第二章 疑念と確信(8)
不知火高校の近くには、少し前まで使われていたゴミ処理場がある。敷地はかなり広く、学校の運動場ほどの広さがある。
ここが『表』なのか『裏』なのかははっきりしないところではあるが、能力者の基地となっていないことを鑑みるとギリギリ『表』に入るのだろうか。どちらにせよ、一般人が近づくような場所ではない。
「もう終わりなのっ? お姉ちゃんっ」
ゴミ処理場内には、勝手に設置されたであろう照明塔で照らされていて、視界は確保されている。そして、その光に照らされて、2人の少女が戦闘をしていた。
2人はどこからどう見ても同一人物であり、口調からでしか区別できない。語尾に星マークが付きそうな口調なのが月宮早苗、もう片方が月宮早織である。
「がはっ……ま、まだ……よ」
早織は左腕を押さえながら足元が覚束ない状態で立ち上がる。左腕は骨折しているのか、垂れたまま動かそうとしない。
その整った顔は苦痛に歪み、額や頬からは血が流れている。彼女の傷はそれだけではなく、腕や首、胸部や腹部、更には太腿や膝からも出血している。要するに全身ボロボロなのである。
着ている制服も所々破れ、下着や肌が露出している部分がある。
「でもさ、もう辛そうじゃんっ。遊びなんだし、もうそろそろ終わろうよっ」
対して早苗は埃こそ被っているものの、無傷である。彼女は近くにあった木箱の上に座ると、ため息を吐きながら、
「お姉ちゃんが辛そうなのは嫌だもんっ。また明日、遊ぼっ?」
この状況を遊びと言う辺り、早苗の感性が壊れているような気がするが、そうではない。彼女は本気でそう思い込んでいるのだ。
「……ふふ、いつまでたっても遊び遊び……もう、疲れたよ早苗」
例え当人がそう思い込んでいるとしても、それを聞く側からしてみればとんでもない話だ。早織はフラフラしながらも、早苗に向かって突進していく。
そして、動かせる右手から水の弾を数発発射した。
「『水冷弾』!!」
「その技は見飽きたよっ」
早苗も同じように右手を突き出す。しかし、彼女の右手から放たれたのは水ではなく、黒いオーラのようなものだった。
「『包闇弾』っ」
早苗の右手から放たれた黒いオーラは早織の水を弾き飛ばしながら、早織の体を打ち抜く。
「が、ぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああ!!」
少女の悲鳴が響き渡った。彼女は肩や腹を打ちぬかれ、うつ伏せに倒れてしまう。
「……ねえ、今日はもう止めよっ。これじゃ学ぶことなんて無いよっ」
早苗は倒れた早織を見て、自分のコードレスのイヤホン型デバイスに向かって話しかける。デバイスからはしゃがれた男性の声が聞こえてきた。
『そうだな。今日はここまでにしとくか……ふむ、やはり最後の一押しは難しいか』
「もう学ぶことは無いのに、まだ続けるのっ?」
『貴様が「完全体」に成っていない以上、まだ続けるさ。明日は休日だし、また明日に持ち越すとしよう。オリジナル、貴様は新しい戦法を考えておけ』
早織からは返事が得られなかった。だが、男は全く気にせずに通信を切ってしまった。
早苗は木箱から降りると、早織に駆け寄り、
「お姉ちゃん、しっかりしてよっ! うーん、やりすぎちゃったかなっ」
揺するとうめき声が聞こえたので、一旦は安堵したものの早く治療しないと早織は死んでしまう。
「ちょっと、回復係早くしてよっ!」
少しすると、白い防護服のようなものを着た人間が4人ほど駆け寄ってきた。彼らは早織に向かって緑色に光る手をかざす。すると、早織の傷はみるみる消えていき、遂には服が破れているだけで無傷の状態にまでなった。
「お姉ちゃん、明日も遊ぼうねっ!」
まだ起き上がらない早織に対して、早苗は優しい声で告げた。そして、防護服の集団と共にゴミ処理場から出て行ってしまった。
その姿が見えなくなると、早織は匍匐前進のような動きで近くの壁まで移動し、その壁にもたれかかる。
「……9672回目……いつになったらこの地獄から解放されるのよ……」
か細く、震えた声は誰にも届かない。それでも、彼女は呟く。こうでもしないと、精神を保っていられないのだろう。
「……助けて」




