第三章 最終実験(1)
ある日の夜。
とある少年と少女は街灯や店の明かりで照らされた大通りを走りぬけ、これまた街灯で照らされている大通りよりも少し暗い路地を駆けていた。
「はっ、はっ……くそっ、キツイ!!」
「やっぱり貴方、体力不足ね! 今度からはスタミナを強化しないと!!」
黒神終夜は荒い息を吐きながら走っている。対して朝影光は一定のリズムで呼吸をしながら走っている。どちらが速いかはすぐに分かるだろう。
「そこを右、そしたらゴミ処理場が……」
目の前の角を曲がると、大きな工場のような建物が見えた。明かりは無く、暗闇に包まれている。
「ここが、ゴミ処理場?」
「正確には、使われなくなったゴミ処理場……だ。げほっ、ごほっ!!」
「ちょっと、これから戦いになるかもしれないのに、しっかりしてよ」
狼のような鋭い目をした少年は膝に手をついて、呼吸を整える。
「はっ……はっ……よ、よし、落ち着いた。行こう」
「了解!」
ゴミ処理場の正門は開いていた。廃墟と化しているとはいえ、ここは有害物質の漂う場所。正門が開いていることはないはずだ。つまり、
「誰かいる。いや……月宮か」
彼らがここに来た理由は、月宮姉妹が関与していると思われる実験がここで行われているという情報を得たからだ。正門が開いているというとは実験が行われている最中、若しくは実験終了直後と考えるのが妥当だ。
「朝影、右に行ってくれ。俺は左に行く」
「分かった。何かあったらデバイスに」
そう言い、彼らは二手に別れた。敷地はかなり広い。こちらのほうが効率がいいだろう。
(にしても、明かりが無い……こんな状況で実験なんかやってるのか? やっぱり、もう終わってる可能性のほうが高いな)
しばらく歩くと、学校の運動場ほどの広さの場所に出た。そこは照明塔で照らされているためかなり明るい。木箱やコンテナが所々に放置してあり、地面は砂や埃に塗れている。
「ここ、なのか。実験が行われてる場所って」
この広さなら、どんな実験を行うにも適しているだろう。それに、木箱やコンテナには深い傷が付いていた。
「……月宮はいるのか?」
辺りを見渡すと、ゴミ処理施設の壁にもたれかかるようにして座り込んでいる少女の姿を見つけた。
「――月宮!!」
早織なのか早苗なのかは分からないが、いつものポニーテールは解けて綺麗な茶髪は埃塗れになっている。制服も所々破れており、場所によっては肌が露出していた。
「しっかりしろ月宮!!」
黒神は彼女のところに駆け寄り、体を揺する。だが、返事はない。
(こんなに服や髪はボロボロなのに、体には一切傷が無い……一体どういうことだ?)
少なくとも、服が破れている部分には傷が無ければおかしい。
(回復を施されたってことか? とにかく、朝影に連絡をしないとな)
黒神は携帯電話型のデバイスを取り出し、反対方向に行った朝影に連絡をする。その数分後、朝影が到着した。




