな姿でここにいたら風邪を引くし……一旦家に連れて帰るか?」


 黒神の提案に、朝影は顔をしかめた。


「『また』無抵抗の女の子を連れ込む気?」


 朝影も道端で気を失っているところを黒神に発見され、彼の部屋に連れて行かれた経験がある。黒神は親切心で言っているのだろうが……。


「でも、ここに放置するわけにもいかないだろ?」

「彼女の家は分からないの?」

「……聞いたことないな」

「はあ、分かったわ。貴方の家に連れて行かせるわけにはいかないから、私の家に――」


 言葉の途中で、朝影は自分のミスに気がついた。そう、今現在彼女は居候しているのだ。それも、黒神の家に。

 つまり、どっちにしろ連れて帰るのは彼の家ということになる。


「それしか、方法は無いみたいね……仕方ない。でも、変なことしようとしたら凍らせるから」

「しねぇよ!」

「前科アリ。信用できない」

「まだ根に持ってるのかよ!? だからあれは悪かったって!」

「ふん、口では何とでも言えるのよ。とにかく、早く行くわよ」


 そう言うと、朝影はスタスタと正門の方へ歩いていく。


「お、おい朝影! もしかして俺がおんぶするのか?」

「当たり前でしょ」


 信用できないと言っておきながら任せる辺り、どこかおかしい気もするが、黒神はため息を吐きながらぐったりしている早織を背負う。なるべく柔らかい肌に触れないよう心がけるが、そうすると彼女のお尻を触ってしまうため、仕方なく(強調)太腿の辺りに手を添えた。


(にしても、ここで何が起こってたんだ? 起きたら、詳しく話を聞かなきゃいけないな)


 クローン実験。『二重能力』。月宮姉妹。

 早織から話を聞けば、その全てが繋がるだろう。


(正直、この推測は合ってると思う。気になるのはどちらがクローンなのか。話を聞くと言っても、所謂答えあわせだよな……)


 さきほど走ってきた道を、黒神と朝影は歩いて戻っていく。大通りでは少し注目を浴びたが、何事もなく自宅に辿り着くことができた。

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