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第二章  疑念と確信(6)

 彼女が、月宮早織が抱えているものとはなんなのか。黒神には予想がつかなかった。

 なので、彼は一旦家に帰り、朝影に相談することに決めた。


「少なくとも、朝影のほうが俺よりもエデンのことについては詳しいはずだ」


 確かに黒神はエデンで生まれ育った人間である。しかし、今まで無能力者であったが故に、エデンの内部事情についてはよく分かっていない。その辺りは外界の人間であっても、エデン破壊のための活動をしていた朝影のほうが詳しいだろう。


 黒神は部室の床に置いていた通学バッグを取り、部室を出た。

 夕日が沈みかけて、辺りは暗くなり始めている。


「急がないと……」


 黒神は帰路を急ぐ。自宅についたのはおよそ10分後であった。

 ドアを開けると、ベッドに寝転がってブツブツと何かを呟いている朝影が目に入った。


「朝影、ちょっと相談したいことが……」

「ん、おかえり。私も、話したいことがあるわ」


 ベッドから起き上がり、朝影は床に座る。黒神もバッグを適当な場所に置くと、朝影とテーブルを挟んで向かい合うようにして座った。


「えっと……朝影からどうぞ」

「分かったわ」


 普通ならここで、いやそっちが先に、だのと譲り合いが始まるのだが、朝影は黒神に譲られると真剣な表情で話し始めた。


「実は朝、隊長が来たの」

「神原が……?」

「ええ。今、ここホープでとある実験が行われてるらしいの。その実験が、クローン実験。文字通りクローンを用いた能力実験よ」


「クローン……」

「目的は、『二重能力』――つまり1人の人間が2つの能力を持つことが可能かどうかを確かめること。隊長は、これを阻止するために協力してくれって言ってた」


 そこまで言うと、朝影は背筋を伸ばした。


「これは、私の推測だけど……その被験者は、月宮姉妹。理由は、言わなくても分かるわよね。私は、あの2人のどちらかがクローンだと思ってる」


 その瞬間、黒神の脳に電撃が走った。

 似すぎる姉妹。2日連続で夕方に突然の別れ。そして、早織のあの悲しそうな表情。


 ――9672回目


「朝影、その実験は一体何回くらい行われてるんだ」

「分からないわ。でも、とてつもない回数のはずよ。『二重能力』自体が未だ未確認の現象だし、そう簡単には発現しないはず。それに、私が外界にいるときからエデンが『二重能力』に着手してることは知ってたから」


 繋がった。やはり帰ってきて正解だったと黒神は思う。


(もちろん、状況証拠だけだ。確定とは言えない……でも、この偶然は出来すぎてる!)


「それで、貴方の話は?」


 朝影はもう話すことがないのか、今度は黒神に問うた。


「実はな――」


 黒神の話を聞いた朝影は、自分の仮説を確信したようだ。大きくて綺麗な目を見開き、ゴクリと喉を鳴らす。


「やっぱり……か。だからあの時、学年が」


 朝影が疑念を抱いた最初の理由は、月宮姉妹が似すぎていたからではない。それは、バードで出会った早苗との会話だ。

 彼女は自分を高校2年生だと言っていた。だが、姉であるはずの早織も高校2年生だった。黒神と同学年だったので間違いない。そして、彼女たちは自分たちを『姉妹』だと言った。


(普通なら、双子って言うはず)


 そのことを話すと、黒神は首を傾げた。彼は早苗の学年を中学3年生と聞いていたらしい。なぜ姉妹間で学年を間違える必要があるのか。これで、朝影の疑念は確信へと変わったのだ。


「とにかく、1度隊長に連絡を……」


 朝影が腕時計型のデバイスに触れようとした瞬間、デバイスに着信が来た。相手は、神原だ。

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